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第一部

幸福と信頼の石【8】

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 突然のマキウスの告白に、言葉を失ったモニカは、目を大きく見開いて、マキウスとマキウスが口づける手を交互に見つめていた。
 やがて、マキウスは顔を離すと、モニカの手をどこか名残惜しそうに解放した。
 その場で立ち上がると、これまで見たことがない様な、相好を崩した年相応な笑みを浮かべたのだった。

「無理にとは言いません。けれども、少しずつ分かり合えればと……」
「私も知りたいです! マキウス様のことを!」

 打てば響くように、モニカが即答したのがおかしかったのだろう。
 マキウスは面食らったようだった。
 そんなマキウスの顔がおかしくて、モニカが吹き出すと、二人は顔を見合わせて笑い合ったのだった。

 ひとしきり笑った後、ようやく落ち着いたモニカは目尻に溜まった涙を拭く。

「意外です。マキウス様にそんな情熱的な一面があったなんて」
「私も驚いています。貴女がすぐに返事をするとは思いませんでした。貴女はいつもどこか遠いところを見ているようだったので」
「そんなつもりはなかったんですが……すみません……」
「いいえ。そういうつもりで言った訳ではありません」

 ようやく、マキウスも落ち着いたのか、息を整えるとモニカをじっと見つめた。

「いつも遠いところを見ているので、貴女の世界に想い人でもいるのではないかと勘繰っていたところです」
「そんな人いません! そんな人は……」
「安心しました。それなら、これからは遠慮しなくていいということですね。貴女に気兼ねしなくていいと……」
「今までは、気兼ねしていたんですね……」
「ええ。私は貴女に居場所の提供と幸せを与えることを誓いましたが、そこに愛は誓っていなかったので。
 あの時は、もしかしたら『貴女』には想い人がいて、私を愛する様に強要したら、貴女はここを出て行ってしまうのではないか、壊れてしまうのではないかと思い、言いませんでした」

 マキウスにモニカじゃないとバレてすぐ、そんな話をしたことを思い出す。
 確かにあの時、マキウスは自分を愛する様に強要してこなかった。
「私の妻として、ここに残ってくれるなら」と言いつつも、「妻」としての役割を果たすように強要しなかった。

 それはマキウスが遠慮して言わなかったからだろう。
 あの時は、自分のことで手一杯になっていて、何も気付けなかった。
 これまでも、マキウスは男爵としての役割以外にも、モニカが果たすべき役割までーー「妻」が果たすべき役割までやっていてくれたというのに。

「私……」
「ですが、いないと分かって安心しました。それなら、もう遠慮はしません。
 私は貴女を愛しています。貴女が私を好きになって、本当の夫婦になれるように、貴女に無限の愛を囁きます。昼も、夜も、関係なく。身も心も、深く結ばれるように……。
 その為にも、私は貴女を知りたいですし、貴方にも私を知って欲しいと思っています。
 この、マキウス・ハージェントのことを……」
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