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『人間たちの夜』4.付き合いはほどほどに(3)
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「…今…どの辺りに…いる…?」
尋ねる声が呼吸で乱れる。
「この近くの路地……でも…なぜ追われて……るんだろう…」
周一郎も呼吸を乱して答える。やっと俺から関心が移ってほっとしながら、今度は相手の体調が気になって速度を緩めた。
「近いって?」
「ええ…」
急足程度になりながら、周一郎は丁寧に辺りを見回している。ルトの視界と一致する場所を見つけようとしているのだろう。
そっちは周一郎に任せて、俺はルトを追いかけていたと言うチンピラ風の二人連れが周囲に居ないか見渡した。
けれど、確かに不思議だ、なんでそんな二人がルトを追いかけているんだろう。
「でも、なんだってあの猫を追うんです、兄貴」
ふいに考えたままをことばにされてぎょっとした。
声がした方向を見ると、派手な赤シャツに黒の背広上下を着た男が、小柄な男にまとわりつかれながら歩いている。サングラスが今一つ不似合いで、いかにもカッコつけただけに見える。
周一郎を突いて、建物の陰に身を潜める。
「おめぇ、見なかったのか、あの猫の首をよ」
ガラガラ声で唸るのも、何となく映画の台詞回しに聞こえた。周一郎が振り返り、俺に頷く。
「あらぁ、かなりの上物だぜ、ガラス玉じゃねえな、宝石だよ、本物の」
「…あいつらか?」
「…ええ、そうですね」
俺の囁きに周一郎が応じ、すぐに視線を外らせる。
「あ、ルトが来た」
今しも、路地の片隅から青灰色の肢体が闇から溶け出すようにするりと抜け出してくる。用心深く辺りを見回していたが、とっとっと軽い足音を立てて走り出す。
「兄貴」「…おう」
素早く見て取った二人が、これも体を潜めて目配せし合う。
二人に気づかないまま、ルトはしなやかに体を躍らせて道を進む。首から下がった緑色の宝石がキラキラ光りながら揺れている。
(ようやく見つけた…)
神様仏様ルト様。その小さな姿がどれだけ神々しく感じたことか。
これでやっと『まともな』生活に戻れるのだ。
「ルト……ルト……」
唾を飲み込み、そっとそっと小声で呼ぶ。ピクリと体を震わせて立ち止まったルトが、小さな頭をゆっくり巡らせて俺を見つける。
「にゃぁん」
ああ何て可愛い声だ!天界の歌声さながら、身体中に喜びが溢れるのに感激しながら、ひょいひょいと手招きする。
「こっちだ、ルト」
ニヤリと笑うように目を細め口を開いて光る牙を見せたルトは、不穏を満たしつつもとことことこちらへ歩み寄ってくる。
ある、確かに胸元に光る宝石が揺れている。もう少し、もう少しで指が届く。おいでおいでとにこやかに、ひきつりながら指を伸ばす、後少し、もう一、二㎝。が、次の瞬間。
「滝さんっ!!」
警戒を響かせて周一郎が叫んだ。手の届くところまで来ていたルトも、急いで身を翻す。
「ばっ」
馬鹿野郎もう少しのところだったんだぞ。
怒鳴りかけた俺は振り返り、視界一杯に飛びかかってくる人間に息を飲んだ。赤シャツとチンピラ、加えて警官二人、つまりは計四人が立て続けになだれ込むように降ってくる。
「??!!!」「滝さん!」
周一郎が悲鳴じみた声をあげる。四人にのしかかられた俺は、何が何だかわからないまま息苦しさにもがく。
「離せっ!」
赤シャツの声を皮切りに一斉に喚き声が入り混じる。
「てめぇ、兄貴をどうしやがる!」「動くな誘拐犯!」「大人しくしろ!」「何が誘拐だっ!」「俺は違」「猫を狙ったな!」「ふてぶてしい奴め!」「この二人は仲間か!」「何で兄貴が仲間なんだよ!」「お前も宝石狙いか!」「宝石がどうした誘拐犯!」「俺は違う…」「宝石はどこだ!」「逃げたじゃねえか猫が!」「てめえのせいだ!」「ぐっ、本官の腹を蹴ったな!」「げっお前同僚の足を」「いててっ兄貴それおいらの腕っす!」「てめぇ殴りやがったな!」「や、やめろこんな状態で殴り合ったらもう…」
ごろごろ転がる人間団子の中で喚いた途端、目の前でピンクと水色の星が飛んだ。どいつの拳か知らないが腹部にめり込んだ一撃に吐きそうになる。ぼうっとした俺をよそに四人が敵味方構わず殴り合い喚きあいながら手足を振り回しているところへ、ピリピリピリっとけたたましい警笛の音が響いた。
「こらこら何をしておる!非常警護中だぞお前ら!」
駆けつけて来た別の警官がチンピラを剥ぎ取ろうとしたが、絡まってて外れそうにない。絡まった警官の手の一方が俺の体の下にあり、チンピラの足の一本が俺の手のあたりから突き出してる。しばらく悲鳴と罵声を浴びながら、パズルを解く警官が二人になり、三人になろうとしたところでようやくチンピラと警官が引き離され、後に残ったのは半分のびて寝そべったままの俺ひとり。
「何してるんだ!」
また別口で重い足音が響いて、聞き覚えのある声が唸った。
「何だ、また君か」
「また君か、じゃないですよ…」
いたたっ、と顔をしかめて恨めしく厚木警部を見上げる。
相手は吹き出しそうなのを必死に堪えている。
「で、今度はどうしてこんな所に現れた?」
「いや、実は例の…」
「滝さん!」
何とか半身起して説明しようとした矢先、胸に周一郎が飛びついて来て再び背後に押し倒された。
「ぐわっ」
「ケガしてないですよね、してませんよね」
強いて感情を抑えようとして失敗した震え声で周一郎が尋ねてくる。妙な雰囲気に気づいたのか、世にも奇妙な顔になって、厚木警部は俺と周一郎を見比べる。
「滝くん…君…」
「や、やだなあ!」
相手の視線が意味するところを察して、俺は慌てて弁解した。
「ほら言ったでしょ、薬の」
「ああ、薬の?」
「何で疑問形?」
「うーむ」
「そこ唸るとこじゃないっ………?」
興奮して怒鳴りかけたが、ふと気づいてことばを切った。
(周一郎?)
まだ胸にしがみついた周一郎がガタガタ震えている。
「おい?」
「…」
無言のまま体を竦ませる相手が呼吸も速めているのに、ふっと優しい気持ちになった。
周一郎が俺に惚れてる惚れてないは別にしても、俺の安全を心配してくれているのは本当じゃないか。その親愛まで拒否することはできないだろう。微笑んで周一郎の頭に手を載せる。ピタリと震えが止まる。
「大丈夫だ、どこも怪我なんてしてない」
「本当に?」
くぐもった声が囁いて、そろそろと周一郎が顔をあげた。疑うような上目遣い、頭に載せた手が背中へ滑り落ちるのを珍しく嫌がることもなく、やがてしっかり顔を上げて俺を見つめ返す。
不安と涙で潤んだ瞳、いつも深く憂いをたたえている目がゆっくり近づいてくる。
「滝さん…」
ほっとした顔で小さく笑う。しがみついて来ていた腕がようやく緩み、そのまま俺の腕の外を滑って肩から首へ巻きついてくる。長い睫毛に溜まった雫が光っているなあ、とぼんやり思った瞬間、
「あっ兄貴っあの猫っ!」
チンピラの声に我に返った。
「う、わっ!」
今にもそのまま唇を押し付けられそうな距離にパニックになる。
「騒がないでください。ここまで自由にさせてくれたくせに」
甘く囁いて周一郎はくすっと魔的な笑みを響かせた。
「待て今の!」
「滝さん、思ったより堅いんだもの」
「芝居ィっ!!」
「ふふっ」
耳元でくすぐるように笑われて総毛立った。
何だこいつ、何でこんなに色っぽいんだええそれとも俺か、俺がどこかどうにかしたのか!
危うくそのままいつかのように、隙を突かれて今度こそ『唇を奪われる』ところだったが、天の配剤、目の前で始まった痴態に呆然とした警官の腕から、チンピラ二人がすり抜けた。
「あっ」
「兄貴、あそこですぜ!」
「ちいっ!」
追われてると気づいたのか、一瞬立ち止まっていたルトは、からかうようにチンピラ二人の前を軽々と走り始めている。
「すまん、ちょっと!」「あ!」
できる限り優しく周一郎を跳ねのけて、俺も立ち上がって走り出した。
こうなったら、とにかくルトから宝石を奪うしかない。チンピラどもに先に持って行かれては目も当てられない。
「こら待て!」「いかん、犯人が!!」
背後で警官と厚木警部が追跡に加わった気配がした。
「兄貴そこだ!」「わかってる!!」
二人のチンピラはかまわずルトを追う。
「く~~そ~~!!」
俺も必死に追いかける。
「滝さん!」
周一郎が後から走って来る。
ルト一匹が、警官四人、厚木警部、チンピラ二人、俺、周一郎の順に総勢九人を引き連れて逃げ回る事態になった。警官が走りながら「猫を追え」と怒鳴り、厚木警部が「誘拐犯人に気づかれぬように辺りの工場を手当たり次第に調べろ」と指示したものだから、見る間に追跡者の数は凄まじいものになった。
「ひえっ」
地鳴りじみた足音に振り向けば、既にルトを追っかけてるのやら、警官に追われているのやらわからない。南中島一帯がどえらい騒ぎになってしまっている。
「待てっ、くそ猫!」
「ルト、待ってくれ!」
「待つんだ、このチンピラ!!」
「待ちたまえ、滝君!」
「滝さん!」
「待てっ、犯人の一味!」
「あの工場に入ったぞ!」
「そっちだ!」
「あそこだ!」
「ルトっ!」
「滝さんっ!」
「待てっ犯人!」
「ルトが!」
「兄貴、そっちだ!」
どうにも収拾がつかなくなった。誰が何をどうして追っかけてるのか混ぜこぜになっている。
「っ、誰のせいなんだよっっ!!」
怒鳴った俺の頭に浮かんだのは、言わずと知れた宮田だった。
尋ねる声が呼吸で乱れる。
「この近くの路地……でも…なぜ追われて……るんだろう…」
周一郎も呼吸を乱して答える。やっと俺から関心が移ってほっとしながら、今度は相手の体調が気になって速度を緩めた。
「近いって?」
「ええ…」
急足程度になりながら、周一郎は丁寧に辺りを見回している。ルトの視界と一致する場所を見つけようとしているのだろう。
そっちは周一郎に任せて、俺はルトを追いかけていたと言うチンピラ風の二人連れが周囲に居ないか見渡した。
けれど、確かに不思議だ、なんでそんな二人がルトを追いかけているんだろう。
「でも、なんだってあの猫を追うんです、兄貴」
ふいに考えたままをことばにされてぎょっとした。
声がした方向を見ると、派手な赤シャツに黒の背広上下を着た男が、小柄な男にまとわりつかれながら歩いている。サングラスが今一つ不似合いで、いかにもカッコつけただけに見える。
周一郎を突いて、建物の陰に身を潜める。
「おめぇ、見なかったのか、あの猫の首をよ」
ガラガラ声で唸るのも、何となく映画の台詞回しに聞こえた。周一郎が振り返り、俺に頷く。
「あらぁ、かなりの上物だぜ、ガラス玉じゃねえな、宝石だよ、本物の」
「…あいつらか?」
「…ええ、そうですね」
俺の囁きに周一郎が応じ、すぐに視線を外らせる。
「あ、ルトが来た」
今しも、路地の片隅から青灰色の肢体が闇から溶け出すようにするりと抜け出してくる。用心深く辺りを見回していたが、とっとっと軽い足音を立てて走り出す。
「兄貴」「…おう」
素早く見て取った二人が、これも体を潜めて目配せし合う。
二人に気づかないまま、ルトはしなやかに体を躍らせて道を進む。首から下がった緑色の宝石がキラキラ光りながら揺れている。
(ようやく見つけた…)
神様仏様ルト様。その小さな姿がどれだけ神々しく感じたことか。
これでやっと『まともな』生活に戻れるのだ。
「ルト……ルト……」
唾を飲み込み、そっとそっと小声で呼ぶ。ピクリと体を震わせて立ち止まったルトが、小さな頭をゆっくり巡らせて俺を見つける。
「にゃぁん」
ああ何て可愛い声だ!天界の歌声さながら、身体中に喜びが溢れるのに感激しながら、ひょいひょいと手招きする。
「こっちだ、ルト」
ニヤリと笑うように目を細め口を開いて光る牙を見せたルトは、不穏を満たしつつもとことことこちらへ歩み寄ってくる。
ある、確かに胸元に光る宝石が揺れている。もう少し、もう少しで指が届く。おいでおいでとにこやかに、ひきつりながら指を伸ばす、後少し、もう一、二㎝。が、次の瞬間。
「滝さんっ!!」
警戒を響かせて周一郎が叫んだ。手の届くところまで来ていたルトも、急いで身を翻す。
「ばっ」
馬鹿野郎もう少しのところだったんだぞ。
怒鳴りかけた俺は振り返り、視界一杯に飛びかかってくる人間に息を飲んだ。赤シャツとチンピラ、加えて警官二人、つまりは計四人が立て続けになだれ込むように降ってくる。
「??!!!」「滝さん!」
周一郎が悲鳴じみた声をあげる。四人にのしかかられた俺は、何が何だかわからないまま息苦しさにもがく。
「離せっ!」
赤シャツの声を皮切りに一斉に喚き声が入り混じる。
「てめぇ、兄貴をどうしやがる!」「動くな誘拐犯!」「大人しくしろ!」「何が誘拐だっ!」「俺は違」「猫を狙ったな!」「ふてぶてしい奴め!」「この二人は仲間か!」「何で兄貴が仲間なんだよ!」「お前も宝石狙いか!」「宝石がどうした誘拐犯!」「俺は違う…」「宝石はどこだ!」「逃げたじゃねえか猫が!」「てめえのせいだ!」「ぐっ、本官の腹を蹴ったな!」「げっお前同僚の足を」「いててっ兄貴それおいらの腕っす!」「てめぇ殴りやがったな!」「や、やめろこんな状態で殴り合ったらもう…」
ごろごろ転がる人間団子の中で喚いた途端、目の前でピンクと水色の星が飛んだ。どいつの拳か知らないが腹部にめり込んだ一撃に吐きそうになる。ぼうっとした俺をよそに四人が敵味方構わず殴り合い喚きあいながら手足を振り回しているところへ、ピリピリピリっとけたたましい警笛の音が響いた。
「こらこら何をしておる!非常警護中だぞお前ら!」
駆けつけて来た別の警官がチンピラを剥ぎ取ろうとしたが、絡まってて外れそうにない。絡まった警官の手の一方が俺の体の下にあり、チンピラの足の一本が俺の手のあたりから突き出してる。しばらく悲鳴と罵声を浴びながら、パズルを解く警官が二人になり、三人になろうとしたところでようやくチンピラと警官が引き離され、後に残ったのは半分のびて寝そべったままの俺ひとり。
「何してるんだ!」
また別口で重い足音が響いて、聞き覚えのある声が唸った。
「何だ、また君か」
「また君か、じゃないですよ…」
いたたっ、と顔をしかめて恨めしく厚木警部を見上げる。
相手は吹き出しそうなのを必死に堪えている。
「で、今度はどうしてこんな所に現れた?」
「いや、実は例の…」
「滝さん!」
何とか半身起して説明しようとした矢先、胸に周一郎が飛びついて来て再び背後に押し倒された。
「ぐわっ」
「ケガしてないですよね、してませんよね」
強いて感情を抑えようとして失敗した震え声で周一郎が尋ねてくる。妙な雰囲気に気づいたのか、世にも奇妙な顔になって、厚木警部は俺と周一郎を見比べる。
「滝くん…君…」
「や、やだなあ!」
相手の視線が意味するところを察して、俺は慌てて弁解した。
「ほら言ったでしょ、薬の」
「ああ、薬の?」
「何で疑問形?」
「うーむ」
「そこ唸るとこじゃないっ………?」
興奮して怒鳴りかけたが、ふと気づいてことばを切った。
(周一郎?)
まだ胸にしがみついた周一郎がガタガタ震えている。
「おい?」
「…」
無言のまま体を竦ませる相手が呼吸も速めているのに、ふっと優しい気持ちになった。
周一郎が俺に惚れてる惚れてないは別にしても、俺の安全を心配してくれているのは本当じゃないか。その親愛まで拒否することはできないだろう。微笑んで周一郎の頭に手を載せる。ピタリと震えが止まる。
「大丈夫だ、どこも怪我なんてしてない」
「本当に?」
くぐもった声が囁いて、そろそろと周一郎が顔をあげた。疑うような上目遣い、頭に載せた手が背中へ滑り落ちるのを珍しく嫌がることもなく、やがてしっかり顔を上げて俺を見つめ返す。
不安と涙で潤んだ瞳、いつも深く憂いをたたえている目がゆっくり近づいてくる。
「滝さん…」
ほっとした顔で小さく笑う。しがみついて来ていた腕がようやく緩み、そのまま俺の腕の外を滑って肩から首へ巻きついてくる。長い睫毛に溜まった雫が光っているなあ、とぼんやり思った瞬間、
「あっ兄貴っあの猫っ!」
チンピラの声に我に返った。
「う、わっ!」
今にもそのまま唇を押し付けられそうな距離にパニックになる。
「騒がないでください。ここまで自由にさせてくれたくせに」
甘く囁いて周一郎はくすっと魔的な笑みを響かせた。
「待て今の!」
「滝さん、思ったより堅いんだもの」
「芝居ィっ!!」
「ふふっ」
耳元でくすぐるように笑われて総毛立った。
何だこいつ、何でこんなに色っぽいんだええそれとも俺か、俺がどこかどうにかしたのか!
危うくそのままいつかのように、隙を突かれて今度こそ『唇を奪われる』ところだったが、天の配剤、目の前で始まった痴態に呆然とした警官の腕から、チンピラ二人がすり抜けた。
「あっ」
「兄貴、あそこですぜ!」
「ちいっ!」
追われてると気づいたのか、一瞬立ち止まっていたルトは、からかうようにチンピラ二人の前を軽々と走り始めている。
「すまん、ちょっと!」「あ!」
できる限り優しく周一郎を跳ねのけて、俺も立ち上がって走り出した。
こうなったら、とにかくルトから宝石を奪うしかない。チンピラどもに先に持って行かれては目も当てられない。
「こら待て!」「いかん、犯人が!!」
背後で警官と厚木警部が追跡に加わった気配がした。
「兄貴そこだ!」「わかってる!!」
二人のチンピラはかまわずルトを追う。
「く~~そ~~!!」
俺も必死に追いかける。
「滝さん!」
周一郎が後から走って来る。
ルト一匹が、警官四人、厚木警部、チンピラ二人、俺、周一郎の順に総勢九人を引き連れて逃げ回る事態になった。警官が走りながら「猫を追え」と怒鳴り、厚木警部が「誘拐犯人に気づかれぬように辺りの工場を手当たり次第に調べろ」と指示したものだから、見る間に追跡者の数は凄まじいものになった。
「ひえっ」
地鳴りじみた足音に振り向けば、既にルトを追っかけてるのやら、警官に追われているのやらわからない。南中島一帯がどえらい騒ぎになってしまっている。
「待てっ、くそ猫!」
「ルト、待ってくれ!」
「待つんだ、このチンピラ!!」
「待ちたまえ、滝君!」
「滝さん!」
「待てっ、犯人の一味!」
「あの工場に入ったぞ!」
「そっちだ!」
「あそこだ!」
「ルトっ!」
「滝さんっ!」
「待てっ犯人!」
「ルトが!」
「兄貴、そっちだ!」
どうにも収拾がつかなくなった。誰が何をどうして追っかけてるのか混ぜこぜになっている。
「っ、誰のせいなんだよっっ!!」
怒鳴った俺の頭に浮かんだのは、言わずと知れた宮田だった。
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