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ファミリアとフェーン【3】
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二人はマルゲリタに見送られるように、屋敷を出て、市場に向かった。
「ユズ、手を」
アズールスが差し出した手を、柚子はそっと握った。
「すまない。今日は通いの馬車が来ない日なんだ。御者だけではなく、馬も休ませねばならないからな」
「私は大丈夫ですよ。いつもは歩いて行っていましたから」
どうやら、アズールスの仕事が休みの日は、通いの馬車も休みになるらしい。
急ぎなどで呼べば来てくれるらしいが、買い出しだけにそこまでする必要はないだろう。
「ユズは健脚なんだな」
「そんな事は無いと思いますよ……。元の世界では、あまり運動はしてこなかったですし」
柚子自身は運動が得意では無い。図書館で働くようになって、嫌でも身体を動かざるを得なかった。
この世界に来てからは、自動車や電車、自転車などが無く、移動手段が馬車か徒歩に限られた事で、自然と体力がついたのだった。
「こんな事なら、もっと身体を鍛えておくべきでした」
そうしたら、図書館に就職した時から今に至るまで、体力の無さに悩まなくて済んだのだが。
「アズールスさんは、元々軍人さんだった事もあって、体力がありますよね。羨ましいです」
「そうだな……。子供の頃から身体を動かすのが好きだったというのもあるな。だが、公文書館に来てからは、カルセドニーさんの手伝いで書類仕事が増えたからな。身体を動かす機会が随分と減った気がする」
アズールスが公文書館で働くようになった時、公文書館の書類仕事は、ほぼカルセドニーが一人で請け負っている状態だった。
アズールス以外の者達は、座学や細かい仕事が苦手な者達ばかりで、書類仕事を頼むと書き間違えだけではなく、紛失や破損した事もあったらしい。
見兼ねたアズールスがカルセドニーを手伝ったところ、アズールスの手際の良さにカルセドニーが感激したそうだ。
以来、カルセドニーから回ってくる書類仕事は、ほとんどアズールスがこなしているとの事だった。
「そうだったんですね」
「だが、カルセドニーさんはユズの手際の良さを褒めていたぞ。最近は本の振り分けだけじゃなく、書類の整理や棚の見出し作りも手伝っているそうじゃないか」
最近の柚子は、公文書館で本の振り分けだけではなく、カルセドニーの書類仕事の手伝いや、館長室の掃除、各棚に見出しや案内の作成などもやるようになっていた。
どの本をどの棚に入れるのかといった配置は既に決定していて、ガルシア達は本を棚に戻していた。
昨日から、柚子はこの棚にはどんな本があるのか、この本に関連する本はどこにあるのかといった案内を作り始めた。
作成する前、カルセドニーから許可を得る際に、昔は各棚に見出しがあったが老朽化して捨ててしまったらしい。
そして、見出しを作るなら、館内の見取り図や、地下にある書庫への関係者以外立ち入り禁止やお手洗い、館長室の場所といった案内も欲しいと言われたのだった。
「ユズ、手を」
アズールスが差し出した手を、柚子はそっと握った。
「すまない。今日は通いの馬車が来ない日なんだ。御者だけではなく、馬も休ませねばならないからな」
「私は大丈夫ですよ。いつもは歩いて行っていましたから」
どうやら、アズールスの仕事が休みの日は、通いの馬車も休みになるらしい。
急ぎなどで呼べば来てくれるらしいが、買い出しだけにそこまでする必要はないだろう。
「ユズは健脚なんだな」
「そんな事は無いと思いますよ……。元の世界では、あまり運動はしてこなかったですし」
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この世界に来てからは、自動車や電車、自転車などが無く、移動手段が馬車か徒歩に限られた事で、自然と体力がついたのだった。
「こんな事なら、もっと身体を鍛えておくべきでした」
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「アズールスさんは、元々軍人さんだった事もあって、体力がありますよね。羨ましいです」
「そうだな……。子供の頃から身体を動かすのが好きだったというのもあるな。だが、公文書館に来てからは、カルセドニーさんの手伝いで書類仕事が増えたからな。身体を動かす機会が随分と減った気がする」
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アズールス以外の者達は、座学や細かい仕事が苦手な者達ばかりで、書類仕事を頼むと書き間違えだけではなく、紛失や破損した事もあったらしい。
見兼ねたアズールスがカルセドニーを手伝ったところ、アズールスの手際の良さにカルセドニーが感激したそうだ。
以来、カルセドニーから回ってくる書類仕事は、ほとんどアズールスがこなしているとの事だった。
「そうだったんですね」
「だが、カルセドニーさんはユズの手際の良さを褒めていたぞ。最近は本の振り分けだけじゃなく、書類の整理や棚の見出し作りも手伝っているそうじゃないか」
最近の柚子は、公文書館で本の振り分けだけではなく、カルセドニーの書類仕事の手伝いや、館長室の掃除、各棚に見出しや案内の作成などもやるようになっていた。
どの本をどの棚に入れるのかといった配置は既に決定していて、ガルシア達は本を棚に戻していた。
昨日から、柚子はこの棚にはどんな本があるのか、この本に関連する本はどこにあるのかといった案内を作り始めた。
作成する前、カルセドニーから許可を得る際に、昔は各棚に見出しがあったが老朽化して捨ててしまったらしい。
そして、見出しを作るなら、館内の見取り図や、地下にある書庫への関係者以外立ち入り禁止やお手洗い、館長室の場所といった案内も欲しいと言われたのだった。
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