『闇を闇から』

segakiyui

文字の大きさ
上 下
353 / 503
第4章

8.ワイヤード(11)

しおりを挟む
 恵子には美並のジーパンとシャツを与えて、タクシーで放り出した。
「いやよ、こんな夜にどうやって帰れっていうの」
「警察の方が安心ですか」
「……いやだわ、こんなの、趣味も違うし、サイズも」
 ほらここのところがきついし。
 胸と腰を指差す恵子に、
「着てこられたものは焼却炉に回しますが、何か?」
「ちょっと」
「その服も好きなように扱ってかまいませんよ」
「あなた」
 一体何様のつもりよ。
 恵子は再び唇を尖らせる。
 シャワーで洗い流された口に新しく引かれた紅の色は鮮やかすぎて、薄白くなった顔色に浮いて見えた。
「何様でもないですね」
 ただなりふり構わずというところです。
 冷ややかに応じてやると、あら、と恵子は目を見開いて、微笑んだ。
「大輔が気にするのもわかるわね。あなた京ちゃんに似てるわ」
「…」
「大輔と張り合う時の京ちゃんに。屈しそうで屈しない、追い詰めて勝利を確信した最後の瞬間に噛みつかれそうでゾクゾクするって。わかるわね」
 趣味が悪い男よ、と恵子は掠れた声で嗤った。
「寝物語に、私に抱いてる男のことを話すのよ」
 くつくつ、と今まで聞いたことがないしわがれた声が響いた。
「殺してやりたいと思うのも飽きたわ」
 瞬きをして、きつそうな胸を無理矢理シャツに押し詰めてボタンを止める。
「子どもの事、聞いた?」
「いえ」
「二人居るでしょ。どっちも大輔の子どもじゃないわよ」
「……」
「一人は誰か知らないわ、大輔が連れてきた仲間って人」
 品が良さそうな穏やかそうな男だったけど。
「女をモノ扱いするのに慣れてた男だった」
 恵子はジーンズのチャックを弄った。
「セックスは楽しかったけど、二度とはごめんね。女が惨めになるような抱き方しかできない男」
「もう一人は」
 その答えがうっすらと透けて見える。
「孝」
 大輔と結婚して、孝と別れて。
「街へ出た孝が、誰でも寝てるって聞いたから」
 歪んだ笑みを浮かべて恵子は美並を見返した。
「試したの、うまくなってるか」
 男が惨めになるような抱き方。
 恵子がさっき口にしたことばが、立場を変えてそのまま鳴り響いた気がした。
「うまかったわよ、夢中になった。何度でも繰り返したかった。夢中になって、夢中にさせたくて、大輔をまねたの、孝ならきっと京ちゃんと同じぐらい悦ぶんじゃないかって」
 ひどいことを。
 一瞬、ことばが出なかった。
「悦んだわよ、気が狂ったみたいに……叫んだの、大ちゃん、もっと、って」
「、」
「大ちゃん、もっと、って」
 繰り返した恵子の瞳が真っ黒に光を吸う。
「京ちゃんも同じ。何度も聞いたわ、悲鳴みたいに叫んでるのを。気持ちよさそうに貫かれて、喘ぎながら何度も何度も駆け上がって、汚した布団の中で薔薇色の体して眠ってるのを見て、ずっと欲しかった」
 綺麗だった。涙にまみれて、汗に濡れて。
「伊吹さん」
 恵子が薄笑いする。
「あなたが知ってる京ちゃんは、どんな男なの」
 私が見たのと同じ、大輔に抱かれてよがってる男じゃないの。
「誰にでも体を重ねて、誰にでも気持ちよくなって、その底にはあの男しか入ってなくて」
 それとも、そんなところまでも抱いてないかしら。
「京ちゃんが我を忘れるほども、満たしてあげてないんじゃないの」
 恵子は唇を歪める。
「だから、こんなにあっさりと私を迎え入れるのよ」
 見せてあげたかったわ、玄関でどんな顔して私の唇を待ってたか。
「ねっからの淫乱よ、あの子は」
 抱かれていないとコワレルだけなの。
「孝もそう」
 私でなくても、大輔を思わせる誰かに抱かれてさえいればよかった。
「……孝を殺したかったのは、私よ」
 言い捨てて、恵子は美並の前を通り過ぎた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18】淫乱メイドは今日も乱れる

ねんごろ
恋愛
ご主人様のお屋敷にお仕えするメイドの私は、乱れるしかない運命なのです。 毎日のように訪ねてくるご主人様のご友人は、私を…… ※性的な表現が多分にあるのでご注意ください

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...