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アリーシャの正体と親友と・7
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クシャースラは「そうだな」と首肯すると、足を組み直す。
「それで、肝心の頼みというのは? まさか、アリーシャ嬢の贈り物と情報だけじゃないだろう?」
「ああ。近いうちにアリーシャを釈放しようと思う。……利用価値に気づかれる前に」
アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトの写真が大々的に新聞に載ったのなら、この部屋にいる娘がーーアリーシャがアリサだと勘付かれるのも、時間の問題だろう。
更には、アリーシャがやってくる直前まで、オルキデアは軍事基地と軍事医療施設の襲撃作戦に参加していた。
そんな襲撃作戦から戻って来たオルキデアが、そこで保護した藤色の髪の娘を独房に入れず、手元に置き続けていることを結びつければ、想像するのはそう難しくはない。
「新聞に載ってしまったのなら急を要する。……本当なら、記憶が戻ってから釈放したかったんだがな」
アリーシャがどこまで記憶を取り戻したのかはわからない。
けれども、医師の診察の通りに、時間と共に記憶が戻ってくるのなら、オルキデアの傍じゃなくてもいいはずだ。
もしかしたら、環境の違うペルフェクトよりも、住み慣れたシュタルクヘルトの方が、記憶を取り戻すには向いているかもしれない。
「釈放か……。それなら、人目を避けて、ここから連れて行くんだろう。協力するよ」
「助かる。その際に、セシリアの協力も得られないだろうか? 確か、セシリアもシュタルクヘルト語が多少話せたと思ったが……」
「セシリアも?」
「ああ。作戦はこうだ」
アリーシャを釈放をするのは、軍部に人が少ない日を狙う。
まず人目を避けて、軍部の建物から出ると、アリーシャを車に乗せる。
そのまま追跡されていた時に備えて、何度か車を乗り変えつつ、ハルモニア付近に連れて行く。
あとはハルモニア側の協力者に金を渡して、アリーシャをシュタルクヘルトまで送ってもらうという作戦だった。
執務室から車までアリーシャを連れ出すのと、途中で乗り換える車の手配、ハルモニア側の協力者探しには、オルキデアだけでは手に余るだろう。
信頼の置ける者で、ある程度、人脈を持っている人物の協力が必須だった。
それに打ってつけなのが、オルキデアの親友であった。
オルキデアから話を聞いたクシャースラは、「なるほどな」と納得したようだった。
「それなら、おれからセシリアに頼んでみる」
「すまんな。色々頼んで。お礼に今度一杯奢るよ」
「ああ」
オルキデアが微笑を浮かべたところで、部屋の扉が叩かれた。
「お待たせしました。コーヒーをお持ちしました」
トレーを持ってシュタルクヘルト語で話しながら入って来たのは、アリーシャであった。
「ありがとうございます。アリーシャ嬢」
クシャースラがトレーを預かってくれている間、オルキデアは廊下に出て、アリーシャに付き添ってくれた新兵をこっそり呼ぶ。
「それで、肝心の頼みというのは? まさか、アリーシャ嬢の贈り物と情報だけじゃないだろう?」
「ああ。近いうちにアリーシャを釈放しようと思う。……利用価値に気づかれる前に」
アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトの写真が大々的に新聞に載ったのなら、この部屋にいる娘がーーアリーシャがアリサだと勘付かれるのも、時間の問題だろう。
更には、アリーシャがやってくる直前まで、オルキデアは軍事基地と軍事医療施設の襲撃作戦に参加していた。
そんな襲撃作戦から戻って来たオルキデアが、そこで保護した藤色の髪の娘を独房に入れず、手元に置き続けていることを結びつければ、想像するのはそう難しくはない。
「新聞に載ってしまったのなら急を要する。……本当なら、記憶が戻ってから釈放したかったんだがな」
アリーシャがどこまで記憶を取り戻したのかはわからない。
けれども、医師の診察の通りに、時間と共に記憶が戻ってくるのなら、オルキデアの傍じゃなくてもいいはずだ。
もしかしたら、環境の違うペルフェクトよりも、住み慣れたシュタルクヘルトの方が、記憶を取り戻すには向いているかもしれない。
「釈放か……。それなら、人目を避けて、ここから連れて行くんだろう。協力するよ」
「助かる。その際に、セシリアの協力も得られないだろうか? 確か、セシリアもシュタルクヘルト語が多少話せたと思ったが……」
「セシリアも?」
「ああ。作戦はこうだ」
アリーシャを釈放をするのは、軍部に人が少ない日を狙う。
まず人目を避けて、軍部の建物から出ると、アリーシャを車に乗せる。
そのまま追跡されていた時に備えて、何度か車を乗り変えつつ、ハルモニア付近に連れて行く。
あとはハルモニア側の協力者に金を渡して、アリーシャをシュタルクヘルトまで送ってもらうという作戦だった。
執務室から車までアリーシャを連れ出すのと、途中で乗り換える車の手配、ハルモニア側の協力者探しには、オルキデアだけでは手に余るだろう。
信頼の置ける者で、ある程度、人脈を持っている人物の協力が必須だった。
それに打ってつけなのが、オルキデアの親友であった。
オルキデアから話を聞いたクシャースラは、「なるほどな」と納得したようだった。
「それなら、おれからセシリアに頼んでみる」
「すまんな。色々頼んで。お礼に今度一杯奢るよ」
「ああ」
オルキデアが微笑を浮かべたところで、部屋の扉が叩かれた。
「お待たせしました。コーヒーをお持ちしました」
トレーを持ってシュタルクヘルト語で話しながら入って来たのは、アリーシャであった。
「ありがとうございます。アリーシャ嬢」
クシャースラがトレーを預かってくれている間、オルキデアは廊下に出て、アリーシャに付き添ってくれた新兵をこっそり呼ぶ。
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