34 / 247
第一部
初めての外出【3】
しおりを挟む
「アマンテさん、私たちが出かけている間、ニコラをお願いします」
「勿論です。モニカ様、旦那様とのお出掛けを楽しんできて下さいませ」
モニカはニコラのクリームパンにも似た小さな手を握ると、軽く振ったのだった。
「ニコラも、いい子で待っていてね」
手足をバタバタさせて、ニコラは笑ったのだった。
「アマンテさん、もし、私が居ない間にニコラが騒いでしまったら、私の部屋のベッドにニコラを寝かせて下さい」
「ベッドにですか?」
「はい。私の匂いが残っていると思うので、ニコラも落ち着くと思うんです」
ニコラに限らず、赤ちゃんの中には、母親の匂いや温もりを感じられるベッドに寝かせたり、タオルを渡したりすると、落ち着くことがあるという話を聞いたことがあった。
元の世界では、家事などで手が離せない時、泣き出した赤ちゃんを落ち着かせる為に、母親が愛用しているタオルや衣服を渡して、赤ちゃんを泣き止ませたという話を聞いたことがあった。
「わかりました。その時はそうします」
「お願いします」
どこか半信半疑なアマンテにニコラを託すと、モニカは馬車の横で待っていたマキウスの元に向かった。
馬車に手をかけて乗ろうとすると、マキウスがそっと制したのだった。
「モニカ、こういう時は男性にエスコートしてもらうものです」
「そうなんですね……。すみません。知らなくて……」
マキウスが差し出してきた白手袋の手を、モニカは見つめた。
そうして、同じく白手袋をした自分の手を伸ばすと、マキウスの手に重ねたのだった。
「足元に気をつけて、ゆっくり乗って下さい」
「はい。ありがとうございます……」
顔が赤くなっていくのが、モニカ自身にもわかった。
モニカはマキウスの手を取ると、馬車に乗り込んだのだった。
元の世界でたまに乗っていた自家用車の座席に比べて、若干、ごわごわした椅子に座ると、マキウスも馬車に乗り込み、向かいの席に座った。
「騎士団本部に向かって下さい」
そうして、マキウスが合図を出すと、馬車はゆっくり走り出したのだった。
馬車の窓から小さくなっていく屋敷を見ていると、マキウスが声を掛けてきた。
「育児に詳しいようですが、以前も経験をされたことが?」
マキウスの指す「以前」が、御國の頃だと気づいたモニカは首を振った。
「いいえ。ただ、いつの日か結婚して、子供が生まれた時の為に、何冊か育児に関する本を読んでいたんです」
御國だった頃は、自分もいつの日か素敵な男性に出会って、恋をして、結婚をして、子供を産むものだと思っていた。
そんな日を夢見て、時間がある時には育児や子育てに関する本を読んでいたのだった。
「そうでしたか……」
どこか安心したように、マキウスは肩の力を抜くと視線を逸らした。
モニカは慌てて、「でも」と続けたのだった。
「マキウス様の様な素敵な男性に出会えて、ニコラという可愛い娘が出来て、私は大満足です。……死ななくて良かったと思っています。この知識も無駄にならないですし……」
モニカが微笑むと、マキウスは虚をつかれたようだった。
そうして、「全く」と言って、息をついたのだった。
「貴方には敵いそうにありません」
「私も、マキウス様の懐の深さには敵いません.マキウス様じゃなければ、御國の話を信じてくれなかったと思います」
相手がマキウスでなければ、モニカの話を荒唐無稽な作り話だと言って、信じてくれなかっただろう。
モニカの話を聞いて、モニカを信じてくれたのは、マキウスの懐の深さによるところが大きい。
(私も、何があってもマキウス様を信じよう)
マキウス様が御國を信じてくれたように、御國もマキウス様を信じよう。
モニカは、そう心に決めたのだった。
「勿論です。モニカ様、旦那様とのお出掛けを楽しんできて下さいませ」
モニカはニコラのクリームパンにも似た小さな手を握ると、軽く振ったのだった。
「ニコラも、いい子で待っていてね」
手足をバタバタさせて、ニコラは笑ったのだった。
「アマンテさん、もし、私が居ない間にニコラが騒いでしまったら、私の部屋のベッドにニコラを寝かせて下さい」
「ベッドにですか?」
「はい。私の匂いが残っていると思うので、ニコラも落ち着くと思うんです」
ニコラに限らず、赤ちゃんの中には、母親の匂いや温もりを感じられるベッドに寝かせたり、タオルを渡したりすると、落ち着くことがあるという話を聞いたことがあった。
元の世界では、家事などで手が離せない時、泣き出した赤ちゃんを落ち着かせる為に、母親が愛用しているタオルや衣服を渡して、赤ちゃんを泣き止ませたという話を聞いたことがあった。
「わかりました。その時はそうします」
「お願いします」
どこか半信半疑なアマンテにニコラを託すと、モニカは馬車の横で待っていたマキウスの元に向かった。
馬車に手をかけて乗ろうとすると、マキウスがそっと制したのだった。
「モニカ、こういう時は男性にエスコートしてもらうものです」
「そうなんですね……。すみません。知らなくて……」
マキウスが差し出してきた白手袋の手を、モニカは見つめた。
そうして、同じく白手袋をした自分の手を伸ばすと、マキウスの手に重ねたのだった。
「足元に気をつけて、ゆっくり乗って下さい」
「はい。ありがとうございます……」
顔が赤くなっていくのが、モニカ自身にもわかった。
モニカはマキウスの手を取ると、馬車に乗り込んだのだった。
元の世界でたまに乗っていた自家用車の座席に比べて、若干、ごわごわした椅子に座ると、マキウスも馬車に乗り込み、向かいの席に座った。
「騎士団本部に向かって下さい」
そうして、マキウスが合図を出すと、馬車はゆっくり走り出したのだった。
馬車の窓から小さくなっていく屋敷を見ていると、マキウスが声を掛けてきた。
「育児に詳しいようですが、以前も経験をされたことが?」
マキウスの指す「以前」が、御國の頃だと気づいたモニカは首を振った。
「いいえ。ただ、いつの日か結婚して、子供が生まれた時の為に、何冊か育児に関する本を読んでいたんです」
御國だった頃は、自分もいつの日か素敵な男性に出会って、恋をして、結婚をして、子供を産むものだと思っていた。
そんな日を夢見て、時間がある時には育児や子育てに関する本を読んでいたのだった。
「そうでしたか……」
どこか安心したように、マキウスは肩の力を抜くと視線を逸らした。
モニカは慌てて、「でも」と続けたのだった。
「マキウス様の様な素敵な男性に出会えて、ニコラという可愛い娘が出来て、私は大満足です。……死ななくて良かったと思っています。この知識も無駄にならないですし……」
モニカが微笑むと、マキウスは虚をつかれたようだった。
そうして、「全く」と言って、息をついたのだった。
「貴方には敵いそうにありません」
「私も、マキウス様の懐の深さには敵いません.マキウス様じゃなければ、御國の話を信じてくれなかったと思います」
相手がマキウスでなければ、モニカの話を荒唐無稽な作り話だと言って、信じてくれなかっただろう。
モニカの話を聞いて、モニカを信じてくれたのは、マキウスの懐の深さによるところが大きい。
(私も、何があってもマキウス様を信じよう)
マキウス様が御國を信じてくれたように、御國もマキウス様を信じよう。
モニカは、そう心に決めたのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる