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第一部
魔法石と認証【3】
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「隊長と何を話したんですか?」
「何とは……魔法石の話をしていましたが」
「それにしては、隊長は随分と長居していたと使用人から聞きましたが」
「魔法石の話以外だと……マキウス様のことを話しました」
自分の名前が出てくると、マキウスは顔を曇らせたのだった。
「私の話ですか?」
「はい。マキウス様はどうかと聞かれたので」
モニカはヴィオーラと話した一部始終をマキウスにも話した。
その間、マキウスは眉間に皺を寄せていたのだった。
「ヴィオーラ様は、身分や階級と関係なくマキウス様と子供の頃のような関係に戻りたいと仰っていました。マキウス様はどう思っているんですか?」
「どうとは。隊長も私も、もう大人です。お互いに守るべきもの、背負っているものがあります。子供の頃のような関係は難しいでしょう」
「でも、マキウス様とヴィオーラ様は姉弟ですよね?」
間髪入れずに続けたモニカの言葉に、マキウスは視線を逸らした。
「お互いにご両親を亡くされている以上、お互いが唯一の家族ですよね。立場もあるとは思いますが、ヴィオーラ様のことは気にならないんですか?」
「……気になりません。隊長の元には、共に幼少期を過ごしてきたアガタや、アマンテとアガタの父親もいます。私が気にする必要はありません」
首を振るマキウスに、モニカはため息をついたのだった。
「……本当にそう思っているんですか?」
「どういうことでしょうか?」
モニカの言葉に、マキウスは険しい目つきになった。
その剣幕に怯みそうになるも、話しを続けたのだった。
「マキウス様はヴィオーラ様の話をする時だけ、いつも意地を張っているような気がします。
自分の立場を言い訳にしているだけで、本当はヴィオーラ様のことが心配じゃないんですか?」
「意地など、私は……」
「ヴィオーラ様の話をすると、すぐに話題を変えようとしますよね。触れたくないというように。本当は、マキウス様も気にされていますよね。ヴィオーラ様のーーお姉さんのことが」
確実な根拠があるわけではない。
ただ、モニカがマキウスを観察していて、ヴィオーラに関する話をする時だけ、マキウスの様子がおかしくなるから、言ってみただけだった。
眉間に皺を寄せて、黙ってしまったマキウスにモニカは優しく声を掛けた。
「マキウス様、ヴィオーラ様とちゃんと話しをしてみませんか?」
「ですが、私は……」
「マキウス様」
モニカはマキウスの顔を覗き込みながら訊ねた。
「ヴィオーラ様はお嫌いですか?」
マキウスは逡巡したようだった。
しばらく迷う様な素振りを見せた後に、ようやく首を振った。
「それなら、マキウス様の気持ちをヴィオーラ様に伝えてみましょう。機会は私が作ります」
マキウスは俯いたまま、「ですが」と呟いた。
「隊長と……。姉上と、何を話したらいいのか、私にはわかりません……」
「なんでもいいんです」
モニカの言葉に、マキウスは顔を上げた。
「些細なことでいいんです。ヴィオーラ様のことが心配だと言うだけでいいんです。マキウス様の言葉でお話しすれば。 ……全てを失ってからでは遅いですから」
モニカのーー厳密に言えば御國の、事情を思い出したマキウスは、ハッとした顔をした。
死んでしまった以上、モニカが元の世界にいる家族に会うことは叶わない。
そんなモニカの身からすれば、マキウスとヴィオーラは羨ましくもある。
取り返しがつかなくなる前に、まだ二人には話す機会があるのだから。
モニカはマキウスに身体を寄せると、寄りかかった。
「大丈夫です。私が傍についています。それに、マキウス様なら大丈夫だと信じています」
「だって」とモニカは呟いた。
「……私を信じてくれた貴方を、今度は私が信じます」
「モニカ……!」
マキウスはアメシストの様な目を見張ると、モニカの肩を抱き寄せてくれたのだった。
「ありがとうございます」
マキウスの優しい言葉を聞きながら、モニカはそっと目を閉じたのだった。
「何とは……魔法石の話をしていましたが」
「それにしては、隊長は随分と長居していたと使用人から聞きましたが」
「魔法石の話以外だと……マキウス様のことを話しました」
自分の名前が出てくると、マキウスは顔を曇らせたのだった。
「私の話ですか?」
「はい。マキウス様はどうかと聞かれたので」
モニカはヴィオーラと話した一部始終をマキウスにも話した。
その間、マキウスは眉間に皺を寄せていたのだった。
「ヴィオーラ様は、身分や階級と関係なくマキウス様と子供の頃のような関係に戻りたいと仰っていました。マキウス様はどう思っているんですか?」
「どうとは。隊長も私も、もう大人です。お互いに守るべきもの、背負っているものがあります。子供の頃のような関係は難しいでしょう」
「でも、マキウス様とヴィオーラ様は姉弟ですよね?」
間髪入れずに続けたモニカの言葉に、マキウスは視線を逸らした。
「お互いにご両親を亡くされている以上、お互いが唯一の家族ですよね。立場もあるとは思いますが、ヴィオーラ様のことは気にならないんですか?」
「……気になりません。隊長の元には、共に幼少期を過ごしてきたアガタや、アマンテとアガタの父親もいます。私が気にする必要はありません」
首を振るマキウスに、モニカはため息をついたのだった。
「……本当にそう思っているんですか?」
「どういうことでしょうか?」
モニカの言葉に、マキウスは険しい目つきになった。
その剣幕に怯みそうになるも、話しを続けたのだった。
「マキウス様はヴィオーラ様の話をする時だけ、いつも意地を張っているような気がします。
自分の立場を言い訳にしているだけで、本当はヴィオーラ様のことが心配じゃないんですか?」
「意地など、私は……」
「ヴィオーラ様の話をすると、すぐに話題を変えようとしますよね。触れたくないというように。本当は、マキウス様も気にされていますよね。ヴィオーラ様のーーお姉さんのことが」
確実な根拠があるわけではない。
ただ、モニカがマキウスを観察していて、ヴィオーラに関する話をする時だけ、マキウスの様子がおかしくなるから、言ってみただけだった。
眉間に皺を寄せて、黙ってしまったマキウスにモニカは優しく声を掛けた。
「マキウス様、ヴィオーラ様とちゃんと話しをしてみませんか?」
「ですが、私は……」
「マキウス様」
モニカはマキウスの顔を覗き込みながら訊ねた。
「ヴィオーラ様はお嫌いですか?」
マキウスは逡巡したようだった。
しばらく迷う様な素振りを見せた後に、ようやく首を振った。
「それなら、マキウス様の気持ちをヴィオーラ様に伝えてみましょう。機会は私が作ります」
マキウスは俯いたまま、「ですが」と呟いた。
「隊長と……。姉上と、何を話したらいいのか、私にはわかりません……」
「なんでもいいんです」
モニカの言葉に、マキウスは顔を上げた。
「些細なことでいいんです。ヴィオーラ様のことが心配だと言うだけでいいんです。マキウス様の言葉でお話しすれば。 ……全てを失ってからでは遅いですから」
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「だって」とモニカは呟いた。
「……私を信じてくれた貴方を、今度は私が信じます」
「モニカ……!」
マキウスはアメシストの様な目を見張ると、モニカの肩を抱き寄せてくれたのだった。
「ありがとうございます」
マキウスの優しい言葉を聞きながら、モニカはそっと目を閉じたのだった。
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