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移送作戦【当日・下】・10
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(これが今の私……)
セシリアに施してもらった化粧のおかげか、いつもより少し大人らしさと、年相応の女性らしさが増しているように見えるが、やはりどこか貧弱な感じが抜けていない。
ここに来てからきっちり三食、それもバランスの良い食事ーー軍部の食堂で提供されているだけあって、栄養価の高いものばかりであった。を食べているだけあって、以前よりも肉がついたように思う。
シュタルクヘルト家では、待っていても食事を忘れられるか、残飯のような食事しか出なかったから。
唯一、発育がいいと言われたのが、適度に膨らみがある胸だった。
「さすがは娼婦の娘ね。男を誘う身体つきをしている」と、他の兄弟姉妹やその母親、更にはその使用人にまで影で言われた。
そう言われたくなくて、ずっと胸元を隠すような服ばかり来ていたが、母のもっと大きい胸を見ていたから、自分の胸が大きいとは全く思えなかった。
母に比べたら、アリーシャの胸はまだまだ小さい。
これから大きくなるのだろうか。それとも、これがアリーシャの成長の限界なのだろうか。
自分の胸を服の上から掴んでいたアリーシャはふと気づく。
(セシリさんのドレス! 着たまま……!)
すっかり忘れていた。セシリアが戻って来たら返さねばならない。
アリーシャは腰のリボンを緩めて、背中のボタンを外すと、その場でドレスを脱ぐ。
姿見に写る下着姿の自分から目を逸らして、クローゼットに掛かっている洋服から適当にブラウスとロングスカート、薄手のカーディガンを選ぶ。
手早く着替えると、脱いだドレスを持ってベッドに向かう。
ドレスを畳んで先程の帽子の下に置いた時、丁寧に畳まれた白い服が置いてある事に今更気づく。
「これは……」
手にとって広げると、それはアリーシャがーーアリサが病院で着ていた白い軍服だった。
「捨てられたと思っていたのに」
クローゼットに掛かっておらず、カバンに入っていなかったところから、おそらく、オルキデアがベッドの上に置いてくれたのだろう。
爆破の衝撃と救出される際に出来たのか、白い布地にはところどころ破れ、汚れが付いていたのだった。
(なんだろう……。もらった時はあんなに嬉しかったのに。今は何も思わない……)
軍事医療施設の慰問に行くと決まった時、父からこの軍服を送られて、心が弾むような気持ちになった。
いつも他の兄弟姉妹がこれを着て、慰問に行くのを遠くから見ていた。
シュタルクヘルト家が王族だった頃、白色は王家の色とされていた。
国民は白一色の洋服や小物を持つことも、作ることも許されず、それを持っていいのは王家に連なる者だけであった。
王制が廃止されてからは、誰でも自由に白色を使えるようになったが、未だに白色は王家の色とされており、シュタルクヘルト家が国の行事や国家に関する活動を行う際には、白色を身につけるようになっていた。
慰問もまた国家に関する活動であり、行き先が軍や戦場に近い場所なら、動きやすさも加味して軍服として仕立てるのが常であった。
慰問に行く他の姉妹たちは「軍服よりもオシャレな服がいい」と、文句を言いながら身に纏っていた。
そんな姉妹たちを宥める兄弟たちや使用人たちの姿を、アリーシャはいつも遠くから羨ましい気持ちで眺めていたのだった。
セシリアに施してもらった化粧のおかげか、いつもより少し大人らしさと、年相応の女性らしさが増しているように見えるが、やはりどこか貧弱な感じが抜けていない。
ここに来てからきっちり三食、それもバランスの良い食事ーー軍部の食堂で提供されているだけあって、栄養価の高いものばかりであった。を食べているだけあって、以前よりも肉がついたように思う。
シュタルクヘルト家では、待っていても食事を忘れられるか、残飯のような食事しか出なかったから。
唯一、発育がいいと言われたのが、適度に膨らみがある胸だった。
「さすがは娼婦の娘ね。男を誘う身体つきをしている」と、他の兄弟姉妹やその母親、更にはその使用人にまで影で言われた。
そう言われたくなくて、ずっと胸元を隠すような服ばかり来ていたが、母のもっと大きい胸を見ていたから、自分の胸が大きいとは全く思えなかった。
母に比べたら、アリーシャの胸はまだまだ小さい。
これから大きくなるのだろうか。それとも、これがアリーシャの成長の限界なのだろうか。
自分の胸を服の上から掴んでいたアリーシャはふと気づく。
(セシリさんのドレス! 着たまま……!)
すっかり忘れていた。セシリアが戻って来たら返さねばならない。
アリーシャは腰のリボンを緩めて、背中のボタンを外すと、その場でドレスを脱ぐ。
姿見に写る下着姿の自分から目を逸らして、クローゼットに掛かっている洋服から適当にブラウスとロングスカート、薄手のカーディガンを選ぶ。
手早く着替えると、脱いだドレスを持ってベッドに向かう。
ドレスを畳んで先程の帽子の下に置いた時、丁寧に畳まれた白い服が置いてある事に今更気づく。
「これは……」
手にとって広げると、それはアリーシャがーーアリサが病院で着ていた白い軍服だった。
「捨てられたと思っていたのに」
クローゼットに掛かっておらず、カバンに入っていなかったところから、おそらく、オルキデアがベッドの上に置いてくれたのだろう。
爆破の衝撃と救出される際に出来たのか、白い布地にはところどころ破れ、汚れが付いていたのだった。
(なんだろう……。もらった時はあんなに嬉しかったのに。今は何も思わない……)
軍事医療施設の慰問に行くと決まった時、父からこの軍服を送られて、心が弾むような気持ちになった。
いつも他の兄弟姉妹がこれを着て、慰問に行くのを遠くから見ていた。
シュタルクヘルト家が王族だった頃、白色は王家の色とされていた。
国民は白一色の洋服や小物を持つことも、作ることも許されず、それを持っていいのは王家に連なる者だけであった。
王制が廃止されてからは、誰でも自由に白色を使えるようになったが、未だに白色は王家の色とされており、シュタルクヘルト家が国の行事や国家に関する活動を行う際には、白色を身につけるようになっていた。
慰問もまた国家に関する活動であり、行き先が軍や戦場に近い場所なら、動きやすさも加味して軍服として仕立てるのが常であった。
慰問に行く他の姉妹たちは「軍服よりもオシャレな服がいい」と、文句を言いながら身に纏っていた。
そんな姉妹たちを宥める兄弟たちや使用人たちの姿を、アリーシャはいつも遠くから羨ましい気持ちで眺めていたのだった。
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