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第4章
8.ワイヤード(10)
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中に居たのはやっぱり恵子だった。
濡れた白い肌、ふっくらと柔らかな曲線は豊かな胸元だけではなく、滑らかな下腹にもむっちりとした腰にもあって、俯いた肩の丸みや、少し曲げた足首に包みたくなるようなか細さがある。
「なぁに?」
すぐに恵子は眼を細め、ルージュの光る唇でほくそ笑む。
「ひどい顔ねえ」
「……」
「そそけだって、きりきりしてとんがって。それ、女の顔じゃないわよ、鬼の顔。般若?」
私も古風だわね
くすくす笑ってこれみよがしに盛り上がった胸に指を這わせた。
「嫉妬は醜いわよ。いいじゃないの、共有したって」
少し持ち上げた乳房の下に吸い付いて残したとわかる、赤い痣があるのを指先で示す。
「あなたはしなやかで強いんでしょ。私は柔らかくてあったかいんですって」
それぞれに好きな時に好きな方を楽しめばいいってこと。
「まあ、男が女を欲しがるのは安らぎたいのが本音だから、あなたの出番が少ないのも無理ない……きゃあっ!」
話し続ける恵子に一気にシャワーの水コックを開いた。
「申し訳ないですが」
「何するの、今」
ざぶっとかかった冷水をすぐに止め、反論しかける相手を見据える。
「終わったらすぐに帰ってもらえますか」
「京ちゃんに言ってよ、連れ込まれたんだから」
第一、一度でも京ちゃんが頼んだ、私を追い出してくれって。恵子は声を低めた。
「言ってないでしょ。私に怒るのは筋違いでしょ、何度も何度も」
唇を尖らせ、もう一度温かいシャワーを浴びようと手を伸ばしながら、恵子はくすくす嗤う。
「ねだるのよ。もっとちょうだい、もっと僕を呑み込んで、恵子さんもっと、って」
ベッドまで待てなくて、玄関で襲われて、雨に濡れてるから寒いでしょって言ったのに。
「ここで今すぐにって聞かないんだから」
そんな風に求められたことある?
玄関で脱がされて押し倒されたの、嫌だって拒んだらもっと興奮しちゃって、もっと恵子さん見せてって。僕のここ見てって。
「そう言いながら、自分から跪いて舌を這わせて」
自分で啼きながら求めてきて、可愛いのよ、いつも。
美並の中で声が響く。
だって。
だって。
私は欲しい。
あの人も、この人も、その人も、欲しい。
私がうんと欲しいから、誰かにうんと欲しがられたい。
「で、最後には自分で開きながら、ここ突き刺してって言うの」
そんな京ちゃん、知らないでしょ。
「あの子が一番欲しがってるのは、大輔に抱かれることなのよ」
吐き捨てるように言った恵子が下半身に手を伸ばす。
指先が苛立たしげにかき分けていく部分に、恵子も美並も目を落とす。
その瞬間、同じ感覚を分け合ってしまう、乱れ狂う真崎の濡れた視線が振り返った先に広がる闇の存在と、自分のそれとの彼我の差を。
あなたが私は欲しいのだ。
けれどあなたが欲しがっているのは私ではないのだと感じてしまう。
私がなり得ない何者かなのだと感じてしまう。
あなたから私が得られるのは、その熱に溶ける体だけで、切望する瞳は私を通り抜けてしまうのだと気づいてしまう。
それでは足りない、うんと足りない。
それでは私は一人になるだけ。
熱が、醒めた。
恵子もまた、真崎を得てはいないのだ。
得ているのは反応する体だけで、その視線が通り抜けていると気づいている。
だからこうして焦る。些細なきっかけ、僅かな繋がりを引き寄せて、真崎の懐に入り込もうとする。
同じものを美並は持っている。同じ誘惑を、同じ媚を、同じ揺れを抱えている。
体しかないなら、体でしか真崎を得られないのなら、美並もまたそうしたのだろう、体だけが欲しいなら。
「私やあなたのここじゃなくてね」
指先でその部分を広げてみせようとする恵子に、美並は再び水コックを思い切り捻った。うろたえた恵子が飛び出してくるのに一歩も引かず、鼻先を付き合わせて目を細める。
けれど美並はもっと貪欲で。
真崎の全てが欲しいのだ。
その願いを放棄できるのか?
否。
恵子のように、体だけで満足できるわけがないだろう。
切り裂かれた自分の身の内には、紅蓮の嫉妬が渦巻いている。
真崎の全身を溶かし込み、奪い去るまでおさまらない。
なら。
「……いい加減にしないと」
戦うしかないだろう。
真崎を揺らめかせる全てのものと。
「いっ」
掴んだのはキスマークのついた乳房だった。指の力に実体がないように握りしめられる、その柔らかさにつけ込んで力を込める。驚きに目を見開いた恵子が次第に青ざめたのは、握る力を増し続けたせいだ。
「警察を呼んで叩き出しますが、そちらの方がいいですか?」
恵子が瞳を揺らせて、初めて顔を逸らした。
濡れた白い肌、ふっくらと柔らかな曲線は豊かな胸元だけではなく、滑らかな下腹にもむっちりとした腰にもあって、俯いた肩の丸みや、少し曲げた足首に包みたくなるようなか細さがある。
「なぁに?」
すぐに恵子は眼を細め、ルージュの光る唇でほくそ笑む。
「ひどい顔ねえ」
「……」
「そそけだって、きりきりしてとんがって。それ、女の顔じゃないわよ、鬼の顔。般若?」
私も古風だわね
くすくす笑ってこれみよがしに盛り上がった胸に指を這わせた。
「嫉妬は醜いわよ。いいじゃないの、共有したって」
少し持ち上げた乳房の下に吸い付いて残したとわかる、赤い痣があるのを指先で示す。
「あなたはしなやかで強いんでしょ。私は柔らかくてあったかいんですって」
それぞれに好きな時に好きな方を楽しめばいいってこと。
「まあ、男が女を欲しがるのは安らぎたいのが本音だから、あなたの出番が少ないのも無理ない……きゃあっ!」
話し続ける恵子に一気にシャワーの水コックを開いた。
「申し訳ないですが」
「何するの、今」
ざぶっとかかった冷水をすぐに止め、反論しかける相手を見据える。
「終わったらすぐに帰ってもらえますか」
「京ちゃんに言ってよ、連れ込まれたんだから」
第一、一度でも京ちゃんが頼んだ、私を追い出してくれって。恵子は声を低めた。
「言ってないでしょ。私に怒るのは筋違いでしょ、何度も何度も」
唇を尖らせ、もう一度温かいシャワーを浴びようと手を伸ばしながら、恵子はくすくす嗤う。
「ねだるのよ。もっとちょうだい、もっと僕を呑み込んで、恵子さんもっと、って」
ベッドまで待てなくて、玄関で襲われて、雨に濡れてるから寒いでしょって言ったのに。
「ここで今すぐにって聞かないんだから」
そんな風に求められたことある?
玄関で脱がされて押し倒されたの、嫌だって拒んだらもっと興奮しちゃって、もっと恵子さん見せてって。僕のここ見てって。
「そう言いながら、自分から跪いて舌を這わせて」
自分で啼きながら求めてきて、可愛いのよ、いつも。
美並の中で声が響く。
だって。
だって。
私は欲しい。
あの人も、この人も、その人も、欲しい。
私がうんと欲しいから、誰かにうんと欲しがられたい。
「で、最後には自分で開きながら、ここ突き刺してって言うの」
そんな京ちゃん、知らないでしょ。
「あの子が一番欲しがってるのは、大輔に抱かれることなのよ」
吐き捨てるように言った恵子が下半身に手を伸ばす。
指先が苛立たしげにかき分けていく部分に、恵子も美並も目を落とす。
その瞬間、同じ感覚を分け合ってしまう、乱れ狂う真崎の濡れた視線が振り返った先に広がる闇の存在と、自分のそれとの彼我の差を。
あなたが私は欲しいのだ。
けれどあなたが欲しがっているのは私ではないのだと感じてしまう。
私がなり得ない何者かなのだと感じてしまう。
あなたから私が得られるのは、その熱に溶ける体だけで、切望する瞳は私を通り抜けてしまうのだと気づいてしまう。
それでは足りない、うんと足りない。
それでは私は一人になるだけ。
熱が、醒めた。
恵子もまた、真崎を得てはいないのだ。
得ているのは反応する体だけで、その視線が通り抜けていると気づいている。
だからこうして焦る。些細なきっかけ、僅かな繋がりを引き寄せて、真崎の懐に入り込もうとする。
同じものを美並は持っている。同じ誘惑を、同じ媚を、同じ揺れを抱えている。
体しかないなら、体でしか真崎を得られないのなら、美並もまたそうしたのだろう、体だけが欲しいなら。
「私やあなたのここじゃなくてね」
指先でその部分を広げてみせようとする恵子に、美並は再び水コックを思い切り捻った。うろたえた恵子が飛び出してくるのに一歩も引かず、鼻先を付き合わせて目を細める。
けれど美並はもっと貪欲で。
真崎の全てが欲しいのだ。
その願いを放棄できるのか?
否。
恵子のように、体だけで満足できるわけがないだろう。
切り裂かれた自分の身の内には、紅蓮の嫉妬が渦巻いている。
真崎の全身を溶かし込み、奪い去るまでおさまらない。
なら。
「……いい加減にしないと」
戦うしかないだろう。
真崎を揺らめかせる全てのものと。
「いっ」
掴んだのはキスマークのついた乳房だった。指の力に実体がないように握りしめられる、その柔らかさにつけ込んで力を込める。驚きに目を見開いた恵子が次第に青ざめたのは、握る力を増し続けたせいだ。
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