『闇を闇から』

segakiyui

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第5章

10.アウト・ドロー(13)

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「…京介?」
「…」
「何か拗ねてます?」
「…」
 温かい湯船の中、美並の体を抱えながら、真崎はずっと無言だ。
 今日はとにかく帰りなさい。
 元子に促されて、2人真崎のマンションに戻った。
 体が冷えて心も冷えて、なんだか魂を引き抜かれたみたいで、どちらが言うともなく、一緒にお風呂に入って。お互いぼんやりしながら体を洗って、来て、と望まれたから真崎の腕の中、背中を向けて抱きかかえられて。
「……終わったね」
 ようやく声が聞こえた。
 はい、と答えかけて思い出す。
「終わってません」
「え?」
「監視カメラ、外して下さい」
「何で?」
「一体幾つ追加したんですか」
「……幾つだったかなあ、覚えてないなあ」
「もう必要ないでしょう? ポケットマネー分、全部外して下さい」
「いや、わからないよ? いつ必要になるかわからないんだし、美並がまた連れ込まれちゃうと困るし」
「もうそんなことはありませんよ」
 ふざけた口調で応対しても、真崎が不安がっているのは肌から伝わるような気がする。
「……美並」
「はい?」
「……もう考えない?」
「は?」
 振り返ろうとしたら、駄目だよ、と制されて、また抱き締められる。そっと当てられた掌が胸を包んで妙に恥ずかしい。
「この中にもう、あいつのことは残ってない?」
「誰? 有沢さん?」
「ううん」
「…ハルくん?」
「……ううん」
「………檜垣さん?」
「…………違う」
 がう、の声は肩に吸い付かれて半分消える。
「誰のことですか?」
「赤来。『羽鳥』」
「…は??」
 本当に何のことだかわからなくて首を捻ると、またちゅうう、と今度は首筋に吸い付かれた。
「まあ冬だから良いですけどね」
 首も肩も外には出ないし。
「体全部キスマーク付けても、中には付けられないよね」
「中って…」
 とんでもない想像に腰の奥にずきりと痛むような感覚が広がる。
「…んっ…」
 両手が胸を掴んだ。指先に摘まれて少し仰け反ると口を覆われて、そのままキスされながら揉みしだかれる。
「……っ…京介…」
 このままだと茹っちゃいます。
 軽く詰ると、そっと唇を離される。
「モニター見てた」
 ぼそりと真崎が唸る。立って、と言われたから立ち上がると、こっち向いて、と望まれる。湯を少し抜いて体を沈めた真崎が、腰を抱え込んで舌を伸ばす。
「ん…っ」
 刺激に体が跳ねた。浴室の壁に手を突くと、深くまで舌を差し込んだ真崎が舐め上げてくる。
「っあ…っ」
 弱い部分の直前で止める、そのまま口を離して、
「美並があいつのことを話すのを聞いて…美並がどれだけあいつのことを考えてたのか、見てたのか……わかった」
「…ん、あっ」
 濡れた雫を吸い取りながら、そのまま一気に吸い込まれて嬲られる。衝撃と快感に崩れそうになるのを、真崎が腰を支え、むしゃぶりつくように唇を当てた。そのまま背後から指を差し込んでくる。開きながらもっと深くへ舌を伸ばされる。
「…あああ…っ」
 悲鳴が零れた。体が揺れて、真崎が小さく笑う。
「気持ち良さそう」
「、きょう……すけ…っ」
「喘ぎながら怒られても、可愛いだけだよ」
 そのままひょいと担ぎ上げられ、風呂場から出てバスタオルで包まれ、ベッドに運ばれる。
「…美並…」
 髪も、体からも丁寧に優しく水滴を拭き取って、真崎はすぐに唇を這わせ始めた。あちらこちらにキスマークを残しながらの愛撫に、冷えた体がすぐに熱を取り戻す。
「美並」
 唇へのキスをようやくもらって微笑むと、ちょいと離した真崎が切なそうに笑った。
「もう僕のことだけ?」
「え?」
「美並があれほど見てくれるなら、僕が『羽鳥』でも良かったのに」
 そっと押し当てられた塊に気づく。
「…モニター見てて、寂しくなった?」
 微笑んで見上げる。真崎が唇を尖らせる。
「…美並はあいつのことばっかり話してて」
 美並がくれるものは僕が全部欲しい。
「…んっ」
「愛情でも、憎しみでも、快感でも、痛みでも」
 最後にあいつが頼んでた、妹が落ちた理由が知りたいって。
「自分が押したのか、それとも事故だったのか……んっ」
 入り込んで来ながら、真崎が呻く。
「美並の……好きな……謎解き……だよね…っは」
「京介」
「なに……っ、ふえーっ」
 眉を寄せて苦しそうに顔を上げた相手の頬を摘み、両側へ引っ張った。
「らりふんの…」
 目を見開いた京介が泣きそうになる。
「失礼なことするからです」
「ふぁい?」
「関係のない人の謎に興味はありません。今京介と一緒に居るのは誰ですか?」
「ふぃなふぃ」
「では、それが全てです」
「ふぇ」
「私にとっては、京介が世界最大の謎人物ですよ」
「そう…?」
 ようやく頬を離されて嬉しそうに目を細める相手に、美並は溜め息をつく。
 本当に、恋人を殺しかけた相手に嫉妬する男なんて、そうそう居るとは思えない。
 抱きしめてくる真崎が、もう一度深く押し込んで来て息が弾む。
「…しかも…何で勢いがついてるんですか?」
 聞くと怖い答えが返りそうだが、あえて聞いてみると、覆い被さって来ながら真崎は満足そうに微笑んだ。
「いや、美並が刑事で、追い詰められる犯人が僕って言うのも楽しそうだなあって」
 ああもう、突っ込むまい。
 美並は吐息を漏らしながら、真崎の腕に体を委ねた。
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