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第2章
3.京介(3)
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寝室へ戻ってきた伊吹は、京介がまだ服のままなのに不審そうに覗き込んできた。
「どうしたんですか?」
どこか痛いの?
優しく尋ねられて唾を呑み込んだ。
伊吹をまっすぐ見上げながら、ネクタイを緩める。
「息苦しい?」
ゆっくり解いて、抜かないままでシャツのボタンを外しにかかる。
「京介?」
「……来て」
掠れた自分の声が不安定に揺れている。
ボタンを外しながら開いていくシャツの中に伊吹の視線が落ちてくる、それにぞくりと身体を震わせた。
もっと、見て。
眼を伏せて、せわしくなっていく呼吸を口を開いて逃がす。
身体が熱くて燃えあがりそうだ。
左手でシャツを開いた。右手は投げ出したまま、空気に晒された肌が粟立つのがわかる。胸が尖っているのを感じて顔が熱くなった。もちろん、下半身も熱く高ぶってきている。舌を出して乾き始めた唇を舐めると、伊吹が目を細めた。
拒まれるか、詰られるか、それとも放置されてしまうか。
「……京介」
「……っ」
静かに囁かれて眼鏡を外された。
それが何の合図かもう知っている。目を閉じて、降りてくる唇を待って口を開く。
ぎしりとベッドが鳴って、伊吹のセーターが裸の胸に触れた。温かで柔らかな重みが乗ってきて、苦しくて切なくて眉を寄せる。触れてくる伊吹を受け止めようとして舌を出す。拍動に砕かれそうだ。
「、っ、ぁ」
ふいに唇ではなく、首の付け根に濡れた柔らかなものが落とされて、思わず震えた。
「い…ぶ…」
「んっ」
「あ、ぁっ」
吸いつかれて小さく喘ぎ、一気にうろたえて頭が熱くなった。恥ずかしくて慌てて右手の甲で顔を隠そうとしたけれど、もう少しきつく吸われて切なくなる。伊吹の唇が次に動く場所を想像して、弾む息に顔を歪める。
「京介」
気持ちいい。伊吹の唇の中で動いた舌が、肌を探っているのに、じれったくて腰が揺れる。
もっと。
「ん、っ」
もっと、キスして。
溶けそう。
次は、どこ?
ひょっとしたら、セーターに触れられている、その先、とか。
「は、ぁ」
くら、と甘いめまいに息を逃がす。けれど。
「熱がありますよ」
「…へ?」
ふいに思ってもいなかったことばが響いて目を開けた。
ひょいと顔を上げた伊吹はこんな状態なのにひどく難しい顔で、尖らせた唇を今度はそのまま額にあててきた。
「あ…」
「ほら」
「だから……それは」
君とこう、なりたくて。
霞んだ視界で微笑む。
だから、早く、もっと先をちょうだい?
ねだって相手を引き寄せようとすると、ぴたりと手を当てられ止められた。
「違う。ちょっと待ってて?」
「え……あ、の」
伊吹があっさり身体の上から退いてしまって、戸惑って半身起こしたとたん、ぐらりと体が揺れて瞬きする。
「ん…」
「はい、これくわえて」
「んー」
半開きになっていた口に体温計が差し込まれた。すぐに手を離すから慌てて銜えて舌で支えると、指先でくいくいと揺らされる。
「んんっ」
「ちゃんと銜えて」
「ん、ん」
もう少し押し込まれて眉をしかめた。
「ごほうび」
「んっ」
ちゅ、とキスされたのは唇の端、ちょっとびっくりして、けれど嬉しくて目を細めると、体温計が鳴った。
「……ほら、38度7分」
「あれ…」
「ふらふらしてたの、熱のせいですね」
風邪引いたのかもしれませんよ、と伊吹が笑って、パジャマを渡してくれた。
「とにかくこれに着替えて。薬、どこですか?」
「食器棚の下の…引き出し」
「わかりました」
離れていってしまう伊吹にひどくがっかりして、のろのろと京介は服を着替えた。
せっかくいい雰囲気だったのに。今度こそ、ずっといけるかと思ったのに。
「びっくり、したけど」
いきなりこんなところに吸いつくなんて。
頬が熱くなった。
伊吹さん、何考えてんの? 第一大石はどうしちゃったの?
トイレに行ってシャツを洗濯機に放り込みながら、ふと洗面所の鏡を見ると、左の首の付け根にくっきりと鬱血の跡が残っている。
「キスマーク……つけられちゃった」
これって普通男がつけるものだよね?
「……なんで…?」
「京介」
「あ、はい」
伊吹に呼ばれて寝室に戻る。みるみる身体がぐったりしてさっきより重くなってきたように感じた。
「大丈夫?」
「ちょっと…苦しいかも」
「ベッド整えておきましたから、横になって」
「ん…」
伊吹が示した場所へどさりと身体を落とすと、もう一気に動けなくなった。
「あ…つ…」
「熱上がってきましたね……ぅ」
見下ろした伊吹が微かに引きつる。
「?」
「ちょっと飲めるもの見繕ってきます」
何だろう?
伊吹が慌てて体を引くのにぼんやり思ったけれど、熱に冒されていく頭が思考を続けられない。
慌て気味に鍵を手にして部屋を出て行く伊吹の後ろ姿を見ながら、京介はうとうとと眠りに落ちた。
「どうしたんですか?」
どこか痛いの?
優しく尋ねられて唾を呑み込んだ。
伊吹をまっすぐ見上げながら、ネクタイを緩める。
「息苦しい?」
ゆっくり解いて、抜かないままでシャツのボタンを外しにかかる。
「京介?」
「……来て」
掠れた自分の声が不安定に揺れている。
ボタンを外しながら開いていくシャツの中に伊吹の視線が落ちてくる、それにぞくりと身体を震わせた。
もっと、見て。
眼を伏せて、せわしくなっていく呼吸を口を開いて逃がす。
身体が熱くて燃えあがりそうだ。
左手でシャツを開いた。右手は投げ出したまま、空気に晒された肌が粟立つのがわかる。胸が尖っているのを感じて顔が熱くなった。もちろん、下半身も熱く高ぶってきている。舌を出して乾き始めた唇を舐めると、伊吹が目を細めた。
拒まれるか、詰られるか、それとも放置されてしまうか。
「……京介」
「……っ」
静かに囁かれて眼鏡を外された。
それが何の合図かもう知っている。目を閉じて、降りてくる唇を待って口を開く。
ぎしりとベッドが鳴って、伊吹のセーターが裸の胸に触れた。温かで柔らかな重みが乗ってきて、苦しくて切なくて眉を寄せる。触れてくる伊吹を受け止めようとして舌を出す。拍動に砕かれそうだ。
「、っ、ぁ」
ふいに唇ではなく、首の付け根に濡れた柔らかなものが落とされて、思わず震えた。
「い…ぶ…」
「んっ」
「あ、ぁっ」
吸いつかれて小さく喘ぎ、一気にうろたえて頭が熱くなった。恥ずかしくて慌てて右手の甲で顔を隠そうとしたけれど、もう少しきつく吸われて切なくなる。伊吹の唇が次に動く場所を想像して、弾む息に顔を歪める。
「京介」
気持ちいい。伊吹の唇の中で動いた舌が、肌を探っているのに、じれったくて腰が揺れる。
もっと。
「ん、っ」
もっと、キスして。
溶けそう。
次は、どこ?
ひょっとしたら、セーターに触れられている、その先、とか。
「は、ぁ」
くら、と甘いめまいに息を逃がす。けれど。
「熱がありますよ」
「…へ?」
ふいに思ってもいなかったことばが響いて目を開けた。
ひょいと顔を上げた伊吹はこんな状態なのにひどく難しい顔で、尖らせた唇を今度はそのまま額にあててきた。
「あ…」
「ほら」
「だから……それは」
君とこう、なりたくて。
霞んだ視界で微笑む。
だから、早く、もっと先をちょうだい?
ねだって相手を引き寄せようとすると、ぴたりと手を当てられ止められた。
「違う。ちょっと待ってて?」
「え……あ、の」
伊吹があっさり身体の上から退いてしまって、戸惑って半身起こしたとたん、ぐらりと体が揺れて瞬きする。
「ん…」
「はい、これくわえて」
「んー」
半開きになっていた口に体温計が差し込まれた。すぐに手を離すから慌てて銜えて舌で支えると、指先でくいくいと揺らされる。
「んんっ」
「ちゃんと銜えて」
「ん、ん」
もう少し押し込まれて眉をしかめた。
「ごほうび」
「んっ」
ちゅ、とキスされたのは唇の端、ちょっとびっくりして、けれど嬉しくて目を細めると、体温計が鳴った。
「……ほら、38度7分」
「あれ…」
「ふらふらしてたの、熱のせいですね」
風邪引いたのかもしれませんよ、と伊吹が笑って、パジャマを渡してくれた。
「とにかくこれに着替えて。薬、どこですか?」
「食器棚の下の…引き出し」
「わかりました」
離れていってしまう伊吹にひどくがっかりして、のろのろと京介は服を着替えた。
せっかくいい雰囲気だったのに。今度こそ、ずっといけるかと思ったのに。
「びっくり、したけど」
いきなりこんなところに吸いつくなんて。
頬が熱くなった。
伊吹さん、何考えてんの? 第一大石はどうしちゃったの?
トイレに行ってシャツを洗濯機に放り込みながら、ふと洗面所の鏡を見ると、左の首の付け根にくっきりと鬱血の跡が残っている。
「キスマーク……つけられちゃった」
これって普通男がつけるものだよね?
「……なんで…?」
「京介」
「あ、はい」
伊吹に呼ばれて寝室に戻る。みるみる身体がぐったりしてさっきより重くなってきたように感じた。
「大丈夫?」
「ちょっと…苦しいかも」
「ベッド整えておきましたから、横になって」
「ん…」
伊吹が示した場所へどさりと身体を落とすと、もう一気に動けなくなった。
「あ…つ…」
「熱上がってきましたね……ぅ」
見下ろした伊吹が微かに引きつる。
「?」
「ちょっと飲めるもの見繕ってきます」
何だろう?
伊吹が慌てて体を引くのにぼんやり思ったけれど、熱に冒されていく頭が思考を続けられない。
慌て気味に鍵を手にして部屋を出て行く伊吹の後ろ姿を見ながら、京介はうとうとと眠りに落ちた。
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