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第4章
11.六人と七人(9)
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夢中になって片手で崩れそうな体を支え、もう片方の手で首のネクタイを緩めた。きつく引っ張って解いて、きっと次締めるときにはひどい状態になっていそうだけど、引き抜くように振り捨てて、そのままシャツのボタンに手をかける。
「っ、うっ」
ふいにシャツの裾がスラックスから抜かれて、その下に温かな掌が入り込んできて呻いた。まだボタンを外し切れない京介をからかうように、腹にひたりと当てられた両手が、じりじりと上へ向かって撫で上げてくる。
「は…っ…あ」
掌が触れた後から波のように広がっていく痺れ、触れる前から迎えるように過敏になる肌、胸へと這い上がってくる掌は恵子に直接触れられるよりも遠くて辛くて、そのくせ堪え切れないほど気持ちいい。
「京介…」
甘い掠れた声に目を開けて見下ろすと、見上げてきた伊吹も紅潮した顔になっていた。ふんわりと優しく微笑みながら、京介の眼鏡を外し、京介が不安そうな顔になったのを見て取ったのか、そっと唇だけでキスをくれる。
「気持ちいい?」
「ん…」
「じゃあ」
そのまま壁に手をついてて下さいね?
「え…?」
眼鏡を折り畳まれてシャツのポケットに差し入れられる。
そんなことをしたら脱げない、そう思ったけれど命じられるままに伊吹の両側に手をついて、もう一度キスをすると、
「…っく、ぁ」
シャツの中に入れられた手が軽く指先をたてて、一番弱い部分を一気に這い上がった。
「…っは、ふ」
「そのまま……動かないで?」
頑張って体を支えて下さい?
優しい声が残酷なことばを紡ぐ。今にも崩れて伊吹を抱き締めたいのに、京介はこぶしを握って壁にすがる。
「みな…っ」
掌がシャツの下で静かに動く。今にもスラックスまで降りてベルトを緩めてくれそうになるかと思えば,直前で向きを変え、今度は胸できつく集まりつつある感覚に触れそうに指が近づきながら、また遠ざかっていく。期待し、逸らされ、待ち望み、煽られる。
「みなみ……もっと」
「もっと、何?」
「ちゃんと、触って」
「触ってるでしょ?」
「ちが…う………あ、っ」
ふいに這い上がった指先に摘まれた瞬間、硬直した体の中心が震えて目を見開く。ぼやけた視界の隅に光が走った気がして、必死に緊張を逃がした。
「なんで…」
こんなことぐらいで、弾けそうになっちゃうんだろう。
戸惑ったけれどすぐ、もう一度同じ手順を繰り返され、より大きな波に攫われそうになって歯を食いしばる。
「や……」
濡れた指先が撫でていくのが、舐められているように感じる。背中を汗が這い降りる、それが張り付いたシャツと肌の間に染み渡っていくのに、腕が震えて屈しそうになる。
「京介?」
「は…い…」
呼ばれて見下ろし、伊吹の片手がシャツの上を這っていくのを見た。霞む視界の中で、白い指先がゆっくりとシャツを肌に添わせていく。濡れたシャツが色を失い淡く体を透かせていく、その頂きに立ち上がった粒がふっくらと布地を押し上げている。
「あ、あ…」
こんなに感じてるんですよ、そう囁かれたような気がして目が離せなくなった。その視線の先には、同じようにそこへの愛撫を待ち望んでスラックスを押し広げるように膨らんでいるもの、煙っていく頭の中でもっと強い刺激を望んだのが聞こえたように、シャツの頂きとスラックスの突出の先に伊吹の指が舞い降りて。
「っっっ」
撫でられる,同時に。
擦られる、まるでその中をかき回すように。
「あ、ああっっ」
二つの渦に巻き込まれて体が勝手に動き出した。始めは激しく、やがてその渦の動きを壊さないように、自ら巻き込まれるように目を閉じてただ翻弄されながら腰を振る。
何をしてるんだろう、こんなところで服も脱がずに。
キスで満たした潤いを全身から吹き出す汗と上げる声の湿度で奪われていく気がする。
布地に遮られた愛撫は遠くて今にも飛べそうなのに飛べなくて、苦しくて切なくて、それでも無意識に微かな波を拾い集めるようにして駆け上がっていく。
「はっあ、っ」
ぞくりと震えて、京介は壁に額をつけた。苦しい呼吸を繰り返しながら、無理矢理駆け上がらされたようにぼうっとする。
「京介?」
「…ひど…いよ…」
苦しい。
体は汗に塗れて熱いのに、腰の奥が冷え冷えとして、京介は泣きそうになった。
「……ごめんなさい」
いじめちゃいましたね。
そっと伊吹が抱き寄せてくれる、けれど不安で落ち着かない。またもう一度弄ばれそうで、けれど次はどこまで耐えきれるかわからなくて。
弄ばれる?
「……そ……っか」
「ん?」
「………これ……ちがう…んだ…」
のろのろと顔を上げる。
伊吹が知らない女に見えてぞっとする。
そのとたん、相手の唇の紅に気づいた。
京介が噛みついた痕。
「……そ…か」
さっきの『BLUES RAIN』だ。
「僕……犯人……だね……?」
さっき伊吹に仕掛けたキスは、伊吹を欲しがるものではあったけれど、ひょっとすると伊吹でなくてもよかったのかもしれない、京介の渇きを満たしてくれる誰かなら誰でも。
「いいえ」
伊吹がそっと微笑む、どこか悲しそうに。
「私が、犯人ですよ、京介」
あの時、あのまま泊まっていたら。
伊吹が小さく呟いて、夕べのことを思い出した。
「今みたいに抱いてました」
「っ、うっ」
ふいにシャツの裾がスラックスから抜かれて、その下に温かな掌が入り込んできて呻いた。まだボタンを外し切れない京介をからかうように、腹にひたりと当てられた両手が、じりじりと上へ向かって撫で上げてくる。
「は…っ…あ」
掌が触れた後から波のように広がっていく痺れ、触れる前から迎えるように過敏になる肌、胸へと這い上がってくる掌は恵子に直接触れられるよりも遠くて辛くて、そのくせ堪え切れないほど気持ちいい。
「京介…」
甘い掠れた声に目を開けて見下ろすと、見上げてきた伊吹も紅潮した顔になっていた。ふんわりと優しく微笑みながら、京介の眼鏡を外し、京介が不安そうな顔になったのを見て取ったのか、そっと唇だけでキスをくれる。
「気持ちいい?」
「ん…」
「じゃあ」
そのまま壁に手をついてて下さいね?
「え…?」
眼鏡を折り畳まれてシャツのポケットに差し入れられる。
そんなことをしたら脱げない、そう思ったけれど命じられるままに伊吹の両側に手をついて、もう一度キスをすると、
「…っく、ぁ」
シャツの中に入れられた手が軽く指先をたてて、一番弱い部分を一気に這い上がった。
「…っは、ふ」
「そのまま……動かないで?」
頑張って体を支えて下さい?
優しい声が残酷なことばを紡ぐ。今にも崩れて伊吹を抱き締めたいのに、京介はこぶしを握って壁にすがる。
「みな…っ」
掌がシャツの下で静かに動く。今にもスラックスまで降りてベルトを緩めてくれそうになるかと思えば,直前で向きを変え、今度は胸できつく集まりつつある感覚に触れそうに指が近づきながら、また遠ざかっていく。期待し、逸らされ、待ち望み、煽られる。
「みなみ……もっと」
「もっと、何?」
「ちゃんと、触って」
「触ってるでしょ?」
「ちが…う………あ、っ」
ふいに這い上がった指先に摘まれた瞬間、硬直した体の中心が震えて目を見開く。ぼやけた視界の隅に光が走った気がして、必死に緊張を逃がした。
「なんで…」
こんなことぐらいで、弾けそうになっちゃうんだろう。
戸惑ったけれどすぐ、もう一度同じ手順を繰り返され、より大きな波に攫われそうになって歯を食いしばる。
「や……」
濡れた指先が撫でていくのが、舐められているように感じる。背中を汗が這い降りる、それが張り付いたシャツと肌の間に染み渡っていくのに、腕が震えて屈しそうになる。
「京介?」
「は…い…」
呼ばれて見下ろし、伊吹の片手がシャツの上を這っていくのを見た。霞む視界の中で、白い指先がゆっくりとシャツを肌に添わせていく。濡れたシャツが色を失い淡く体を透かせていく、その頂きに立ち上がった粒がふっくらと布地を押し上げている。
「あ、あ…」
こんなに感じてるんですよ、そう囁かれたような気がして目が離せなくなった。その視線の先には、同じようにそこへの愛撫を待ち望んでスラックスを押し広げるように膨らんでいるもの、煙っていく頭の中でもっと強い刺激を望んだのが聞こえたように、シャツの頂きとスラックスの突出の先に伊吹の指が舞い降りて。
「っっっ」
撫でられる,同時に。
擦られる、まるでその中をかき回すように。
「あ、ああっっ」
二つの渦に巻き込まれて体が勝手に動き出した。始めは激しく、やがてその渦の動きを壊さないように、自ら巻き込まれるように目を閉じてただ翻弄されながら腰を振る。
何をしてるんだろう、こんなところで服も脱がずに。
キスで満たした潤いを全身から吹き出す汗と上げる声の湿度で奪われていく気がする。
布地に遮られた愛撫は遠くて今にも飛べそうなのに飛べなくて、苦しくて切なくて、それでも無意識に微かな波を拾い集めるようにして駆け上がっていく。
「はっあ、っ」
ぞくりと震えて、京介は壁に額をつけた。苦しい呼吸を繰り返しながら、無理矢理駆け上がらされたようにぼうっとする。
「京介?」
「…ひど…いよ…」
苦しい。
体は汗に塗れて熱いのに、腰の奥が冷え冷えとして、京介は泣きそうになった。
「……ごめんなさい」
いじめちゃいましたね。
そっと伊吹が抱き寄せてくれる、けれど不安で落ち着かない。またもう一度弄ばれそうで、けれど次はどこまで耐えきれるかわからなくて。
弄ばれる?
「……そ……っか」
「ん?」
「………これ……ちがう…んだ…」
のろのろと顔を上げる。
伊吹が知らない女に見えてぞっとする。
そのとたん、相手の唇の紅に気づいた。
京介が噛みついた痕。
「……そ…か」
さっきの『BLUES RAIN』だ。
「僕……犯人……だね……?」
さっき伊吹に仕掛けたキスは、伊吹を欲しがるものではあったけれど、ひょっとすると伊吹でなくてもよかったのかもしれない、京介の渇きを満たしてくれる誰かなら誰でも。
「いいえ」
伊吹がそっと微笑む、どこか悲しそうに。
「私が、犯人ですよ、京介」
あの時、あのまま泊まっていたら。
伊吹が小さく呟いて、夕べのことを思い出した。
「今みたいに抱いてました」
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