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29話 疑問

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お父さんが部屋を出て行った後、一先ずさっきのことをシリルさんに謝らないとと思い口を開く。

「あの、さっきはすみませんでした。」
「いえ、実際到着が遅れたのは事実です。こちらこそ大変な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。」

沈黙の時間が続く。
先に口を開いたのはシリルさんだった。

「今の話の流れで、俺が口を出すことではないかもしれませんが、今回のことはフレデリックさんが一番きつかったと思いますよ。」
「お父さんが?」

「はい。フレデリックさんは王都に戻ってから必死に上を説得していました。そして、やっとの思いで街に出発した後、街が魔物に襲われていると連絡がありました。」
「そうだったんですか。」

確かに今思えば魔物が襲ってきてからみんなが到着するまでは数時間くらいだった。
この早さはあらかじめ王都を出発していないと実現できない。

「そこからは想像に容易いと思います。フレデリックさんはあなたのことを一番に心配していました。道中、どんな気持ちだったか。あなたなら解りますよね?」

「……はい。」

「そして、ようやく町に着いたと思ったら、あなたがミノタウロスに握りつぶされそうになっていた。フレデリックさんはミノタウロスの腕を切り落とし、必死であなたを助けたんです。あなたの目が覚めるまでは気が気ではなかったでしょう。」

そうだったんだ。

「あの、ミノタウロスってどんな感じでした?」
「どんな感じというのは?」

「実は、僕ミノタウロスを倒せたと思っていたんです。でも急に強くなって。ミノタウロスには回復能力なんてないですよね?」
「そういった能力があるとは聞いたことはありません。具体的にどんな様子だったのでしょうか。」

「僕、ミノタウロスを立ち上がれないくらいまで削ったんです。それで、ふと周りを見たら、カイさんが魔物にやられそうになっていて、広範囲魔法で周辺にいた魔物を倒してカイさんの様子を見に行ったタイミングで、後ろからミノタウロスに吹き飛ばされて……これって明らかにおかしいですよね?」

「確かに、あなたの言う通りの事象が起きていたのだとすれば、自然ではないですね。ちなみにですが、その広範囲魔法というのはどういったものですか?」

「それが、とっさのことで自分でもよく分からなくて。でも手から稲妻みたいな光が出てきて、その光が周辺にいた魔物を突き刺していった感じの魔法だったと思います。」

「そうですか。まだ確定は出来ませんが、その魔法が少なからず影響している可能性はありますね。」

「この世界にない魔法だったからバグ認定されたってことですか?でも、強くなるなんて……。」

「まだわかりませんが、バグ認定されると魔物が強くなるような仕組みがあるのかもしれません。」

「でも前検証したときは、スライムはなんの変化もなかったですよね?」

「もしかしたら個体によって強くなる上限があるのかもしれません。スライムの場合は気がつかなかっただけの可能性もあります。」

「確かにそれはありそうですね。あの、ミノタウロスを倒したときは強かったですか?」


「いえ、フレデリックさんが腕を切り落とした段階で、すでに弱っていました。最終的にセシリアが倒しましたが、ミノタウロスは、ふらふらで立っているのもやっとといった感じでしたね。そんなに強いという印象はありませんでした。むしろなぜあなたがやられているのか疑問に残るほどでした。」

「そうだったんですね。」
じゃぁあの時の強さは一体なんだったんだろう。
それに倒すとき、既に弱かったってことは、どのタイミングでまた弱くなったんだ?

僕の意識がなくなったタイミングか?

「あの、僕って1回死んでたりしますか?」
「はい?」
「いや、シリルさんの話が本当なら、どのタイミングで弱くなったのかなと思いまして。」

「実は、怪我の状態を見る限りでは、もう助からないと思っていました。ですのでどこかのタイミングで心臓が止まっていた可能性はあります。」
そんな状態からお父さんとセシリア様は助けてくれたのか。

「なるほど。ということは、僕が死んだからミノタウロスはまた弱くなったって可能性があるって事ですよね?」

「そう考えるのが妥当ですね。ここまでのことをまとめると、流れとしては、ミノタウロスを弱らせ、広範囲魔法でバグ認定され、この時ミノタウロスが強くなる。そしてあなたを倒したところで、強さは戻り、聖女が簡単に倒せた。ということなら辻褄は合いそうですね。」

強さが変わるかなんて検証出来ないよな。
もし強くなりすぎちゃったら対応できないし。

「あ、そうか。」
「どうしました?」

「僕にコードを見せてもらうことはできますか?」
コードさえ見ることができれば、どういう処理が走るのか分かるよね。

「コードを理解できるのですか?」
「僕、前はそのコードを書く仕事をしていたんです。言語は多少違っても、読んで理解するくらいは出来ると思います。」
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