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第3章
7.恋愛(6)
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ただでさえ不愉快な相手、しかもより不愉快な状況に、なぜ君まで居る。
そう言いたげに、大石がじろりと一瞬美並に視線を送ってくる。
いつかの夜、『村野』で席を立って以来の再会、しかも、美並は今真崎に庇われている状態、苦しげな顔になった大石が無理矢理視線を逸らせるように真崎を見た。
「これはどういうことですか、真崎さん」
「見ての通りです」
「というと?」
「僕は兄に呼び出されたんですよ」
「兄? 真崎大輔さんが?」
「ええ。僕が『ニット・キャンパス』に参加したがっていたけれど、締め切りに間に合わなかったと聞いて」
真崎が穏やかに説明を始めて美並は納得した。
なるほど、大石を巻き込み、大輔が真崎のみに便宜を計ろうとして呼び出した、それに突っ込ませようというのか。
事情が事情だけに大輔にはこの会合の理由が説明できない。
それに、たぶん大石には真崎と大輔の関係など、想像もできないだろう。
美並は少し切なく悲しくなった。
良い意味でも悪い意味でも、大石は常識的な世界で生きている。大石にはきっと、真崎が追い込まれた立場も美並が追い詰められた場所も理解できない。
それはきっと大石の誠実さとは無縁のこと、けれど、それを理解できなくては美並と一緒に生きてはいけない、そういうことなのだけど。
「どういうことですか」
大石は険しい顔で振り返った大輔を見た。
「今の話からすると、既に締め切られた『ニット・キャンパス』に参加できる『特別な方法』があるようですが……それは弟さん限定、ということですか?」
おいおい。
知らないこととは言え、あまりにも焦点を突き過ぎた質問に、大輔は元よりさすがの真崎も一瞬口を噤んだ。
「真崎さんは同意した……のではないんですね?」
あたりすぎている。
知らないって凄い、と美並も微妙な顔になってしまった。
「でなければ、あなたを呼び出していない」
立ち直ったのはやはり真崎が一番早かった。大石のことばを全て自分の有利になるように展開させる心づもり、大輔が赤くなって真崎を睨みつける。
「はめたのか」
「言ったはずだ。僕はあなたを選ばない、と」
二人の雰囲気に大石が溜め息をついて、軽く背後に視線を投げた。
「志賀」
「はい」
「記録」
「はい」
「何をす、」
大輔が拒む間も与えず、志賀が青い携帯を取り出し、容赦なく大輔と真崎の姿を撮る。慣れた様子で淡々と操作を続け、やがて冷淡な声で報告した。
「転送しました」
「貴様、何を」
「真崎さん、我々は『Brechen』だ」
旧弊を破るために小道具の扱いぐらいは心得ている。裏取り引きや身内の恩情、そういうものに係って時間や機会を無駄にしたくない。
「今の状況は社のデータとして保存される。それがどういうことかおわかりでしょう」
大石が軽く掌を翻すと志賀が携帯を片付ける。まるで大石の手足であるかのように、諾々とその意図を読み取り動く姿に『Brechen』の組織の姿が透けて見えた。
大石をトップとする完全な三角形の組織。整った命令形態と揺らがない実行力。
大石はたぶん同じ形を結婚や家庭に求めただろう。
そしてきっと、美並は大石のその世界のどこにもやっぱり入れなかっただろう、そう思った。
「どいつもこいつも、礼儀知らずだな」
大輔が吐き捨てた。
「好きにすればいい。どうせ俺の一存で参加などできやしない」
大輔の一存では参加できない?
頭の中で繰り返して、その意味に気付く。
はっとしたように真崎も確認する。
「僕も、そうだったんだね?」
そう言いたげに、大石がじろりと一瞬美並に視線を送ってくる。
いつかの夜、『村野』で席を立って以来の再会、しかも、美並は今真崎に庇われている状態、苦しげな顔になった大石が無理矢理視線を逸らせるように真崎を見た。
「これはどういうことですか、真崎さん」
「見ての通りです」
「というと?」
「僕は兄に呼び出されたんですよ」
「兄? 真崎大輔さんが?」
「ええ。僕が『ニット・キャンパス』に参加したがっていたけれど、締め切りに間に合わなかったと聞いて」
真崎が穏やかに説明を始めて美並は納得した。
なるほど、大石を巻き込み、大輔が真崎のみに便宜を計ろうとして呼び出した、それに突っ込ませようというのか。
事情が事情だけに大輔にはこの会合の理由が説明できない。
それに、たぶん大石には真崎と大輔の関係など、想像もできないだろう。
美並は少し切なく悲しくなった。
良い意味でも悪い意味でも、大石は常識的な世界で生きている。大石にはきっと、真崎が追い込まれた立場も美並が追い詰められた場所も理解できない。
それはきっと大石の誠実さとは無縁のこと、けれど、それを理解できなくては美並と一緒に生きてはいけない、そういうことなのだけど。
「どういうことですか」
大石は険しい顔で振り返った大輔を見た。
「今の話からすると、既に締め切られた『ニット・キャンパス』に参加できる『特別な方法』があるようですが……それは弟さん限定、ということですか?」
おいおい。
知らないこととは言え、あまりにも焦点を突き過ぎた質問に、大輔は元よりさすがの真崎も一瞬口を噤んだ。
「真崎さんは同意した……のではないんですね?」
あたりすぎている。
知らないって凄い、と美並も微妙な顔になってしまった。
「でなければ、あなたを呼び出していない」
立ち直ったのはやはり真崎が一番早かった。大石のことばを全て自分の有利になるように展開させる心づもり、大輔が赤くなって真崎を睨みつける。
「はめたのか」
「言ったはずだ。僕はあなたを選ばない、と」
二人の雰囲気に大石が溜め息をついて、軽く背後に視線を投げた。
「志賀」
「はい」
「記録」
「はい」
「何をす、」
大輔が拒む間も与えず、志賀が青い携帯を取り出し、容赦なく大輔と真崎の姿を撮る。慣れた様子で淡々と操作を続け、やがて冷淡な声で報告した。
「転送しました」
「貴様、何を」
「真崎さん、我々は『Brechen』だ」
旧弊を破るために小道具の扱いぐらいは心得ている。裏取り引きや身内の恩情、そういうものに係って時間や機会を無駄にしたくない。
「今の状況は社のデータとして保存される。それがどういうことかおわかりでしょう」
大石が軽く掌を翻すと志賀が携帯を片付ける。まるで大石の手足であるかのように、諾々とその意図を読み取り動く姿に『Brechen』の組織の姿が透けて見えた。
大石をトップとする完全な三角形の組織。整った命令形態と揺らがない実行力。
大石はたぶん同じ形を結婚や家庭に求めただろう。
そしてきっと、美並は大石のその世界のどこにもやっぱり入れなかっただろう、そう思った。
「どいつもこいつも、礼儀知らずだな」
大輔が吐き捨てた。
「好きにすればいい。どうせ俺の一存で参加などできやしない」
大輔の一存では参加できない?
頭の中で繰り返して、その意味に気付く。
はっとしたように真崎も確認する。
「僕も、そうだったんだね?」
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