上 下
40 / 48

40話 隣国

しおりを挟む
キメラ討伐から帰った次の日の朝、僕はお父さんに呼び出されていた。

「フランツ。討伐のこと聞いたよ。大活躍だったんだって?」
一瞬なんで知っているの?とは思ったが、昨日帰ってきた時点でお父さんにはシリルさんから正式な報告が上がっていたのだろう。

「あっうん。とっさのことだったから自分でも驚いてるよ。」
「王宮中にもフランツがキメラを一撃で倒したという噂が広まっているらしいよ。あとアルバートとのこともね。」

「あっアルバートさんの事も知ってたんだ。みんな昨日の今日で話が早いね……。」

どっちの話題でかは分からないけど、なんかここまで来る間にいろんな人の視線が気になったのはそのせいか。

「うん。討伐以外のことも一応報告は上がってくるからね。それで、話は変わるんだけど、ちょっとフランツの耳に入れておきたいことがあって。」
「どうしたの?」

「フランツの家が国境付近にあるのは知っているよね?」
「うん。知ってるよ。小さいとき、国境の方には、行っちゃだめって言ってたよね。」

「そうそう。そこの国の話なんだけど、何か知ってることある?」

それってゲームでってことだよね?

「いや、僕の知ってる限りでは、他の国に関しては出てこなかったと思う。」

「そっか。実はフランツ達が遠征に行っている間に、その国の偉い人と、うちの国の偉い人達の話し合いがあって、それがどうもうまくいかなかったらしいんだ。」

「話し合いって?」

「それが聖女様に関係する話らしい。魔物の出没はどの国でも増加傾向にあるからね。」
「なるほど。」

「だけど、どの国にも聖女様がいるとは限らない。その国には聖女様がいないから、聖女様の力が欲しいっていう話だと思うんだ。」
「もしかして、それを僕らの国は断ったってこと?」

「うん。きちんとは聞かされてないけど、大方そんなとこだろうと思ってる。」
「それで、僕の耳に入れておきたい事って?」

「うん。可能性は低いとは思うんだけど、その国が聖女様の力欲しさに攻めてくる可能性がある事を言っておきたかったんだ。」

そんな戦争みたいなことが起こるってこと?

「えっ!てことは、もし攻めてきたら、お母さんとジュリアンが巻き込まれるかも知れないって事?早く教えて王都に避難してもらおうよ。」

「心配になるのは分かるけど、おそらくそれはまだ大丈夫だと思うんだ。」
「えっ、どうして?」

「国境付近には騎士が派遣されているからね。何か動きがあれば報告が来るから、報告が来てからでも遅くはないと思うんだ。」
「え?騎士なんていたの?僕会ったことないよ。」

「そうか?普段は普通に生活しているだけだから、分からないだけだと思うよ。」
「まぁ確かに言われないと分からないかも。」

「それよりお父さんが心配してるのは、先日のキメラ討伐の件でフランツのことが上層部に知られたって事なんだ。」
「僕?」

「うん。もしかしたら、声が掛かるかもしれない。お父さん的には国同士のいざこざに巻き込まれないように最善を尽くすつもりだけど、国から命令が出た場合は絶対だからね。一応その辺のことは知っておいてもらいたいと思って。」
「うん。分かった。」

確かに政治的ないざこざに巻き込まれるのは面倒くさそうだな。
でも、セシリア様を守る為だったら、何だってする覚悟はある。

それ以前に、僕はお母さんとジュリアンのことが心配だな。
でも僕の知っている限りゲームには出てきてないわけだから、イベントだったとしても、大したことはないのかな?
いや、知らないだけって可能性もあるんだよな。

僕はお父さんの部屋を後にし、魔法士団の研究棟に向かうことにした。

団員として、僕にも部屋が与えられたからだ。
今はまだ机と椅子くらいしかないけど、そこでどんな研究をするか考えようかなって思ってる。

外を歩いているとルーカスさんにばったり会った。

「あっ!ルーカスさん。お久しぶりです。」
「おぉ!フランツ!お帰り!話は聞いてるぞー!」

「お耳が早いですね。」
「みんな知ってるぞ!いや、成長したな。俺、嬉しくて嬉しくて。」
「ありがとうございます。ルーカスさんのおかげですよ。」

「いや、フランツが日々頑張った成果だ。自分を褒めてやれ。」
「はい。」
ルーカスさんが自分事のように喜んでくれるのって、少し恥ずかしいけど嬉しいな。

「あっそうだ。ルーカスさんに聞いてみたかったんですけど、国境付近に騎士団の人っているんですか?」
「あっ、もしかして聞いちゃった?」

「え?聞いちゃったっていうのは?」
「国境付近にいるエリート騎士の話。」

「え?そんな人がいるんですか?」
「あぁ、いくつもの偉業を成し遂げた伝説的なお方だ。」
なんか、本当なのか嘘なのかよく分からない話し方だな。冗談のようにも聞こえるけど……。

「な、なるほど。てことはやっぱり派遣してるって事ですか?」
「まぁ何人かは派遣されてるな。ただ、それが誰なのかは誰も知らない。」

「騎士団長のルーカスさんでもですか?」
「さすがに俺は知っているけどさ、一応極秘なんだ。そういう噂があれば襲おうと思わないだろ?」

「そういうことだったんですね。」
「まぁでも、本当に最強なんだけどな。俺も新人の頃は散々お世話になったんだ。」

「ルーカスさんが言うなら本当に強い方なんですね。」
「まぁな。フランツは家の事が心配なんだろ?」

「ルーカスさんも聞いてますか?」
「まぁこう見えて騎士団長だからな。一応耳には入ってくるさ。」

「そうですよね。すみません。」
「いやぁいいって。さっき言ってたエリート騎士はフランツの家がある地域を担当しているから安泰だ。」

「それは、よかったです……。」
「まぁ、不安だよな。何か動きがあれば話は行くと思うから、今から構えなくても大丈夫だ。そもそも隣国が攻めてくる可能性は高くないだろうしな。」

確かに、話し合いがうまくいかなかったからって、攻めてくるとは限らないもんね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

中野莉央
ファンタジー
将来の夢はケーキ屋さん。そんな、どこにでもいるような学生は交通事故で死んだ後、異世界の子爵令嬢セリナとして生まれ変わっていた。学園卒業時に婚約者だった侯爵家の子息から婚約破棄を言い渡され、伯爵令嬢フローラに婚約者を奪われる形となったセリナはその後、諸事情で双子の猫耳メイドとパティスリー経営をはじめる事になり、不動産屋、魔道具屋、熊獣人、銀狼獣人の冒険者などと関わっていく。 ※パティスリーの開店準備が始まるのが71話から。パティスリー開店が122話からになります。また、後宮、寵姫、国王などの要素も出てきます。(以前、書いた『婚約破棄された悪役令嬢は決意する「そうだ、パティシエになろう……!」』というチート系短編小説がきっかけで書きはじめた小説なので若干、かぶってる部分もありますが基本的に設定や展開は違う物になっています)※「小説家になろう」でも投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

処理中です...