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第一部

丸い空の向こう側【2】

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「それは良かったです。でも、私は大したことはしていません。お二人がきちんと自分の気持ちを伝えられたからお話し出来たんです」

 お互いに自分の思いを相手に伝えられたと聞き、モニカはどこか肩の荷が降りた気がした。

 近くにいて、お互いに同じ思いを持っていて、もう少しで分かり合えそうなのに、それが出来ないのは苦しい。
 それを知っているモニカは、二人以上にもどかしくて堪らなかった。

「私が勝手に思い込んでいただけだったようです。姉上は姉上で、私のことを思っていたみたいです」
「マキウス様、誰かとの間に壁を感じた時、それは相手が壁を作っているのではなく、自分自身が壁を作っているらしいです」

 モニカの言葉に、マキウスは綺麗に整えられた両眉を上げたようだった。

「そうなんですか?」
「自分が壁を越えて相手に近づかなければ、相手はやって来ない。もし、お互いに相手を理解したいと思っているのなら尚更」

 片方だけが相手に近寄っても駄目。
 相手が壁を作っていたら近づけない。
 けれども、自分も壁を越えて相手に近寄ったら相手に近づける。

 そうやって、互いに自分が作った壁を越えることで、人は初めて分かり合えるのだろう。

「私とマキウス様がこうやって話しているのも、お互いに壁を越えて相手に近寄ったからだと思っていますよ」

 モニカが微笑むと、マキウスは優しく見つめていた。

「時折、私よりも貴女が大人に思えます。まるで、姉上やアマンテ、ペルラと話しているようです」
「ん~。そうですか? 御國と同い年でも、お姉様の方がずっと大人な気がします。やっぱり、貴族で騎士だからでしょうか……」

 そう言ってモニカが笑うと、何故かマキウスはギョッとしたように驚いた。

「……貴女と姉上は同じ歳なのですか?」
「ええと、お姉様ってマキウス様より二歳上なんですよね? マキウス様は二十四歳と聞いていたので……。ということは、お姉様は二十六歳ですよね? 私も二十六歳でしたから」

 元の世界で階段から転落した時、御國は二十六歳だった。
 もう少しで誕生日が来るという時に、死んだのだった。

「そ、そうだったんですね……」
「でも、そんな『私』よりも、マキウス様の方がしっかりしています。
 私がマキウス様の歳の頃なんて、まだまだ周囲に甘えていました」

 モニカはーー御國がマキウスの年齢だった頃を思い出す。
 しっかり者と言われるには程遠く、まだまだ周囲に頼って、甘えていたような気がした。

「私など、まだまだ未熟者です」
「そうですか? そんなことはないと思いますよ」

 そうして、モニカは空を見上げた。
 そこには限りある丸い空が広がっていた。

「明日も晴れなんですよね。この世界の天気予報は、絶対当たりますから」

 この世界に来て、空が丸いと気づいてからは、モニカは時折、空を眺めるようにしていた。
 マキウスから、この国が周囲から切り離された人工的に作られた国と聞いてからは、空が丸い理由に納得がいった。

 それでも、この国の天候は元の世界と何も変わらなかった。
 朝が来て、昼になって、やがて夕方になって、夜が来る。
 晴れの日があれば、雨の日もある。

 昼は人工の太陽が昇り、時には人工的に生み出された曇り空となり、雨が降った。
 夜になるとプラネタリウムの様に、ドーム型の丸い空に幾千もの星々が輝く。
 夜更けになって極端に明かりが減ると、細かな糠星まで見えるような、幻想的な星空が広がっていた。

 人工的な国なのに、何故こんなにも地上から空を眺めるのと同じ天候なのか、不思議に思っていたが、マキウスや使用人たちから聞いて、ようやく判明した。

 この国は空に浮かんでいるが、かつて地上で暮らしていた頃の空を忘れないように、建国時に、天候は全て地上と同じように作ったらしい。
 太陽や雨の恵みといった自然を享受し、感謝と共生していた頃をいつまでも語り継げる様に、快晴の日から台風の日まで、この国の最初の住民たちは人工的に生み出したのだった。

 また、人の手で管理されているだけあって、天候は国民に事前の連絡なく変わることはなく、あらかじめ国から知らされていた天気通りになるらしい。
 国はあらかじめ月々の天気を国民に知らされており、国民はその天気に合わせて仕事や活動が出来る。
 急な雨天決行や中止といったことは、絶対無いらしい。

 元の世界でも、同じように確実に天候がわかれば、洗濯物や遠出をする時に、大助かりするだろう。
 運動会や体育大会も中止にならずに済んだかもしれないと思うと、羨ましささえある。
 
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