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第5章
4.アングルシューター(6)
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『なあに、京ちゃん』
響いた声に集中する。
目を凝らすまでもなく、京介と同じようにベッドに座る恵子の姿が浮かんだ。
耳が恵子が姿勢を変えることで軋む微かなベッドのスプリングの音を拾い、その音をどこで聞いたか思い出し、『京ちゃん』と寝物語で呼びかける声の媚びを感じ取って、意図を察し想像させている、恵子がどこに居るのか。
「…『ハイウィンド・リール』に居るの」
『ふふ……っ』
恵子は含み笑いを返してきた。
『さあ、どうかしら…』
電話の向こうで軽く呼吸が弾む。
『京ちゃんはどこに居るの? …ベッド……?』
声が低くなる。
『………お昼間なのに眠っていたの…?』
目を閉じた。恵子もまた、同じように京介の居場所を読み取っている。
別の場所に居たならば、見えない触手に絡められるように無意識に促されて、ベッドに移動したかも知れない。声の調子から寝起きだろうと当たりをつけた恵子に、物憂い午後の一人の寂しさを慰めてあげましょうと言外に仄めかされて。
操られる、いつもの手管で、抵抗さえ思いつかないほど自然な流れで、京介のことを隅々まで知っている巧みな声に。
問いを、誘われる。
「…どうして…」
『一人で来たの……不安で』
肌に触れるような声。
「……子ども達は」
『預かってもらってる』
だから、誰にも気兼ねなんてしなくていいのよ、私達。
『大輔のことを……相談したいわ』
人恋しくて、一瞬の温もりが欲しいなら、分け合いましょう、ねえ一緒に。
甘い囁きに目を開く。
源内の声が耳の奥で聞こえた。
『あんたは自分で自分を守れなくちゃいけないんじゃないか』
今京介は一人だ。
伊吹は有沢の所へ行き、疲れて眠っている京介を放置している。
『京ちゃん…』
声が涙ぐむ。
『不安なの…これからどうなるのか…』
一人ぼっちで、この先どうなるのかわからなくて、伊吹に嫌われるかも知れない自分が悲しくて不安で辛くて痛くて。
「…同じだね、恵子さん」
『…京ちゃん』
声が華やいだ。嬉しそうに綻んだ顔が見える。
『わかってくれるの…』
「わかるよ」
携帯に頬を預ける。指輪の冷たさを感じ取る。軽く拳を握って指輪にキスし、その指で頬から耳に、首筋に触れていく。
身体は素直に熱を上げる。恋しい恋しいと呟きながら、潤み弾んでいく。滑らせていく、汗で湿ったシャツの上から、胸へ腹へ、もっと下へ。
「すごく、わかる…」
息を吐いた。
『…なあに…京ちゃん…』
恵子の声が濡れた。
『何してるの……何だか凄く…』
「…凄く……何…?」
指先が触れた。熱っぽい。いくら抱いても満足できない餓えを示すように。軽く触れ、刺激する、ちょっと弱い部分にヒットして、無意識に腰が動いて顔を歪める。布地越しで感覚が遠い。けれど今はこれでいい。
『…京ちゃん……あなた……ひょっとしたら』
くすくすと恵子は笑う、満足げに。
『いいわ…私も付き合おうかしら…』
「……付き合ってくれるの?」
京介は笑った。吐息を零すような声だと我ながら感じた。
『怖がってご丁寧に全身の力を集め、相手の扱いやすいような位置にわざわざ一体化させちゃうから、好き放題やられるんだ』
「…その通りだね」
『…え?』
「ううん……こっちの話…」
耳の奥の源内は語り続ける。
『自分の回りに防御の壁を張るんじゃなくて、自分の体を防御に使うんだ。同時に相手の体と力も利用する』
本当は『こんな使い方』じゃないんだろうけど。話したら、うんと怒られそうだけど。
「は……」
打ち寄せ始めた波に喘ぐ。伊吹が恋しい。ゆっくりベッドに横たわる。微かな残り香、伊吹の体が放っていた甘くて優しい暖かな空気。
「……ん…っ」
感覚が遠すぎて寂しくなったから、ジッパーを下ろして開く。押し上げるものを迎えて眉を寄せる。
『京ちゃん……凄いわ…』
恵子の声が切なげに響いた。
『耳から…犯されそう…』
「…そう……僕、が…?」
お定まりの台詞、男が聞けば喜びそうな囁きに掠れ声で笑って返す。恵子が小さく息を呑んだのが伝わって来た。
『京ちゃん……欲しいのね?』
「……我慢…できない……」
『…まだ…まだよ……京ちゃん……』
「…うん……でも……もう…」
弾む呼吸を逃しながら答える。首筋に優しい唇を感じて、一瞬危なくなった。駄目だ、まだそれを口にしちゃいけない。一番効果的な箇所はここじゃない。
響いた声に集中する。
目を凝らすまでもなく、京介と同じようにベッドに座る恵子の姿が浮かんだ。
耳が恵子が姿勢を変えることで軋む微かなベッドのスプリングの音を拾い、その音をどこで聞いたか思い出し、『京ちゃん』と寝物語で呼びかける声の媚びを感じ取って、意図を察し想像させている、恵子がどこに居るのか。
「…『ハイウィンド・リール』に居るの」
『ふふ……っ』
恵子は含み笑いを返してきた。
『さあ、どうかしら…』
電話の向こうで軽く呼吸が弾む。
『京ちゃんはどこに居るの? …ベッド……?』
声が低くなる。
『………お昼間なのに眠っていたの…?』
目を閉じた。恵子もまた、同じように京介の居場所を読み取っている。
別の場所に居たならば、見えない触手に絡められるように無意識に促されて、ベッドに移動したかも知れない。声の調子から寝起きだろうと当たりをつけた恵子に、物憂い午後の一人の寂しさを慰めてあげましょうと言外に仄めかされて。
操られる、いつもの手管で、抵抗さえ思いつかないほど自然な流れで、京介のことを隅々まで知っている巧みな声に。
問いを、誘われる。
「…どうして…」
『一人で来たの……不安で』
肌に触れるような声。
「……子ども達は」
『預かってもらってる』
だから、誰にも気兼ねなんてしなくていいのよ、私達。
『大輔のことを……相談したいわ』
人恋しくて、一瞬の温もりが欲しいなら、分け合いましょう、ねえ一緒に。
甘い囁きに目を開く。
源内の声が耳の奥で聞こえた。
『あんたは自分で自分を守れなくちゃいけないんじゃないか』
今京介は一人だ。
伊吹は有沢の所へ行き、疲れて眠っている京介を放置している。
『京ちゃん…』
声が涙ぐむ。
『不安なの…これからどうなるのか…』
一人ぼっちで、この先どうなるのかわからなくて、伊吹に嫌われるかも知れない自分が悲しくて不安で辛くて痛くて。
「…同じだね、恵子さん」
『…京ちゃん』
声が華やいだ。嬉しそうに綻んだ顔が見える。
『わかってくれるの…』
「わかるよ」
携帯に頬を預ける。指輪の冷たさを感じ取る。軽く拳を握って指輪にキスし、その指で頬から耳に、首筋に触れていく。
身体は素直に熱を上げる。恋しい恋しいと呟きながら、潤み弾んでいく。滑らせていく、汗で湿ったシャツの上から、胸へ腹へ、もっと下へ。
「すごく、わかる…」
息を吐いた。
『…なあに…京ちゃん…』
恵子の声が濡れた。
『何してるの……何だか凄く…』
「…凄く……何…?」
指先が触れた。熱っぽい。いくら抱いても満足できない餓えを示すように。軽く触れ、刺激する、ちょっと弱い部分にヒットして、無意識に腰が動いて顔を歪める。布地越しで感覚が遠い。けれど今はこれでいい。
『…京ちゃん……あなた……ひょっとしたら』
くすくすと恵子は笑う、満足げに。
『いいわ…私も付き合おうかしら…』
「……付き合ってくれるの?」
京介は笑った。吐息を零すような声だと我ながら感じた。
『怖がってご丁寧に全身の力を集め、相手の扱いやすいような位置にわざわざ一体化させちゃうから、好き放題やられるんだ』
「…その通りだね」
『…え?』
「ううん……こっちの話…」
耳の奥の源内は語り続ける。
『自分の回りに防御の壁を張るんじゃなくて、自分の体を防御に使うんだ。同時に相手の体と力も利用する』
本当は『こんな使い方』じゃないんだろうけど。話したら、うんと怒られそうだけど。
「は……」
打ち寄せ始めた波に喘ぐ。伊吹が恋しい。ゆっくりベッドに横たわる。微かな残り香、伊吹の体が放っていた甘くて優しい暖かな空気。
「……ん…っ」
感覚が遠すぎて寂しくなったから、ジッパーを下ろして開く。押し上げるものを迎えて眉を寄せる。
『京ちゃん……凄いわ…』
恵子の声が切なげに響いた。
『耳から…犯されそう…』
「…そう……僕、が…?」
お定まりの台詞、男が聞けば喜びそうな囁きに掠れ声で笑って返す。恵子が小さく息を呑んだのが伝わって来た。
『京ちゃん……欲しいのね?』
「……我慢…できない……」
『…まだ…まだよ……京ちゃん……』
「…うん……でも……もう…」
弾む呼吸を逃しながら答える。首筋に優しい唇を感じて、一瞬危なくなった。駄目だ、まだそれを口にしちゃいけない。一番効果的な箇所はここじゃない。
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