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思い出の味・2

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「ありがとうございます。そうだ。昨日、お借りしたショールをお返ししますね。少し、お待ち頂けますか」

アリーシャはテーブルの上に箱を置きながら、「セシリアさんにお借りしていたショールを取って来ます!」とオルキデアに声を掛けて屋敷の中に急ぐ。
アリーシャの後ろからは、「これは何ですか?」、「即席のテラス席だ」と二人の話し声が聞こえていたのだった。

ショールを持ってすぐに引き返すと、「今日も祭りの用意か?」、「しばらくは帰りが夕方近くになりそうです」と、二人の会話はまだ終わっていないようだった。
邪魔をしないように、恐る恐る近くとアリーシャに気づいた二人は会話を中断する。

「お待たせしました。セシリアさん、昨日はありがとうございました」
「私の方こそ、楽しいひと時をありがとうございました」

これから仕事先の花屋に向かうというセシリアは、ショールを受け取るとそのまま帰って行った。
セシリアを見送っていると、オルキデアが箱を差しながら尋ねてくる。

「この箱はなんだ?」
「昨日、セシリアさんと一緒に作ったんです。よければ、今から食べませんか?」

アリーシャが白い箱を開けると、中からはガラス製の容器に入った卵色が出てきた。

「何を作ったんだ?」
「プリンです。セシリアさんが仕事でお疲れのクシャースラ様の為に作るってことだったので、作り方を教わりながら一緒に作りました」

アリーシャが持ち上げた卵の甘い香りが漂うガラスの容器は、きっちり卵色とカラメル色の二色に分かれていたのだった。

二人は即席のテラス席に、それぞれ飲み物と本、アリーシャが作ったプリンを並べる。
最初にオルキデアはプリンが入った容器を持ち上げると、秋の日差しに透かせて眺めていた。

「綺麗に分かれているな」
「セシリアさんに教わったんです。カラメルは均一になるように伸ばせばいい、と。でも作っている間は二色に分かれるか不安でした」

カラメルを流し入れて、均一になるように器の底に伸ばしている時は、卵色のプリン液と混ざらないのかと不安にもなった。
けれども、完成したプリンを見る限り、プリン液とカラメルは混ざることなく、しっかり二層になったようだった。

「プリン作りは始めてだったので、上手く出来ているかはわかりませんが……」
「せっかくの君の手料理だ。まずはいただくとしよう」

オルキデアと一緒に、アリーシャもスプーンでプリンを掬うと、プルンと卵色が揺れた。
口の中に入れるオルキデアを、アリーシャは固唾を呑んで見守る。
セシリアは大丈夫だと背中を押してくれたが、アリーシャ自身は味見をしていないので、本当にオルキデアの口に合っているかはわからない。

じっと見つめていると、やがて「美味いな」とオルキデアは口元を緩めたのだった。

「本当ですか? 良かった……」
「甘すぎなくて、口の中で溶けるようだ。これなら何個でも食べられそうだ。……懐かしいな」

アリーシャも安堵すると、ようやくプリンを口にする。
始めて作ったプリンは、甘すぎず、固すぎず、冷たいプリンが口の中でホロリと溶けて、まるで氷のようだった。

「本当ですね。甘すぎなくて、口の中で溶けるようで、食べやすいです」
「セシリアと一緒に作ったんだったな。それなら、これはマルテのレシピか」
「懐かしいと言っていましたが、以前も食べたことがあるんですか?」
「子供の頃にな。どうも、俺は偏食だったようで、マルテが味付けした料理しか食べなかったらしい。おやつもそうだ。マルテが作ったものしか食べなかった」

メイソンと結婚して、マルテが使用人を辞めるまで、オルキデアはマルテが用意する料理しか食べなかったらしい。
ラナンキュラス家にはオルキデアの為に父のエラフが雇った料理人と乳母が居たらしいが、彼らが作る料理はほとんど口にしなかったとのことだった。
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