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書斎・2
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「そうか……。ところで、ユズは本を運ぶのは仕事で慣れていると言っていたが、働いていた事があるのか?」
「はい。元の世界では、図書館で働いていました」
「図書館? ユズの世界では女性も働けるのか?」
アズールスによると、この世界では女性は家庭に入るものであり、働いている女性は、働かなければ生活出来ない者がほとんどとの事だった。
柚子はベッドに座るとアズールスにも座るように促すと、図書館について説明した。
柚子の隣に座ったアズールスは、時折頷きながらも、興味深そうに聞いてくれたのだった。
「そうだったのか……。それで、ユズは本が好きなんだな」
「気づいていたんですか!?」
「ああ。ユズが来た日からずっと気づいていた。絵本を読んでいる時が、一番嬉しそうな顔をしていたからな」
「そ、そうだったんですか……。気づかなかったです」
それでこの世界に来たばかりの頃に、絵本をたくさんプレゼントしてくれたのかと、柚子は今更ながら気づいたのだった。
あの頃は、言葉も分からず、知らない人達に囲まれていて、知らない世界に来てしまった事を考えたくなくて、ずっと絵本を読んでいたような気がした。
言われてみれば、毎晩、アズールスが寝ていた横で絵本を読んでいた気もする。
その時に見られていたのだろうか。
柚子はアズールスに見られていた事が、今更恥ずかしくなってきたのだった。
柚子が真っ赤になった顔を抑えていると、アズールスが「どうした? 熱があるのか?」と顔を覗き込んできたので、益々、顔が赤くなってしまったのだった。
「なんでもないですよ。アズールスさん。なんでもないです」
「そうか? それならいいが……」
そうして、アズールスは気にする素振りを見せながらも、「本当に具合が悪くなったらよく休むんだ」と言って部屋を出て行ったのだった。
アズールスが出て行き、部屋の扉がパタンと締まると柚子はベッドの上に倒れたのだった。
(緊張した~~~。あんな顔をされたら照れちゃうよ~~~)
柚子の顔を覗き込んだ時、アズールスの黒色の艶やかな髪が顔に触れた。どこまでも綺麗な青色の瞳に見つめられて、胸がキュンと高鳴ってしまった。
(私は元の世界に帰るんだから。アズールスさんに惚れちゃダメ!)
そう自分に言い聞かせながらも、柚子はしばらくベッドの上で身悶えていたのだった。
アズールスは自分の部屋に戻り、部屋の扉を締めるとその場に座り込んだのだった。
(あんなユズの顔。初めて見たな)
本を運んでいる時、そうして、図書館や本について話している時、柚子はとても嬉しそうな顔をしていた。
(トショカンで働く事が楽しかったんだな)
絵本を読んでいる時の顔と同じ、嬉しそうな顔だった。
柚子の笑顔を思い出すと、アズールスの胸の中は温かい気持ちでいっぱいになっていった。
(そんなユズを、俺はこの世界に呼び寄せてしまったのか……)
アズールスの中で、柚子への罪悪感が生まれてくる。
だが、一方では柚子に対する愛おしい気持ちが胸の中にあった。
ーーユズを離したくない。元の世界に帰したくない。
日に日にアズールスの、柚子への想いは募るばかりだった。
召喚したばかりの頃は、自分の「願い」さえ叶えてくれればそれでいいと思っていたのに。
(例え、「願い」は叶えてくれなくとも)
柚子を自分の元から手放したくはない。柚子自身がアズールス以外の人の元に行きたいと言わない限り。
それとも、柚子は元の世界に帰る為に、「願い」を叶えてくれるだろうか。
そこまで考えて、アズールスは頭を振った。
これ以上、考えてはならないような気がしたのだった。
(もっと、ユズと話そう。もっとユズの事を知りたい。もっと、もっとーー)
本が好きなら本に関する話がいいだろうか。柚子はどんな本や話が好きなのだろうか。
実はアズールス自身は、そこまで本が好きではない。
公文書館で働き始めて、本を読む機会が増え、少しずつ本を読むようになっただけだった。
ただ、柚子と本に関する話が出来るのならーー柚子と話す機会が増えるのなら、もっと本を読もうと思う。
柚子が来てから、アズールスの頭の中は柚子の事で頭がいっぱいであった。
召喚されたのが柚子で本当に良かった。
アズールスはそっと目を閉じたのだった。
「はい。元の世界では、図書館で働いていました」
「図書館? ユズの世界では女性も働けるのか?」
アズールスによると、この世界では女性は家庭に入るものであり、働いている女性は、働かなければ生活出来ない者がほとんどとの事だった。
柚子はベッドに座るとアズールスにも座るように促すと、図書館について説明した。
柚子の隣に座ったアズールスは、時折頷きながらも、興味深そうに聞いてくれたのだった。
「そうだったのか……。それで、ユズは本が好きなんだな」
「気づいていたんですか!?」
「ああ。ユズが来た日からずっと気づいていた。絵本を読んでいる時が、一番嬉しそうな顔をしていたからな」
「そ、そうだったんですか……。気づかなかったです」
それでこの世界に来たばかりの頃に、絵本をたくさんプレゼントしてくれたのかと、柚子は今更ながら気づいたのだった。
あの頃は、言葉も分からず、知らない人達に囲まれていて、知らない世界に来てしまった事を考えたくなくて、ずっと絵本を読んでいたような気がした。
言われてみれば、毎晩、アズールスが寝ていた横で絵本を読んでいた気もする。
その時に見られていたのだろうか。
柚子はアズールスに見られていた事が、今更恥ずかしくなってきたのだった。
柚子が真っ赤になった顔を抑えていると、アズールスが「どうした? 熱があるのか?」と顔を覗き込んできたので、益々、顔が赤くなってしまったのだった。
「なんでもないですよ。アズールスさん。なんでもないです」
「そうか? それならいいが……」
そうして、アズールスは気にする素振りを見せながらも、「本当に具合が悪くなったらよく休むんだ」と言って部屋を出て行ったのだった。
アズールスが出て行き、部屋の扉がパタンと締まると柚子はベッドの上に倒れたのだった。
(緊張した~~~。あんな顔をされたら照れちゃうよ~~~)
柚子の顔を覗き込んだ時、アズールスの黒色の艶やかな髪が顔に触れた。どこまでも綺麗な青色の瞳に見つめられて、胸がキュンと高鳴ってしまった。
(私は元の世界に帰るんだから。アズールスさんに惚れちゃダメ!)
そう自分に言い聞かせながらも、柚子はしばらくベッドの上で身悶えていたのだった。
アズールスは自分の部屋に戻り、部屋の扉を締めるとその場に座り込んだのだった。
(あんなユズの顔。初めて見たな)
本を運んでいる時、そうして、図書館や本について話している時、柚子はとても嬉しそうな顔をしていた。
(トショカンで働く事が楽しかったんだな)
絵本を読んでいる時の顔と同じ、嬉しそうな顔だった。
柚子の笑顔を思い出すと、アズールスの胸の中は温かい気持ちでいっぱいになっていった。
(そんなユズを、俺はこの世界に呼び寄せてしまったのか……)
アズールスの中で、柚子への罪悪感が生まれてくる。
だが、一方では柚子に対する愛おしい気持ちが胸の中にあった。
ーーユズを離したくない。元の世界に帰したくない。
日に日にアズールスの、柚子への想いは募るばかりだった。
召喚したばかりの頃は、自分の「願い」さえ叶えてくれればそれでいいと思っていたのに。
(例え、「願い」は叶えてくれなくとも)
柚子を自分の元から手放したくはない。柚子自身がアズールス以外の人の元に行きたいと言わない限り。
それとも、柚子は元の世界に帰る為に、「願い」を叶えてくれるだろうか。
そこまで考えて、アズールスは頭を振った。
これ以上、考えてはならないような気がしたのだった。
(もっと、ユズと話そう。もっとユズの事を知りたい。もっと、もっとーー)
本が好きなら本に関する話がいいだろうか。柚子はどんな本や話が好きなのだろうか。
実はアズールス自身は、そこまで本が好きではない。
公文書館で働き始めて、本を読む機会が増え、少しずつ本を読むようになっただけだった。
ただ、柚子と本に関する話が出来るのならーー柚子と話す機会が増えるのなら、もっと本を読もうと思う。
柚子が来てから、アズールスの頭の中は柚子の事で頭がいっぱいであった。
召喚されたのが柚子で本当に良かった。
アズールスはそっと目を閉じたのだった。
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