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第2章
12.アンダー・ザ・ガン(7)
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「課長?」
「あ、はい」
ぼうっと湯舟に浸っていた京介は我に返った。
「もうすぐ御飯ですから、そろそろ出てきて下さい」
「わかった……と」
急いで立ち上がろうとして、脚が不規則に痙攣し、倒れそうになって慌てて体を支えてシャンプーのボトルを倒す。
「課長っ」
「あ」
ばたんっ、と開いた扉に顔を上げる。湯気の向こうに伊吹の顔が浮かんでいて、それがみるみる赤くなっていくのがとんでもなく可愛くて、思わず見愡れた。
「大丈夫ですか」
「大丈夫」
「のぼせたの?」
「いや、久し振りに走り回ったから、脚が限界」
苦笑しながら手で脚を叩き、ああ、と頷きながら視線を降ろした伊吹が固まる。
「っ」
「伊吹さん?」
「早く、上がって下さいっ」
「あ、うん」
何なの、そんなに僕おかしな顔してたかな。
ぼんやりと考えて視線を降ろし、京介も固まる。
伊吹さんも入ってたお風呂なんだよね、僕じゃちょっと狭いけれど、伊吹さんならすっぽりここに入っちゃう、髪の毛濡れてたってことは、さっき入ったってこと、同じ場所で身体の隅々まで洗ってたってこと。
そんな妄想を暴走させてしまってたから、反応しかけた下半身は、さっき暴れかけたから余計に感度がよくて。
「まず」
いきなりなもの見せちゃった、思いきり引くわけだ。
さすがにここでどうこうはできないから、なるべく気持ちを逸らせて何とかおさめて出ていくと、小さなテーブルには様々な種類の食器と大皿の焼そば。
「お先~」
明がビールのコップをあげて笑い、あんたのはそこね、と示された。
「あ、僕、お酒はちょっと」
「飲めないの? ひどいなあ、義理の弟が選んだビールなのに」
「義理の…っ」
ぎょっとした顔の伊吹にちょっと傷つきながら、京介もジャージに着替えた姿で座る。
「何、どうしたの、明……何があったんですか、課長」
「あ…うん」
大体明と会うなんて言ってなかったじゃないですか。
伊吹に睨まれて、少しうろたえてビールのコップを掴んだ。全く飲めないわけじゃないし、と一口含むと、冷えた感触が予想外においしくて、思わずごくごく飲み干してしまう。
「おお~、一気!」
「……おいし…」
「大丈夫? って、こら、もう注いじゃだめ、明!」
「や、だって、旨そうに呑むんだもん、ねえ、京介」
「京介? 呼び捨て? いつのまに?」
「あ、ありがとう」
「こら!」
きょとんとする伊吹が、注がれたビールをまた掴もうとした京介を制した。
「駄目です、ちゃんと御飯食べてから」
「大丈夫、だよ」
「お酒全然弱いんでしょ?」
「うん、全然弱い」
「あ、ほんと、もう赤くなってきてるし~~」
かーわいい、と明がけらけら笑って、伊吹が眉を寄せた。
「あんたも弱いくせに」
「うちで強いの姉ちゃんだけじゃん~」
「はいはい、黙れ酔っぱらい」
制された明の側にはもう空いた缶が転がり始めている。
「伊吹さん、強いの?」
「普通です、って、こら、何次注ごうとしてるか!」
「焼そば食べたよ、凄くおいしい」
「あ、嬉しいなあ、俺、料理趣味なんだ」
にちゃ、と明が笑った。まっすぐ向けられる笑顔にほっとする。
「趣味なの?」
「七海も喜んでくれるんだよ、俺の飯は天下一品って!」
「わかるな~、おいしいよ~~」
ななみ、って誰だろう、そう思ったけれど、それはどうでもいい気もして、こんなこと初めてだ、と京介は密かに驚く。
周囲のことを把握し切れなくても気にならないなんて。
お茶もいれときますね、と別のコップも差し出してくれた伊吹に、また気持ちが緩む。
明の作った焼そばを食べ、気持ち良くビールを呑む。どうしたの、そう何度か聞く伊吹に、大丈夫、と首を振って笑い、それがおかしな対応だとなじられる。世界がどんどんふわふわと軽くなっていき、体が温かくなる。
しばらくそうやって笑いあいしゃべりながら食べて呑んで、やがて明が空になった大皿の側で寝転んで鼾をかきだした。
「明? もう、弱いくせに、機嫌よくなると止まらないんだから」
苦笑しながら伊吹が寝転んだ明に布団をかけるのを見ながら、京介も何だかずっと伊吹とこうやって暮らしていた気がしてきた。酔いも手伝っているのか、嬉しくてにこにこ笑っていると、ようやく、伊吹がそっと寄り添ってくれる。
「京介?」
「はい~」
「何があったの?」
「いっぱい~、でも、僕」
頑張ったんだよ~、いっぱいがんばったの、だからねえ、伊吹さん。
くっついて、頭を擦り寄せて、ねだる。
「キスして~」
「京介」
「御褒美~ねえ~キス~」
「あのね」
柔らかな色の唇がすぐそこにある。奪えばいいけど、今は伊吹から与えてほしい。なのに、伊吹がなかなかくれない。
くふん、と鼻を鳴らしてしまった。
「伊吹さん、僕のこと嫌いなんだ~」
「はいい?」
「嫌いなんだ~悲しい~僕頑張ったのに悲しい~」
繰り返している間に本当に悲しくなって涙が溢れてくるままにしがみつく。
「伊吹さぁん、僕のこと好き~?」
好きだって言ってよ、嫌いにならないでよ、死んじゃうから、抱き締めてよ、一人にしないでよ、そう繰り返していると、そっと顔を上げられて唇を塞がれる。
「ん…」
「静かにしましょうね?」
優しく低く叱られて、また嬉しくなる。
「もう夜遅いから」
「泊まっていい?」
「何を今さら」
「キスして?」
首を傾げてみせる。う、と伊吹が微かに唸って眉を寄せ、確信犯かよ、と呟いて続けた。
「そうしたらもう寝る?」
「京介って呼んで?」
「……京介」
柔らかく呼ばれて、もう一度キスしてもらって、ちょっとだけ舌も舐めてもらって。
「おやすみなさい」
髪を撫でられながら、京介は満足して眠りに落ちた。
「あ、はい」
ぼうっと湯舟に浸っていた京介は我に返った。
「もうすぐ御飯ですから、そろそろ出てきて下さい」
「わかった……と」
急いで立ち上がろうとして、脚が不規則に痙攣し、倒れそうになって慌てて体を支えてシャンプーのボトルを倒す。
「課長っ」
「あ」
ばたんっ、と開いた扉に顔を上げる。湯気の向こうに伊吹の顔が浮かんでいて、それがみるみる赤くなっていくのがとんでもなく可愛くて、思わず見愡れた。
「大丈夫ですか」
「大丈夫」
「のぼせたの?」
「いや、久し振りに走り回ったから、脚が限界」
苦笑しながら手で脚を叩き、ああ、と頷きながら視線を降ろした伊吹が固まる。
「っ」
「伊吹さん?」
「早く、上がって下さいっ」
「あ、うん」
何なの、そんなに僕おかしな顔してたかな。
ぼんやりと考えて視線を降ろし、京介も固まる。
伊吹さんも入ってたお風呂なんだよね、僕じゃちょっと狭いけれど、伊吹さんならすっぽりここに入っちゃう、髪の毛濡れてたってことは、さっき入ったってこと、同じ場所で身体の隅々まで洗ってたってこと。
そんな妄想を暴走させてしまってたから、反応しかけた下半身は、さっき暴れかけたから余計に感度がよくて。
「まず」
いきなりなもの見せちゃった、思いきり引くわけだ。
さすがにここでどうこうはできないから、なるべく気持ちを逸らせて何とかおさめて出ていくと、小さなテーブルには様々な種類の食器と大皿の焼そば。
「お先~」
明がビールのコップをあげて笑い、あんたのはそこね、と示された。
「あ、僕、お酒はちょっと」
「飲めないの? ひどいなあ、義理の弟が選んだビールなのに」
「義理の…っ」
ぎょっとした顔の伊吹にちょっと傷つきながら、京介もジャージに着替えた姿で座る。
「何、どうしたの、明……何があったんですか、課長」
「あ…うん」
大体明と会うなんて言ってなかったじゃないですか。
伊吹に睨まれて、少しうろたえてビールのコップを掴んだ。全く飲めないわけじゃないし、と一口含むと、冷えた感触が予想外においしくて、思わずごくごく飲み干してしまう。
「おお~、一気!」
「……おいし…」
「大丈夫? って、こら、もう注いじゃだめ、明!」
「や、だって、旨そうに呑むんだもん、ねえ、京介」
「京介? 呼び捨て? いつのまに?」
「あ、ありがとう」
「こら!」
きょとんとする伊吹が、注がれたビールをまた掴もうとした京介を制した。
「駄目です、ちゃんと御飯食べてから」
「大丈夫、だよ」
「お酒全然弱いんでしょ?」
「うん、全然弱い」
「あ、ほんと、もう赤くなってきてるし~~」
かーわいい、と明がけらけら笑って、伊吹が眉を寄せた。
「あんたも弱いくせに」
「うちで強いの姉ちゃんだけじゃん~」
「はいはい、黙れ酔っぱらい」
制された明の側にはもう空いた缶が転がり始めている。
「伊吹さん、強いの?」
「普通です、って、こら、何次注ごうとしてるか!」
「焼そば食べたよ、凄くおいしい」
「あ、嬉しいなあ、俺、料理趣味なんだ」
にちゃ、と明が笑った。まっすぐ向けられる笑顔にほっとする。
「趣味なの?」
「七海も喜んでくれるんだよ、俺の飯は天下一品って!」
「わかるな~、おいしいよ~~」
ななみ、って誰だろう、そう思ったけれど、それはどうでもいい気もして、こんなこと初めてだ、と京介は密かに驚く。
周囲のことを把握し切れなくても気にならないなんて。
お茶もいれときますね、と別のコップも差し出してくれた伊吹に、また気持ちが緩む。
明の作った焼そばを食べ、気持ち良くビールを呑む。どうしたの、そう何度か聞く伊吹に、大丈夫、と首を振って笑い、それがおかしな対応だとなじられる。世界がどんどんふわふわと軽くなっていき、体が温かくなる。
しばらくそうやって笑いあいしゃべりながら食べて呑んで、やがて明が空になった大皿の側で寝転んで鼾をかきだした。
「明? もう、弱いくせに、機嫌よくなると止まらないんだから」
苦笑しながら伊吹が寝転んだ明に布団をかけるのを見ながら、京介も何だかずっと伊吹とこうやって暮らしていた気がしてきた。酔いも手伝っているのか、嬉しくてにこにこ笑っていると、ようやく、伊吹がそっと寄り添ってくれる。
「京介?」
「はい~」
「何があったの?」
「いっぱい~、でも、僕」
頑張ったんだよ~、いっぱいがんばったの、だからねえ、伊吹さん。
くっついて、頭を擦り寄せて、ねだる。
「キスして~」
「京介」
「御褒美~ねえ~キス~」
「あのね」
柔らかな色の唇がすぐそこにある。奪えばいいけど、今は伊吹から与えてほしい。なのに、伊吹がなかなかくれない。
くふん、と鼻を鳴らしてしまった。
「伊吹さん、僕のこと嫌いなんだ~」
「はいい?」
「嫌いなんだ~悲しい~僕頑張ったのに悲しい~」
繰り返している間に本当に悲しくなって涙が溢れてくるままにしがみつく。
「伊吹さぁん、僕のこと好き~?」
好きだって言ってよ、嫌いにならないでよ、死んじゃうから、抱き締めてよ、一人にしないでよ、そう繰り返していると、そっと顔を上げられて唇を塞がれる。
「ん…」
「静かにしましょうね?」
優しく低く叱られて、また嬉しくなる。
「もう夜遅いから」
「泊まっていい?」
「何を今さら」
「キスして?」
首を傾げてみせる。う、と伊吹が微かに唸って眉を寄せ、確信犯かよ、と呟いて続けた。
「そうしたらもう寝る?」
「京介って呼んで?」
「……京介」
柔らかく呼ばれて、もう一度キスしてもらって、ちょっとだけ舌も舐めてもらって。
「おやすみなさい」
髪を撫でられながら、京介は満足して眠りに落ちた。
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