上 下
234 / 357

万華鏡と一輪挿し・2

しおりを挟む
「あ……ひ、人妻……!?」
「うちの妻に何か用事でも?」

何も言えない男たちを睨みつけると、テーブルに飲み物を置くなり、アリーシャの手首を掴む手を引き離す。

「もう一度聞くが、うちの妻に何か用事でも?」
「あの……」
「近くの警察か軍を呼んでもいいんだが?」

その言葉に男たちは、「す、すみませんでした!!」と言って、二人から逃げて行ったのだった。

男たちを見送ると、傍らのアリーシャに「大丈夫だったか?」と尋ねる。

「あ、はい。大丈夫です。すみません……」

肩を落とすアリーシャの隣に座ると、テーブルに置いていた飲み物をそっと差し出す。

「怖い思いをさせたな」
「そ、そんなことはありません! 買ってきていただいて、ありがとうございます……」

怒られると思っているのだろうか。
ビクビクしながら飲み物を受け取り、ふうふうと息を吹きかけているアリーシャから目を離すと、袋を開けながら続ける。

「お前が可愛いのは百も承知しているが、俺の目の届かないところで、他の男と話しているかもしれないと思うと、おちおち仕事にも行けないな」
「え……?」
「前から、お前がクシャースラや部下たちと楽しそうに話している姿を見ると、心がモヤモヤしていたんだ。今だって、お前が知らない男と話している姿を見て……かなり焦ったんだ」

執務室で一緒に暮らしていた頃から、他の男と話しているアリーシャの姿を見ていると、何故か心がモヤモヤと渦巻いていた。
セシリアと話している時はなんとも思わなかった。メイソンと話している時も。

けれども、クシャースラやアルフェラッツら若い部下たちと話している姿を見ていると、落ち着かなくなって相手を引き離したくなった。
今も飲み物で両手が塞がっていなかったら、男たちを力づくで引き離して、ついでに一発くらい殴っていたかもしれない。

「結婚したとはいえ、俺よりもいい男はいくらでもいるからな。そいつらの方に心が傾いてしまったらと思うと、心配にもなるさ」
「そ、そんなこと言わないで下さい! オルキデア様よりかっこいい人なんていません!」
「そうか?」
「そ、そうですよ! そんな、まるで嫉妬しているみたいなこと……」

アリーシャの言葉に、顔を上げて振り向く。

「嫉妬しているのか? 俺は……」
「私が他の男性と話していると焦ってしまうんですよね……? 心がモヤモヤしてしまうと。それって、相手に嫉妬しているってことだと思うんです……」

「気づいていなかったんですか?」と言われて、ようやく腑に落ちる。

知らず知らずのうちに、アリーシャと話す男たちにライバル心を抱いて、焼き餅を焼いていたのだろう。
誰のものでもないのに、アリーシャを自分のものと思い込んでいた。
自分だけを見て欲しい、他の男を見ないで欲しいと。

「そうか。この感情を嫉妬というんだな」
「知らなかったんですか? これまで周りと比較して、自分より出来が良い人に、怒りや不満を持ったことや、ぶつけたことはなかったんですか?」
「これまでは、周りに興味がなかったからな」
「そ、そうですか……」
「お前はあるのか?」
「私は他の姉妹からされる側だったので……。目立つ髪も女性らしい体型も。全て嫉妬の的だったので……」

アリーシャの藤色の髪はとにかく、女性らしく艶めかしい体型は、オルキデアも毎晩、見ているので知っている。
男性なら興奮を抑えきれないだろう。ーーオルキデアは、身体よりもアリーシャ自身を求めているが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

処理中です...