14 / 73
3.魔手(4)
しおりを挟む
「アシャ!」「うむ!」
瞬時に体がそちらへ向かって走り出すのは本能と化した戦士ゆえの行動、右手には既に長剣を抜き放っている。そのユーノの側を、これまた全身運動神経に変えたようなアシャが、影のように付き従って疾る。
悲鳴がどうやらミダス公の居室から聞こえてきたらしいと察して、ユーノは緊張した顔をアシャと見交わした。
「何があった!」「どこからの声だ!」
次第にざわめきを増し、次々と灯が点る邸内へ駆け込もうとするユーノの目に、ミダス公の居室の窓から飛び出していく人影が映る。
「アシャ! あれ!」
「俺はあいつを追う! ミダス公の所へ!」
「わかった!」
人影は追手を確かめるように少し振り返ったようだ。邸内から漏れる灯に、その耳にきらりと耳輪が光り、濃い灰色の髪が浮かび上がる。
(グードス?!)
ユーノはぎょっとしながらも、そちらはアシャに任せ、屋敷の中へ飛び込んだ。
脳裏に浮かぶのは、つい先日アシャに所用があると言ってミダス公の屋敷へ来ていた、アギャン公の一子『銅羽根』の長、グードスだ。面長の穏やかそうな顔は時に愚鈍にさえ見えると陰口を叩かれつつも、きちんと『銅羽根』を率いている、そうも聞いた。
だが、その『銅羽根』の長が何のためにこんな夜更けに、しかも『銅羽根』の一卒も連れずミダス公屋敷に、つまりは『銀羽根』の長、シャイラの領分を侵していたのかとなると、説明は見つからない。
「おとうさま! おとうさま!!」
悲痛なリディノの声が響き渡る。
「しっかりなさって! おとうさまぁっ!」
「む…」
唸り声が苦しげに応じる。同時に部屋に飛び込んだユーノは、ミダス公がベッドから掛け物ごとずり落ちたような体勢で、しかも左肩と左の太腿を朱に染めて呻いているのに気づいた。蒼白な顔ですがりついたリディノが、耐えかねたように父親を揺さぶって叫んでいる。
「大丈夫だとおっしゃって! リディを残してなどいかないとおっしゃって!」
「う…う…」
揺さぶられるたびにミダス公は苦しげに顔を歪めて、足を庇おうとするように体を固める、それにさえ気づかずに、なおも相手を問いつめようとするリディノを、ユーノは一喝した。
「リディ!」
ぴしりと鞭で打ち据えるように鋭い声で続ける。
「揺さぶっちゃいけない! 出血がひどくなる。ミダス公? 大丈夫ですか」
「う……む」
激しく叱りつけられて、リディノが体を強張らせて竦み、のろのろとようやく顔を向けた。必死の対応を窘められて困惑し苛立った表情から、ユーノを認めて力が抜ける。
「ユー…ノ…」
「く……曲者は…」
険しく眉を寄せながらも、ミダス公は襲撃者を探した。揺れる視界を忙しく、ユーノ、戸口、窓と移して訝る。
「アシャが追っています。リディ!」
ユーノは剣を納め、右手一本で左手を吊っていた三角巾を外した。慌てて手を差し出したリディノの助けを借りつつ、出血の止まらないミダス公の左肩に巻き付け、縛り上げる。
「綺麗な白い布を持ってきて。それから拭き取り用の布と水も。早く!」
「えっ、あっ…はいっ!」
うろたえて走り出していくリディノの後ろ姿、ようやく駆けつけた公の側近達が一緒になって走り去る。主の側に佇むユーノを見て大丈夫だと考えたのか、それとも、想像外の事態に怯えたのか。
厳しい顔でミダス公を振り向き、改めて傷を確かめ、微かな違和感を感じる。
(それほど深くない……毒物を使った形跡もない……)
左肩と、左太腿。
夜襲にしては奇妙な場所を狙ったものだ。絶命させるつもりがなかったのか、脅威を与えるだけだったのか。にしては、夜半にこんなところまで忍び込むというのは、踏み込みがすぎないか。
「ユーノ! 持ってきたわ!」
「んっ、ありがとう!」
思考は戻ってきたリディノに断ち切られた。
傷の手当なら慣れたものだ。水で洗い丁寧に拭い、用意された布を歯と手で裂き、止血の場所を確認しながら数カ所巻き付けていく。左肩も太腿も、確かに傷は派手で出血量も多く見えるが、傷を拭っていけば創部はすぐに明らかになり、次々と吹き出すような出血はない。
(大きな血の流れは傷つけていない…)
以前アシャは、人の体には大きく分けて二つの流れがあり、鮮やかな赤い血潮を流し出すものとややくすんだ暗い血を零すものがあると教えてくれた。
『赤くて次々と吹き出す流れは心臓から溢れたものだ。暗くて零れ落ちるものは心臓に戻るものだ』
前者を傷つけると、血は一気に激しく流れ、すぐに絶命を招く。後者の場合は命を失うまでにいささかの時間が必要となる。
言われて考えてみれば、一太刀で相手を屠れる時は大抵鮮やかな紅が飛び散っている。逆に何太刀も浴びせなくてはならない時は吹き出す血ではなくて、体を這い下り伝い落ちる出血が多い気がする。
『…アシャ……教えてもらってる、あの剣』
『ん?』
『あれは、ひょっとすると、その鮮やかな血の流れを切るために、ああいう動きになってる?』
尋ねた瞬間、アシャは目を見開き、やがて嬉しそうに笑って応じたものだ。
『……ああ、その通りだ。急所を狙うのは剣法としては当たり前だが、あの剣は急所と呼ばれる以外にそこを傷つけると出血がひどくなって動けなくなる場所を狙っていくようにも作られた型だ』
だから、視察官(オペ)の剣法は通常のものと区別されるのか、と改めて得心がいった。人の体にある二つの流れを見極め、それが体のどの部分で表面に近い場所を走っているのか理解して初めて使えるその剣を、『型』として完成させているから、その知識が全くない者でも『型』を覚え込むことで、その剣を使えるようになる。
『他にもまだあるぞ、神経を麻痺させる場所、意識を奪う場所…』
アシャは一瞬奇妙な笑みを唇の端に浮かべて続けた。
『幻を見せたり、聞こえないものを聞かせたりする場所』
『……ああ……そういうことか…』
『ん?』
『だから、あの剣を使った相手が一瞬身動き取れなくなるんだね…?』
それまではアシャの剣に見惚れているのだと思っていた。その美技に戦いの最中でも魅せられてしまうのだと。
だがそれだけではない。あの剣は、そんな感覚上だけではなく、現実にこの体の動きそのものを奪っていく仕掛けが組み込まれているのだ。
『ひょっとして……短剣、なのも、意味がある?』
『……ああ』
体のあちこちに、どれほどその『場所』があるのかは知らないが、動き回り襲い掛かってくる相手に対して、その『場所』を攻撃するなら、長剣では入り込めない『場所』もあるだろう。短剣で、しかも目くらましの動きを備えて飛び込むからこそ晒される『急所』に敵が気づいた時には、既に全てが終っている。
『全く違う剣、なんだね』
『………そうも言えるな』
単に生き残るために、或いは誰かを護るために磨き抜かれた剣ではない。精神を鍛えたり、身体能力を整えたりする剣でもない。
それは屠殺するための剣。
如何に相手の抵抗を最大限に減じ、如何に自分の体力を浪費せずに短時間に大量の命を奪えるかを目的とした剣。
だからこそ、アシャは、あのモス兵士の大隊を片付けるのに剣で間に合わないと判断した時、宙道(シノイ)に封じるという決断をすぐに下せた。元から『全てを屠る』という判断が織り込み済みだった剣法の遣い手だったからだ。
それは、ユーノが得て来た剣とは全く違う方向の剣だ。
ユーノがあまりにも強張った顔をしていたのだろう、アシャは一瞬瞳を翳らせ、それから苦笑まじりにぽんとユーノの頭を叩いた。
『そんな顔をするな』
誰にでも向ける剣じゃない。
『安心しろ』
ふいと顔を背けた横顔に、ユーノは『狩人の山』(オムニド)を思い出した。その剣を持っても立ち向かうことが容易ではない『泉の狩人』(オーミノ)。彼女らを持ってしても、戦うことに倦むことしかできなくなる『運命(リマイン)』。
ユーノがこれから挑もうとする世界は、何と非情なものなのだろう。
けれど。
思い浮かんだのは、アシャの医術師としての有能さだ。
あの能力はきっと、その剣の遣い手であるということと表裏一体だろう。
だから。
『でも』
『ん?』
『この剣を、もしちゃんと全部身に着ければ』
訝しげに振り向いたアシャの目は、続けたことばに見開かれる。
『どうすれば殺さずに動けなくできるかということも、きっとわかるね?』
『……ああ…』
『どうすれば、傷ついた人を一番早く治せるかということも、きっとわかるね?』
『…そう……だな』
まるで新しい光が宿ったかのようにきららかに輝いた、紫の瞳。
『私はそこまで身に着けたい』
『ユーノ…』
茫然としたその表情。
「ユーノ!」
「っっ!」
呼びかけられてユーノは我に返った。
記憶の中と同じ声が、苛立たしげに唸りながら響く。
「だめだ、逃げられた」
身構えたユーノに、息を切らせながら入ってきたアシャが、うっとうしそうに首を振った。
瞬時に体がそちらへ向かって走り出すのは本能と化した戦士ゆえの行動、右手には既に長剣を抜き放っている。そのユーノの側を、これまた全身運動神経に変えたようなアシャが、影のように付き従って疾る。
悲鳴がどうやらミダス公の居室から聞こえてきたらしいと察して、ユーノは緊張した顔をアシャと見交わした。
「何があった!」「どこからの声だ!」
次第にざわめきを増し、次々と灯が点る邸内へ駆け込もうとするユーノの目に、ミダス公の居室の窓から飛び出していく人影が映る。
「アシャ! あれ!」
「俺はあいつを追う! ミダス公の所へ!」
「わかった!」
人影は追手を確かめるように少し振り返ったようだ。邸内から漏れる灯に、その耳にきらりと耳輪が光り、濃い灰色の髪が浮かび上がる。
(グードス?!)
ユーノはぎょっとしながらも、そちらはアシャに任せ、屋敷の中へ飛び込んだ。
脳裏に浮かぶのは、つい先日アシャに所用があると言ってミダス公の屋敷へ来ていた、アギャン公の一子『銅羽根』の長、グードスだ。面長の穏やかそうな顔は時に愚鈍にさえ見えると陰口を叩かれつつも、きちんと『銅羽根』を率いている、そうも聞いた。
だが、その『銅羽根』の長が何のためにこんな夜更けに、しかも『銅羽根』の一卒も連れずミダス公屋敷に、つまりは『銀羽根』の長、シャイラの領分を侵していたのかとなると、説明は見つからない。
「おとうさま! おとうさま!!」
悲痛なリディノの声が響き渡る。
「しっかりなさって! おとうさまぁっ!」
「む…」
唸り声が苦しげに応じる。同時に部屋に飛び込んだユーノは、ミダス公がベッドから掛け物ごとずり落ちたような体勢で、しかも左肩と左の太腿を朱に染めて呻いているのに気づいた。蒼白な顔ですがりついたリディノが、耐えかねたように父親を揺さぶって叫んでいる。
「大丈夫だとおっしゃって! リディを残してなどいかないとおっしゃって!」
「う…う…」
揺さぶられるたびにミダス公は苦しげに顔を歪めて、足を庇おうとするように体を固める、それにさえ気づかずに、なおも相手を問いつめようとするリディノを、ユーノは一喝した。
「リディ!」
ぴしりと鞭で打ち据えるように鋭い声で続ける。
「揺さぶっちゃいけない! 出血がひどくなる。ミダス公? 大丈夫ですか」
「う……む」
激しく叱りつけられて、リディノが体を強張らせて竦み、のろのろとようやく顔を向けた。必死の対応を窘められて困惑し苛立った表情から、ユーノを認めて力が抜ける。
「ユー…ノ…」
「く……曲者は…」
険しく眉を寄せながらも、ミダス公は襲撃者を探した。揺れる視界を忙しく、ユーノ、戸口、窓と移して訝る。
「アシャが追っています。リディ!」
ユーノは剣を納め、右手一本で左手を吊っていた三角巾を外した。慌てて手を差し出したリディノの助けを借りつつ、出血の止まらないミダス公の左肩に巻き付け、縛り上げる。
「綺麗な白い布を持ってきて。それから拭き取り用の布と水も。早く!」
「えっ、あっ…はいっ!」
うろたえて走り出していくリディノの後ろ姿、ようやく駆けつけた公の側近達が一緒になって走り去る。主の側に佇むユーノを見て大丈夫だと考えたのか、それとも、想像外の事態に怯えたのか。
厳しい顔でミダス公を振り向き、改めて傷を確かめ、微かな違和感を感じる。
(それほど深くない……毒物を使った形跡もない……)
左肩と、左太腿。
夜襲にしては奇妙な場所を狙ったものだ。絶命させるつもりがなかったのか、脅威を与えるだけだったのか。にしては、夜半にこんなところまで忍び込むというのは、踏み込みがすぎないか。
「ユーノ! 持ってきたわ!」
「んっ、ありがとう!」
思考は戻ってきたリディノに断ち切られた。
傷の手当なら慣れたものだ。水で洗い丁寧に拭い、用意された布を歯と手で裂き、止血の場所を確認しながら数カ所巻き付けていく。左肩も太腿も、確かに傷は派手で出血量も多く見えるが、傷を拭っていけば創部はすぐに明らかになり、次々と吹き出すような出血はない。
(大きな血の流れは傷つけていない…)
以前アシャは、人の体には大きく分けて二つの流れがあり、鮮やかな赤い血潮を流し出すものとややくすんだ暗い血を零すものがあると教えてくれた。
『赤くて次々と吹き出す流れは心臓から溢れたものだ。暗くて零れ落ちるものは心臓に戻るものだ』
前者を傷つけると、血は一気に激しく流れ、すぐに絶命を招く。後者の場合は命を失うまでにいささかの時間が必要となる。
言われて考えてみれば、一太刀で相手を屠れる時は大抵鮮やかな紅が飛び散っている。逆に何太刀も浴びせなくてはならない時は吹き出す血ではなくて、体を這い下り伝い落ちる出血が多い気がする。
『…アシャ……教えてもらってる、あの剣』
『ん?』
『あれは、ひょっとすると、その鮮やかな血の流れを切るために、ああいう動きになってる?』
尋ねた瞬間、アシャは目を見開き、やがて嬉しそうに笑って応じたものだ。
『……ああ、その通りだ。急所を狙うのは剣法としては当たり前だが、あの剣は急所と呼ばれる以外にそこを傷つけると出血がひどくなって動けなくなる場所を狙っていくようにも作られた型だ』
だから、視察官(オペ)の剣法は通常のものと区別されるのか、と改めて得心がいった。人の体にある二つの流れを見極め、それが体のどの部分で表面に近い場所を走っているのか理解して初めて使えるその剣を、『型』として完成させているから、その知識が全くない者でも『型』を覚え込むことで、その剣を使えるようになる。
『他にもまだあるぞ、神経を麻痺させる場所、意識を奪う場所…』
アシャは一瞬奇妙な笑みを唇の端に浮かべて続けた。
『幻を見せたり、聞こえないものを聞かせたりする場所』
『……ああ……そういうことか…』
『ん?』
『だから、あの剣を使った相手が一瞬身動き取れなくなるんだね…?』
それまではアシャの剣に見惚れているのだと思っていた。その美技に戦いの最中でも魅せられてしまうのだと。
だがそれだけではない。あの剣は、そんな感覚上だけではなく、現実にこの体の動きそのものを奪っていく仕掛けが組み込まれているのだ。
『ひょっとして……短剣、なのも、意味がある?』
『……ああ』
体のあちこちに、どれほどその『場所』があるのかは知らないが、動き回り襲い掛かってくる相手に対して、その『場所』を攻撃するなら、長剣では入り込めない『場所』もあるだろう。短剣で、しかも目くらましの動きを備えて飛び込むからこそ晒される『急所』に敵が気づいた時には、既に全てが終っている。
『全く違う剣、なんだね』
『………そうも言えるな』
単に生き残るために、或いは誰かを護るために磨き抜かれた剣ではない。精神を鍛えたり、身体能力を整えたりする剣でもない。
それは屠殺するための剣。
如何に相手の抵抗を最大限に減じ、如何に自分の体力を浪費せずに短時間に大量の命を奪えるかを目的とした剣。
だからこそ、アシャは、あのモス兵士の大隊を片付けるのに剣で間に合わないと判断した時、宙道(シノイ)に封じるという決断をすぐに下せた。元から『全てを屠る』という判断が織り込み済みだった剣法の遣い手だったからだ。
それは、ユーノが得て来た剣とは全く違う方向の剣だ。
ユーノがあまりにも強張った顔をしていたのだろう、アシャは一瞬瞳を翳らせ、それから苦笑まじりにぽんとユーノの頭を叩いた。
『そんな顔をするな』
誰にでも向ける剣じゃない。
『安心しろ』
ふいと顔を背けた横顔に、ユーノは『狩人の山』(オムニド)を思い出した。その剣を持っても立ち向かうことが容易ではない『泉の狩人』(オーミノ)。彼女らを持ってしても、戦うことに倦むことしかできなくなる『運命(リマイン)』。
ユーノがこれから挑もうとする世界は、何と非情なものなのだろう。
けれど。
思い浮かんだのは、アシャの医術師としての有能さだ。
あの能力はきっと、その剣の遣い手であるということと表裏一体だろう。
だから。
『でも』
『ん?』
『この剣を、もしちゃんと全部身に着ければ』
訝しげに振り向いたアシャの目は、続けたことばに見開かれる。
『どうすれば殺さずに動けなくできるかということも、きっとわかるね?』
『……ああ…』
『どうすれば、傷ついた人を一番早く治せるかということも、きっとわかるね?』
『…そう……だな』
まるで新しい光が宿ったかのようにきららかに輝いた、紫の瞳。
『私はそこまで身に着けたい』
『ユーノ…』
茫然としたその表情。
「ユーノ!」
「っっ!」
呼びかけられてユーノは我に返った。
記憶の中と同じ声が、苛立たしげに唸りながら響く。
「だめだ、逃げられた」
身構えたユーノに、息を切らせながら入ってきたアシャが、うっとうしそうに首を振った。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる