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勝負の日・1

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その日は朝から空を覆うような曇天が広がっていた。
いつ天気が崩れるかわからないので、アリーシャも屋敷の中で過ごしているようであった。
暇を持て余しているのか、定期的に外の様子を見ながら洗濯物の乾燥具合を確認しつつ、各部屋の掃き掃除や廊下の窓を掃除しているようであった。

オルキデアは「掃除ならマルテかセシリアがやるから、別にやらなくていいぞ」と言ったが、アリーシャは首を振ると、「おふたりだって忙しいのに、家についてやってもらうばかりではいけないので」と返してきたのだった。

以前から最低限の掃除はマルテやセシリアが来た時にやってくれるので、気にしたことはなかったが、やはり住んでいる自分たちが何もしないのは居心地が悪いのだろう。
アリーシャの心掛けは素晴らしいものであり、オルキデアも手伝いたいところではあるが、そうは言っていられない事情が出来た。

二日前、軍部の執務室の留守を任せているラカイユから連絡があった。
ティシュトリア・ラナンキュラスが、執務室を尋ねて来たとのことであった。
軍部の入り口に立つ見張りの兵士から「ラナンキュラス少将はしばらく休暇を取っており不在にしている」と聞いたらしいが、真偽を確かめに執務室までやって来たらしい。
偶然ラカイユがオルキデアの代わりに執務室で書類仕事をしており、見張りの兵士から連絡を受けて、執務室にやって来たティシュトリアに丁重に帰るように伝えたーー要は追い帰したとのことであった。
その際に軍部の入り口までティシュトリアを送ったラカイユは、「ラナンキュラス少将は休暇を取って遠出しており、には屋敷に戻ると言っていた」とわざと伝えたらしい。
何の用意も無く、どこかで遭遇する前に、あえて準備を整えた屋敷に向かわせた方が、オルキデアたちの方が優位になると判断したのだろう。明後日と伝えたのも、オルキデア側の準備期間を考慮してのことらしい。ラカイユの判断にオルキデアも脱帽したのだった。
ティシュトリアを送ってすぐに連絡をくれたラカイユは、「屋敷を尋ねに行くのも、時間の問題だと思われます」と経緯を報告してくれたのだった。

アリーシャにもティシュトリアについて伝えようか悩んだが、緊張から落ち着きを無くしてボロを出すのではないか、不安から自信を無くしてしまうのではないか、と考えてしまい、結局伝えていなかった。
ただアリーシャには、自分に合わせることと、ティシュトリアとの間に何かあれば自分が割って入るつもりであることを伝えるつもりであった。
またアリーシャが傷ついたり、困ったりしないように、今度こそ自分が守るつもりだった。

(こっちに付き合ってもらう以上、これくらいはしないとな)

もうアリーシャが怒りも涙も耐え忍んで、内側にこもる姿を見たくなかった。
それをされるくらいなら、やつあたりでも何でもいい。その怒りを自分にぶつけて欲しかった。堪えられてしまうと、自分が頼りないと暗に言われているようで悔しかった。
他の女性とは違って、アリーシャの前では誠実でありたかった。
クシャースラほど生真面目になる必要もないが、アリーシャが安心して頼ってくれるような男でありたい。
そのためには、まずオルキデア自身が態度を示すべきだろう。
こっちがその態度を示さないのにただ「頼れ」と言っても、言われた側が困るだけだ。
アリーシャが胸襟を開き、心の底から笑みを浮かべるその時まで。
オルキデアは何度でも示すつもりであった。

そんなことを考えていると部屋の中に呼び鈴の音が響いた。それと同時に部屋の扉が叩かれる。

「オルキデア様……」

オルキデアが返事をする前に、アリーシャがおずおずと入って来たのだった。
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