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21.『遠隔』(1)
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『いいよ、いって』
『…あ……ぁあ……っっ』
切なく早まっていた呼吸が甘えるように蕩けた。柔らかな声を上げて跳ね上がる身体を抱き締めると、思っていたよりずっと華奢で細い。
零れ落ちる涙を吸い取ろうとして、ふ、とライヤーは目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めて、消えてしまった気配を追う。
「あ……れ…?」
「……ん」
「……っと」
腕の中でファローズが微かに身じろぎするのに、瞬きした目を擦った手を元に戻す。安心したようにくっついてくる身体をそっと抱き締めてみて、うん、違うな、と確認した。
ファローズじゃない。ファローズは外回りが主体だから、細く見えてもついているところにはびっちりと筋肉がついている。だからこそ、これほどこじんまりした体でも、『塔京』下町の、見かけはそう見えないが荒くれた男達と街住民を把握し、いざとなればそのどこからでも標的を狩り出してくる猟犬の役職が勤まるわけで。
「じゃ……今のは……?」
誰だろう。おそらくは実在している人物だ。だがなぜ『繋がった』のだろう。
「ちょっと要注意、かな」
意識しないで深層下に入り込む時は縁が深い。へたに弄ると運命が狂う。オウライカがもっとも警戒する動きだ。
首を傾げつつ、腕を解いて体を起こす。
「…イヤー?」
「ん、ぼちぼち起きてご飯作ってきますね」
「……ルインにやらせろよぉ」
「ルインさんの作ったの、みなさん食べないじゃないですか。ファローズさんだって」
「ちっ……」
ごそごそ不服そうにファローズがしがみついてくる。
「あのばかやろ、料理ぐらいまともにしろってんだ」
「そうしたら、僕のお仕事、なくなっちゃいますって」
くすりと笑ってファローズの額にキスを落としベッドから滑りおりると、むくれた顔で布団の中からファローズが眠そうに見上げてきている。
「なぁ…」
「はい?」
パンツを拾って履き、シャツを羽織ってボタンを留めていると、ファローズがひょいと指をさした。
「?」
「その臍んとこの蝶」
「……ああ」
「夕べ初めて気づいたんだけど、妙なとこに彫り物してんな」
「……気に入りましたか」
「……ばかやろ……っ」
押さえ付けられて口にぶち込まれていたのを思い出したのだろう、ファローズが見る見る赤くなった。
「ああいうのも好きなんですね、ファローズさん」
「ばっ、ばかやろっ」
「身動きできなくされて、口無理矢理開かされて?」
「ラっ、」
「……感じちゃった?」
布団の中のファローズが潤んだ瞳を上げた。
「……まだ……早いだろ……」
「今日は中央庁へ行くんでしょう?」
「……まだ……早え」
「エバンスさんでしたっけ、別部署の人と会議ですよね?」
「ライヤー…ぁ…」
掠れた声でファローズが呼び掛け、半身を起こす。胸に散らされたキスマークは、鎖骨から上には一切ついていない。いつもならいじめてしつこく吸いつく耳の後ろの方も、夕べは触れていない。
「まだ時間あっだろ…?」
「……欲しいの?」
「……ばかやろ…」
弱々しい声でファローズは唸った。近づいてきたライヤーの下着をゆっくりずらす。
「お前はもう……要らねえのかよ……」
「ファローズさん……」
俯いたファローズが小さく呟いて、少しひやりとした。
ファローズは鈍感ではない。鈍感では猟犬は勤まらない。何度か寝ているうちに、どうやらライヤーが自分の手に負える相手ではないと感じ始めたらしく、ライヤーがまだ動きを起こしていないのに、微かに微かに距離を置こうとしている。
「……かやろ………俺だけ……欲しがってたまるかよ…」
そう言いながらファローズの股間は膨れあがりつつあった。ライヤーの落ち着いたものを掬いあげ、ベッドに這うようにしながら口に吸い込む。
「……っん…」
「足りなかった?」
ライヤーはファローズの髪の毛に指を差し入れた。寝乱れたそれをゆっくり梳いてやると、夕べのことを思い出したのだろう、忙しく舌が躍り始める。
「もっと酷い方がよかった?」
「……んん…」
ファローズは首を振った。少し唇を離してライヤーを見上げる。
「あれ以上されたら、壊れっだろが、ばかやろ」
「そう」
「……足りねえのは……」
俯いて再び含みながら、
「お前が他の奴のことを考えてる……からだ」
ファローズが低く吐いて、思わずどきりとして無意識に触れていた蝶から指を離した。
「…………ごめんね」
「……こういうときは……ごまかすもんだろ…っ」
ファローズがまた唇を外して苦しそうに唸る。それでもライヤーを見上げる気力はないのだろう、半泣きになったような声で続ける。
「それが礼儀ってもんだろが、ばかやろてめ」
「すみません……っんっ」
ファローズが噛みつくように吸いついてきて、さすがに一瞬走り上がった快感に唇を噛んだ。
『…あ……ぁあ……っっ』
切なく早まっていた呼吸が甘えるように蕩けた。柔らかな声を上げて跳ね上がる身体を抱き締めると、思っていたよりずっと華奢で細い。
零れ落ちる涙を吸い取ろうとして、ふ、とライヤーは目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めて、消えてしまった気配を追う。
「あ……れ…?」
「……ん」
「……っと」
腕の中でファローズが微かに身じろぎするのに、瞬きした目を擦った手を元に戻す。安心したようにくっついてくる身体をそっと抱き締めてみて、うん、違うな、と確認した。
ファローズじゃない。ファローズは外回りが主体だから、細く見えてもついているところにはびっちりと筋肉がついている。だからこそ、これほどこじんまりした体でも、『塔京』下町の、見かけはそう見えないが荒くれた男達と街住民を把握し、いざとなればそのどこからでも標的を狩り出してくる猟犬の役職が勤まるわけで。
「じゃ……今のは……?」
誰だろう。おそらくは実在している人物だ。だがなぜ『繋がった』のだろう。
「ちょっと要注意、かな」
意識しないで深層下に入り込む時は縁が深い。へたに弄ると運命が狂う。オウライカがもっとも警戒する動きだ。
首を傾げつつ、腕を解いて体を起こす。
「…イヤー?」
「ん、ぼちぼち起きてご飯作ってきますね」
「……ルインにやらせろよぉ」
「ルインさんの作ったの、みなさん食べないじゃないですか。ファローズさんだって」
「ちっ……」
ごそごそ不服そうにファローズがしがみついてくる。
「あのばかやろ、料理ぐらいまともにしろってんだ」
「そうしたら、僕のお仕事、なくなっちゃいますって」
くすりと笑ってファローズの額にキスを落としベッドから滑りおりると、むくれた顔で布団の中からファローズが眠そうに見上げてきている。
「なぁ…」
「はい?」
パンツを拾って履き、シャツを羽織ってボタンを留めていると、ファローズがひょいと指をさした。
「?」
「その臍んとこの蝶」
「……ああ」
「夕べ初めて気づいたんだけど、妙なとこに彫り物してんな」
「……気に入りましたか」
「……ばかやろ……っ」
押さえ付けられて口にぶち込まれていたのを思い出したのだろう、ファローズが見る見る赤くなった。
「ああいうのも好きなんですね、ファローズさん」
「ばっ、ばかやろっ」
「身動きできなくされて、口無理矢理開かされて?」
「ラっ、」
「……感じちゃった?」
布団の中のファローズが潤んだ瞳を上げた。
「……まだ……早いだろ……」
「今日は中央庁へ行くんでしょう?」
「……まだ……早え」
「エバンスさんでしたっけ、別部署の人と会議ですよね?」
「ライヤー…ぁ…」
掠れた声でファローズが呼び掛け、半身を起こす。胸に散らされたキスマークは、鎖骨から上には一切ついていない。いつもならいじめてしつこく吸いつく耳の後ろの方も、夕べは触れていない。
「まだ時間あっだろ…?」
「……欲しいの?」
「……ばかやろ…」
弱々しい声でファローズは唸った。近づいてきたライヤーの下着をゆっくりずらす。
「お前はもう……要らねえのかよ……」
「ファローズさん……」
俯いたファローズが小さく呟いて、少しひやりとした。
ファローズは鈍感ではない。鈍感では猟犬は勤まらない。何度か寝ているうちに、どうやらライヤーが自分の手に負える相手ではないと感じ始めたらしく、ライヤーがまだ動きを起こしていないのに、微かに微かに距離を置こうとしている。
「……かやろ………俺だけ……欲しがってたまるかよ…」
そう言いながらファローズの股間は膨れあがりつつあった。ライヤーの落ち着いたものを掬いあげ、ベッドに這うようにしながら口に吸い込む。
「……っん…」
「足りなかった?」
ライヤーはファローズの髪の毛に指を差し入れた。寝乱れたそれをゆっくり梳いてやると、夕べのことを思い出したのだろう、忙しく舌が躍り始める。
「もっと酷い方がよかった?」
「……んん…」
ファローズは首を振った。少し唇を離してライヤーを見上げる。
「あれ以上されたら、壊れっだろが、ばかやろ」
「そう」
「……足りねえのは……」
俯いて再び含みながら、
「お前が他の奴のことを考えてる……からだ」
ファローズが低く吐いて、思わずどきりとして無意識に触れていた蝶から指を離した。
「…………ごめんね」
「……こういうときは……ごまかすもんだろ…っ」
ファローズがまた唇を外して苦しそうに唸る。それでもライヤーを見上げる気力はないのだろう、半泣きになったような声で続ける。
「それが礼儀ってもんだろが、ばかやろてめ」
「すみません……っんっ」
ファローズが噛みつくように吸いついてきて、さすがに一瞬走り上がった快感に唇を噛んだ。
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