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第一部

御國の思い出・上【3】

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「……ニカ様! モニカ様!」

 モニカは肩を揺すられて目を覚ました。

「大丈夫ですか!? どこかお加減でも……?」

 焦点があってくると、目の前にはニコラを抱いたアマンテがおり、心配そうにモニカの顔を覗き込んでいたのだった。

「だ、大丈夫です! すみません……」
「いいえ。それならよろしいのですが……」

 モニカの言葉に、アマンテは一安心したようだった。
 母親をじっと見つめていたニコラをベビーベッドに寝かせると、広げていた赤ちゃん用のおもちゃーー全てヴィオーラからの贈り物であった。を片付け出したのだった。

 ヴィオーラとマキウスが話してから、数日が経っていた。
 二人は相変わらず忙しそうだが、ヴィオーラがモニカとニコラに会いに屋敷にやって来る回数も、マキウスが嬉しそうにヴィオーラの話をしてくれる回数も増えた。
 昨日もヴィオーラを交えて、モニカたちは昼食を共にしたのだった。

「モニカ様、今日のニコラ様の離乳食はいかが致しますか?」
「また私が食べさせてもいいですか。
 マキウス様も気になるそうで、昨晩、初めて離乳食を食べた時のニコラの様子をたくさん聞かれたんです。
 今夜も聞かれると思うので、その時のためにも私がやっておきたいんです」
「承知しました」

 アマンテは意味有り気に微笑むと、また片付け出したのだった。

 昨日の昼間、たまたまこの近くで仕事をしていた姉弟が揃って屋敷に顔を出した。
 丁度、屋敷ではモニカたちがニコラに離乳食を食べさせようと用意をしている時だった。
 そんな現場に遭遇した姉弟は、物珍しさもあるのか、興味津々といった様子で、離乳食を食べるニコラを見ていった。

「それにしても、ニコラは何でも食べますね。いっつも物足りないような顔をして」
「そうですね。きっと、よく食べて、よく成長されて、旦那様とモニカ様の自慢のお嬢様に育つと思いますよ」

 離乳食を食べさせる時は、最初は小指の爪よりも少ない量だけ与えて、ニコラの反応を伺う。
 この世界には無いかもしれないが、食物アレルギーを起こさないように、ニコラの様子を見ながら、昼に一回だけ離乳食を与えていた。

 これは元の世界で知ったが、初めて食べさせる食材は、赤ちゃんの様子を見て、最初は同じ食べ物を小指の爪より少ない量の離乳食を与え、次は小指の大きさくらいの量を与えて、と次第に量を増やしていく。
 一口分食べられるようになったら、今度は別の食材もまた小指の爪より少ない量から始めて様子を見る。といったことを繰り返していた。

 今はまだすり潰した野菜や魚を食べさせているが、アマンテによると、万が一を考えて、食物アレルギーを起こしそうな小麦や卵、乳製品などを食べさせる時は、医師がすぐ駆けつけてくれる昼間の時間帯に食べさせた方がいいとのことだった。
 マキウスの話では、近くに医師が住んでいるので時間帯は気にしなくていいとのことだが、それでも夜半に呼びつけるのは悪い気がした。

 屋敷専属の料理人による離乳食だけあって美味しいのか、連日のスプーン慣れの成果が出ているのか、それとも食い意地が張っているだけなのか、ニコラは常に物足りなさそうに食べていた。
 今はまだ決まった時間に一回だけ与えて、一か月くらいしたら一日二回与えるつもりだった。

 そんな食い意地の張っているニコラの様子が可愛いのか、姉弟が終始にこやかな表情だったのを覚えている。
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