48 / 74
48
しおりを挟む
「は?」
「だーかーらっ」
耳に入ったことばがうまく理解できなくて瞬きした正志に、桃花はゆっくり繰り返した。
「三上さんに、あたしの気持ちを伝えてほしいなって」
「えーと……それはどういう……気持ち?」
「やだっ!」
ぱちん、と覗き込まれたままの姿勢で肩を叩かれる。
「いたい……」
「正志くん、鈍いっ」
「……っていうと、やっぱり好きだとか」
「愛してるとか、恋しいとか♪」
ことばの語尾を弾ませて笑う桃花に何となく茫然としてしまう。
ああ、やっぱり僕の勘って当たるんだなあ。
正志はごくん、とコーヒーを呑み込んだ。
当たって欲しくない時ばっかだけど。
「いつから……好きなの?」
「んー、初めて会った時から。一目惚れ? うん、そうだと思う」
「入院した時?」
「うん。何か線が細くて綺麗な子がいるなあって思ってた。あたしは食べ過ぎでお腹壊してたんだけど」
「食べ過ぎで入院?」
「えーと、ちょっと半端じゃない量を食べたから」
へへへ、と桃花は引きつった顔で笑う。
「………中身は聞かない方がいい?」
「いい」
「わかった、で、そこで入院してて」
「うん、すぐに元気になったけど、後2~3日様子見ましょうって。退屈だったのよ、あそこ。病院って今もそうだと思うから、時々ああやってボランティアでコンサートして回んのね。子どもって反応がストレートだし、こっちが気持ち込めてないとすぐどっか行っちゃうしね、武者修行」
「なるほど」
「でも、他のことも一杯勉強したよ?」
桃花は指を組んで顎を載せ、何かを探すように天井を見上げた。
「歌を好きじゃない子もいる。静かに寝ていたい子もいる。明るい歌ばかりが好きなんじゃなくて、こんなの好きなのって思うような暗い歌が好きな子もいる。歌って、その歌のカラーもあるけれど、なんていうのか、聴いてくれる人の数だけバリエーションがあるんだって気づいたら、もうボランティアなんかじゃなくて、どうかどうか歌わせて下さい、って感じ?」
ちゅるんと吸い込めそうな艶やかな唇を尖らせて、少しフレーズを口ずさむ。
「これだってね」
リズムを変えて、ちょっとバラード風に。次はアップテンポで。
「それにこう」
音域を変えてシックな感じに、高めでぴんぴんと跳ねてアニメっぽく。
「こんなこともできるよ、僕ら歌う歌う僕ら鼓動跳ねて跳ねて歩く歩く速度速度越えていつか地球地球回す」
そのフレーズのままことばを続けてラップにしてみせた。
「一つの曲をアレンジし直すだけでステージが違う。その曲をさまざまに組み合わせてまたステージが変わる。まるで服をコーディネイトするみたいに、あたしは曲と自分をステージにコーディネイトするの、楽しいったら」
くすくす笑って、少し生真面目になった。
「けどそうやって一度三上病院に来たときね、実は三上さんに目一杯怒られたんだ」
「え?」
「自分が楽しむために来てるなら帰ってくれ、ここに居る子どもは自分のことで手一杯だ、あなたのことまで面倒みきれない、って」
「……」
「静かな低い声だけど、凄く怖くて。………あたしね、知ってた、あの時の王子さまが三上さんだって。だからここへ来るのも凄く緊張して、うんと綺麗なかっこして、好かれたくて見てほしくっておしゃれして、子ども達に受ける歌とあたしが可愛く見える曲を選んでた。それをあっという間に見抜かれちゃった」
ちろっと舌を出して笑った桃花が一瞬年相応の大人の顔になった。
「馬鹿でした」
「だーかーらっ」
耳に入ったことばがうまく理解できなくて瞬きした正志に、桃花はゆっくり繰り返した。
「三上さんに、あたしの気持ちを伝えてほしいなって」
「えーと……それはどういう……気持ち?」
「やだっ!」
ぱちん、と覗き込まれたままの姿勢で肩を叩かれる。
「いたい……」
「正志くん、鈍いっ」
「……っていうと、やっぱり好きだとか」
「愛してるとか、恋しいとか♪」
ことばの語尾を弾ませて笑う桃花に何となく茫然としてしまう。
ああ、やっぱり僕の勘って当たるんだなあ。
正志はごくん、とコーヒーを呑み込んだ。
当たって欲しくない時ばっかだけど。
「いつから……好きなの?」
「んー、初めて会った時から。一目惚れ? うん、そうだと思う」
「入院した時?」
「うん。何か線が細くて綺麗な子がいるなあって思ってた。あたしは食べ過ぎでお腹壊してたんだけど」
「食べ過ぎで入院?」
「えーと、ちょっと半端じゃない量を食べたから」
へへへ、と桃花は引きつった顔で笑う。
「………中身は聞かない方がいい?」
「いい」
「わかった、で、そこで入院してて」
「うん、すぐに元気になったけど、後2~3日様子見ましょうって。退屈だったのよ、あそこ。病院って今もそうだと思うから、時々ああやってボランティアでコンサートして回んのね。子どもって反応がストレートだし、こっちが気持ち込めてないとすぐどっか行っちゃうしね、武者修行」
「なるほど」
「でも、他のことも一杯勉強したよ?」
桃花は指を組んで顎を載せ、何かを探すように天井を見上げた。
「歌を好きじゃない子もいる。静かに寝ていたい子もいる。明るい歌ばかりが好きなんじゃなくて、こんなの好きなのって思うような暗い歌が好きな子もいる。歌って、その歌のカラーもあるけれど、なんていうのか、聴いてくれる人の数だけバリエーションがあるんだって気づいたら、もうボランティアなんかじゃなくて、どうかどうか歌わせて下さい、って感じ?」
ちゅるんと吸い込めそうな艶やかな唇を尖らせて、少しフレーズを口ずさむ。
「これだってね」
リズムを変えて、ちょっとバラード風に。次はアップテンポで。
「それにこう」
音域を変えてシックな感じに、高めでぴんぴんと跳ねてアニメっぽく。
「こんなこともできるよ、僕ら歌う歌う僕ら鼓動跳ねて跳ねて歩く歩く速度速度越えていつか地球地球回す」
そのフレーズのままことばを続けてラップにしてみせた。
「一つの曲をアレンジし直すだけでステージが違う。その曲をさまざまに組み合わせてまたステージが変わる。まるで服をコーディネイトするみたいに、あたしは曲と自分をステージにコーディネイトするの、楽しいったら」
くすくす笑って、少し生真面目になった。
「けどそうやって一度三上病院に来たときね、実は三上さんに目一杯怒られたんだ」
「え?」
「自分が楽しむために来てるなら帰ってくれ、ここに居る子どもは自分のことで手一杯だ、あなたのことまで面倒みきれない、って」
「……」
「静かな低い声だけど、凄く怖くて。………あたしね、知ってた、あの時の王子さまが三上さんだって。だからここへ来るのも凄く緊張して、うんと綺麗なかっこして、好かれたくて見てほしくっておしゃれして、子ども達に受ける歌とあたしが可愛く見える曲を選んでた。それをあっという間に見抜かれちゃった」
ちろっと舌を出して笑った桃花が一瞬年相応の大人の顔になった。
「馬鹿でした」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる