89 / 357
移送作戦【当日・上】・3
しおりを挟む
「アリーシャさんさえ良ければ、私と友人になって頂けると嬉しいです」
「セシリアさん……」
セシリアに両手を握られて、アリーシャはこくりと頷く。
「私も同年代の友人がいないので、友達になって頂けると嬉しいです。でも、私でいいんですか?」
「はい。私はアリーシャさんと友人になりたいです」
アリーシャの菫色の瞳が大きく開かれる。やがてアリーシャは小声で「……嬉しいです」と呟く。
「ずっと友達なんて出来ないって思っていたので……。あっちに住んでいた頃は」
アリーシャの指す「あっち」とは、シュタルクヘルトのことだろう。
母親を亡くしてから、アリーシャはずっとひとりだったらしい。
家族に必要とされず、心を許せる友人もおらず、心無い使用人からは嫌がらせをされ、自由に外に出ることさえ叶わない。
この話をアリーシャから聞いた時、これではまるで牢に繋がれている囚人と何も変わらないと、オルキデアは思ったものだった。
「これからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。アリーシャさん」
女子二人が握手を交わし和やかな雰囲気の中、腕時計を確認したクシャースラがセシリアに声を掛ける。
「セシリア、そろそろ用意をしないと」
「そうでした。では私たちは着替えてきます。オーキッド様、仮眠室をお借りしてもいいでしょうか?」
「ああ、使ってくれ」
「ありがとうございます。さぁ、アリーシャさん」
「は、はい……」
セシリアに手を引かれる様にして、時折オルキデアの方を振り返りつつも、アリーシャは仮眠室へと消える。仮眠室の扉が閉まると、クシャースラが感嘆する様に息を吐き出したのであった。
「女同士の友情っていいな。オルキデア」
「そうだな」
時折、かしましい話し声が聞こえてくる仮眠室の扉を眺めていると、クシャースラが肩を組んでくる。
「おれたちも仲良くしようぜ。二人に負けないくらいに」
「煩いぞ。……それで、用意は大丈夫か?」
肩に回された腕を払い除けながらオルキデアが尋ねると、「問題ない」とクシャースラは応じる。
「軍部の入り口で、わざとセシリアに帽子を取らせた。これでおれが連れている緑色のドレスの女性はセシリアだと、見張りに認識させられたはずだ」
軍部の入り口には、常に警備担当の軍人が立っている。
オルキデアたち軍部の人間や一部の高級文官は問題ないが、部外者は入ることが出来ない。そんな部外者の中でも唯一例外的に入れるのが、軍に所属する軍人の家族だった。
それを逆手にとって、オルキデアたちはセシリアに協力を依頼した。セシリアに協力を依頼したのは、シュタルクヘルト語が多少話せる以外にも、軍人であるクシャースラの妻というのもあった。
セシリアなら軍部に入っても怪しまれない。またクシャースラが連れて入ることで、クシャースラが連れた緑色のドレス姿の女性は、クシャースラの妻であるセシリアだと印象付けられる。
その為に、セシリアにはわざと目立つようなドレスを用意してもらった。
これなら、軍部を出て行くクシャースラが連れている緑色の女性は「セシリア」だと思われて怪しまれない。
例え、同じドレスを着た別の「セシリア」に入れ替わっていたとしてもーー。
「いつもなら軍部から出る際も確認されるが、今日は演習で人が少ない分、そう厳しくないはずだ」
「ああ。今日がまたとない機会だ。今日を逃すと、恐らく機会はしばらく巡ってこないだろうからな」
いつもなら厳重な警備も、演習の際には人数が減る。
警備担当も軍人なので、ほんの数人を残して演習に行くだろう。
いつもなら人手に余裕がある分、軍部から出る際にも厳密に確認されるが、今日は人数が少ない分、そこまで確認はされない。言い換えれば、その分、抜け穴が出来やすい。
監視が厳しくないという点において、今日がアリーシャを連れ出すのに最適の日だった。
「セシリアさん……」
セシリアに両手を握られて、アリーシャはこくりと頷く。
「私も同年代の友人がいないので、友達になって頂けると嬉しいです。でも、私でいいんですか?」
「はい。私はアリーシャさんと友人になりたいです」
アリーシャの菫色の瞳が大きく開かれる。やがてアリーシャは小声で「……嬉しいです」と呟く。
「ずっと友達なんて出来ないって思っていたので……。あっちに住んでいた頃は」
アリーシャの指す「あっち」とは、シュタルクヘルトのことだろう。
母親を亡くしてから、アリーシャはずっとひとりだったらしい。
家族に必要とされず、心を許せる友人もおらず、心無い使用人からは嫌がらせをされ、自由に外に出ることさえ叶わない。
この話をアリーシャから聞いた時、これではまるで牢に繋がれている囚人と何も変わらないと、オルキデアは思ったものだった。
「これからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。アリーシャさん」
女子二人が握手を交わし和やかな雰囲気の中、腕時計を確認したクシャースラがセシリアに声を掛ける。
「セシリア、そろそろ用意をしないと」
「そうでした。では私たちは着替えてきます。オーキッド様、仮眠室をお借りしてもいいでしょうか?」
「ああ、使ってくれ」
「ありがとうございます。さぁ、アリーシャさん」
「は、はい……」
セシリアに手を引かれる様にして、時折オルキデアの方を振り返りつつも、アリーシャは仮眠室へと消える。仮眠室の扉が閉まると、クシャースラが感嘆する様に息を吐き出したのであった。
「女同士の友情っていいな。オルキデア」
「そうだな」
時折、かしましい話し声が聞こえてくる仮眠室の扉を眺めていると、クシャースラが肩を組んでくる。
「おれたちも仲良くしようぜ。二人に負けないくらいに」
「煩いぞ。……それで、用意は大丈夫か?」
肩に回された腕を払い除けながらオルキデアが尋ねると、「問題ない」とクシャースラは応じる。
「軍部の入り口で、わざとセシリアに帽子を取らせた。これでおれが連れている緑色のドレスの女性はセシリアだと、見張りに認識させられたはずだ」
軍部の入り口には、常に警備担当の軍人が立っている。
オルキデアたち軍部の人間や一部の高級文官は問題ないが、部外者は入ることが出来ない。そんな部外者の中でも唯一例外的に入れるのが、軍に所属する軍人の家族だった。
それを逆手にとって、オルキデアたちはセシリアに協力を依頼した。セシリアに協力を依頼したのは、シュタルクヘルト語が多少話せる以外にも、軍人であるクシャースラの妻というのもあった。
セシリアなら軍部に入っても怪しまれない。またクシャースラが連れて入ることで、クシャースラが連れた緑色のドレス姿の女性は、クシャースラの妻であるセシリアだと印象付けられる。
その為に、セシリアにはわざと目立つようなドレスを用意してもらった。
これなら、軍部を出て行くクシャースラが連れている緑色の女性は「セシリア」だと思われて怪しまれない。
例え、同じドレスを着た別の「セシリア」に入れ替わっていたとしてもーー。
「いつもなら軍部から出る際も確認されるが、今日は演習で人が少ない分、そう厳しくないはずだ」
「ああ。今日がまたとない機会だ。今日を逃すと、恐らく機会はしばらく巡ってこないだろうからな」
いつもなら厳重な警備も、演習の際には人数が減る。
警備担当も軍人なので、ほんの数人を残して演習に行くだろう。
いつもなら人手に余裕がある分、軍部から出る際にも厳密に確認されるが、今日は人数が少ない分、そこまで確認はされない。言い換えれば、その分、抜け穴が出来やすい。
監視が厳しくないという点において、今日がアリーシャを連れ出すのに最適の日だった。
1
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる