上 下
66 / 109

後片づけ【7】

しおりを挟む
「さっきはありがとな。俺たちは本に詳しくないから助かったよ!」
男が差し出して来た手を、ユズは握り返す。
大きくて、温かくて、がっしりとした手だった。
「こちらこそ、部外者なのに勝手に口を出してすみません」
「気にすんな。アズールスから話は聞いてたんだ。本に詳しい異国人と同居してるってな」
「私の事をご存知だったんですか!」
柚子が目を見開くと、男は豪快に笑った。
「ああ。アズールスが毎日の様に話していたし、この前、公文書館に来た時に見かけたからすぐにわかったさ。俺はカルセドニー。この公文書館の責任者だ」
男、カルセドニーは、自らを刺すと片目を瞑ってみせた。
柚子はクスッと笑ったのだった。
「私の名前は、柚子と言います。橘井柚子《きついゆず》です。アズールスさんにお世話になっています」 
そうして、柚子は気になっていた事を訊ねたのだった。

「足は大丈夫ですか? 引きずって歩いているようだったので、心配で……」
もしかして、火事の際に怪我をしたのかもしれない。と柚子が心配そうにしていると、カルセドニーは「大丈夫」と片手を振ったのだった。
「こいつは、軍にいた時に落馬して負った怪我だ。もう治らない一生ものの怪我だ」
カルセドニーによると、軍人として前線に出ていた頃、落馬した際に負った怪我らしい。
治療をしたが、歩ける程にしか怪我は回復しなかった。
もう馬に乗るどころか、走るのも困難になった事で、軍を辞めるか悩んでいたところ、この公文書館の責任者の話をされたらしい。

「一応は、まだ軍人だが、公文書館の責任者なんて命のやり取りが無い分、気楽なものさ。その代わり、軍の手伝いで駆り出される事もしょっちゅうだが」
一昨日の火事といい、柚子も被害に遭った誘拐事件といい、カルセドニーも軍から手伝いに駆り出されたらしい。
「そうだったんですね……」
「そうそう。頼りになるアズールスは、最近、異国人の恋人だか、嫁さんだかが出来たとかで、付き合いが悪いし、他の連中じゃ不安が残るしな……」
おそらく、柚子の事だろう。柚子は苦笑する事しか出来なかった。
「恋人でも無ければ、嫁でも無いんですが……。ところで、先程から色んな人に異国人って言われるんですが、皆さんは一目でわかるんですか?」

アズールスや屋敷の者達を始め、これまで会った人達は、それほど柚子と顔立ちが違うという事は無かった。
目や髪、肌の色こそは違うが、顔立ちや造りは大差無いと思っていたのだった。
「この辺りーーおそらく国中探してもだが。黒髪は珍しいんだ。更に黒目もとなるともっと珍しい」
カルセドニー曰く、この地方ーーアルストロメリア地方の住民の大半は、赤茶系の髪や金髪が多いらしい。肌の色も白色が大半を占める。
それ以外の髪や肌の色は、周辺国からやって来た異国人の血が流れている者になるらしい。
特に黒髪は、この国の遥か遠い国にしか住んでいない少数民族しか持っておらず、更に黒目になると、この国にも柚子以外に居るかどうかわからない、というくらい限られてしまうらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

処理中です...