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第一部

花嫁【6】

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「そろそろ、夜も更けてきました。もう休みましょう」

 立ち上がりかけたマキウスの袖を、モニカは慌てて引いた。

「あの、もう一つだけ! マキウス様にお願いしたいことがあるんです!」

 マキウスは瞬きをすると座り直した。
 そうして、モニカをじっと見つめたのだった。

「私に出来ることでしたら、構いませんよ」

 マキウスに促されると、モニカの顔はだんだん赤くなっていった。

「た、大したことでは無いんです。ただ、マキウス様が良ければのお話なので……」
「どんなお話ですか? 言って下さい」
「あ、でも、本当に大したことないので、また今度でも……」
「兎にも角にも、まずは話して下さい。大したことか、そうじゃないかは、それから決めればいい」
「そ、そうですね……」
「そうです。さあ、私に話して下さい」

 言い出しておきながら恥ずかしくなって、声が尻すぼみになっていると、焦れたマキウスが顔を近づけながら促してきた。
 モニカは覚悟を決めると、口を開いたのだった。
 
「あの、マキウス様のお耳を触らせて下さい!」
 
 その瞬間、マキウスの表情が凍りついた。
 上を向いて自分の頭に視線を向けたまま、固まってしまったのだった。

(あ……。やっぱり、駄目っぽい?)

 マキウスの反応から、ずっと気になっていたモフモフした毛が生えた耳に触るのは駄目なんだろうと、諦めかけた時だった。
 恐る恐るといったように、硬直状態から解けたマキウスが尋ね返してきたのだった。

「……私の耳ですか?」
「はい! 最初に会った時から、マキウス様の……。皆さんのお耳がとてもモフモフして、気持ち良さそうで……。ずっと触りたいって思っていたんです!」

 マキウスだけではなかった。
 ティカも、ペルラも、アマンテも、他の使用人たちも。
 誰もが犬の様に、フワフワした毛が生えた耳を持っていた。

 ーー撫でたらどんな触り心地なんだろう。手入れには何を使っているんだろう。

 気がつくと、彼らの耳ばかりが気になって、目で追いかけるようになったのだった。

「勿論、駄目ならいいんです……」

 モニカは目を伏せると、肩を落とす。
 マキウスが困っているように見えたので、やっぱりいいという意味で、首を振ったつもりだった。

「そういう訳では、ありません。私たちの耳は……」
「嫌ならいいんです。他の人にも触らせてもらえないか、お願いするだけなので」

 モニカの言葉に、何故かマキウスは唇をギュッと結ぶと、覚悟を決めたように頷いたのだった。

「構いませんよ。私でよければ」
「えっ……? いいんですか? ありがとうございます!」

 モニカは膝の上で手を握りしめているマキウスに、そのまま座っているようにお願いすると正面に回った。
 足を開いて、マキウスを間に挟んで座るように膝をつくと、首の後ろに手を回した。
 抱きつく様に後ろから腕を回すと、マキウスの耳に触れたのだった。
 
「うわっ……! やっぱり、モフモフしてる!まるで、犬や猫みたい!」

 マキウスの耳はフワフワ、モフモフしていた。
 モニカは耳の裏側の黒色の毛の部分を撫で回したのだった。
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