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111.『都市』(2)
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「…どうだ?」
「…トラスフィさん」
明るい日差しの差し込む病室で、訪ねてきた相手にエバンスは笑顔を向けた。
「随分楽になりました」
「足は」
「…まだ動かないけれど」
ライヤーは中央庁で意識を失ったエバンスを、確かに『斎京』に送り届けてくれた。
身元を引き受けたのは『斎京』の『紅蓮』を率いるシード・トラスフィで、エバンスを見る目にはわずかながら同情が閃くのは、きっとライヤーが色々と話をしているのだろう。
「仕事、してんのか」
「できる分だけ」
体を起こしたベッドのテーブルに広げた書類とパソコンに、トラスフィは顔を顰める。
「無理すんなよ」
「使わなくちゃ、無能になる」
つい『塔京』に居た頃の口調で言い捨てて、エバンスははっとした。
「あ、すみません」
「構わねえよ、そいつぁ、俺も賛成だ」
がしがしと頭を掻いたトラスフィの胸元には銀色のタグが5つ6つ光る。何でも異変の前後で失った『紅蓮』のメンバーだと言う。
タグに関わるカザルの話を聞かされて、エバンスは取り残されたような気になったものだ。自分の知らないところで、オウライカには有能な我が身を顧みないで尽くす補佐が付き、今も『斎京』だけではなく、新たに広がりつつある二つの都市『獄京』と『伽京』をも巡視に出向くこともある。
『塔京』にオウライカの凱旋する場所を確保しようとしていた自分が、ひどくちっぽけで惨めな気がして、意識が戻って数ヶ月、身動きもできず鬱々と過ごした。
回復のきっかけはトラスフィだった。
『仕方ねえよな、前世からの運命って奴だ』
トラスフィらしからぬロマンチックな台詞の意味を問うて、オウライカ、カザル、カーク、ライヤーそれぞれが見た『記憶』の夢を聞かされた。
前世など信じていない。今この現実が全てだと思っている。けれど、聞かされたそれは、あちらこちらで奇妙にそっくりな出来事が散りばめられていた。
実はエバンスは今それを探っている。
トラスフィの協力を得て、『竜』とは何なのか、『都市』とはどういう関係なのか、『記憶』の中の破壊と再生が、この世界にどう関わっているのか、それを解き明かそうとしている。
「もう少ししたら車椅子で動けるようになるし、そうすれば街へも出られる」
ぱたりとパソコンを閉じて、トラスフィに笑いかける。
「一体何が起こったのか、それを知りたいんです」
ああ、それに。
「『斎京』特有の『紋章』ですか、あれも興味深い。土地によるのか血筋によるのか、研究の余地がありそうです」
『塔京』から入ってきたのなら、『塔京』ものだから持てる視点で、『斎京』を分析して見たい。
「それでまさか戦争仕掛けようってんじゃねえだろうな」
「いえ」
エバンスは考え続けていたことを初めてトラスフィに打ち明ける。
「…『獄京』と『伽京』に出かけて見たい」
「ほう?」
「ひょっとしたらこの世界の底には」
意外そうなトラスフィに続ける。
「何か大きな仕組みが埋もれているのかもしれない」
それが『都市』を見れば見えてくるのかもしれない。
「…じゃあ、俺達と来るか」
「…え?」
「『紅蓮』も面子が減ったから、新規隊員を集めてんだ」
今日はその勧誘だ。
言い放たれてエバンスは戸惑う。
「でも、まだ車椅子に乗れるぐらいで…どこまで動けるようになるかわからないんですよ?」
「もう『塔京』との戦争もねえ。『紅蓮』は用済みだ。けどな」
この星はまだまだ広いぜ?
「知らねえ場所に行って見たいだろ?」
なら、俺達と来るのがうってつけだ。
「松葉杖、つけるようになったら考えてくれ」
笑って立ち上がるトラスフィをエバンスは振り仰ぐ。ためらう間もなく頷いた。
「はい是非!」
「…トラスフィさん」
明るい日差しの差し込む病室で、訪ねてきた相手にエバンスは笑顔を向けた。
「随分楽になりました」
「足は」
「…まだ動かないけれど」
ライヤーは中央庁で意識を失ったエバンスを、確かに『斎京』に送り届けてくれた。
身元を引き受けたのは『斎京』の『紅蓮』を率いるシード・トラスフィで、エバンスを見る目にはわずかながら同情が閃くのは、きっとライヤーが色々と話をしているのだろう。
「仕事、してんのか」
「できる分だけ」
体を起こしたベッドのテーブルに広げた書類とパソコンに、トラスフィは顔を顰める。
「無理すんなよ」
「使わなくちゃ、無能になる」
つい『塔京』に居た頃の口調で言い捨てて、エバンスははっとした。
「あ、すみません」
「構わねえよ、そいつぁ、俺も賛成だ」
がしがしと頭を掻いたトラスフィの胸元には銀色のタグが5つ6つ光る。何でも異変の前後で失った『紅蓮』のメンバーだと言う。
タグに関わるカザルの話を聞かされて、エバンスは取り残されたような気になったものだ。自分の知らないところで、オウライカには有能な我が身を顧みないで尽くす補佐が付き、今も『斎京』だけではなく、新たに広がりつつある二つの都市『獄京』と『伽京』をも巡視に出向くこともある。
『塔京』にオウライカの凱旋する場所を確保しようとしていた自分が、ひどくちっぽけで惨めな気がして、意識が戻って数ヶ月、身動きもできず鬱々と過ごした。
回復のきっかけはトラスフィだった。
『仕方ねえよな、前世からの運命って奴だ』
トラスフィらしからぬロマンチックな台詞の意味を問うて、オウライカ、カザル、カーク、ライヤーそれぞれが見た『記憶』の夢を聞かされた。
前世など信じていない。今この現実が全てだと思っている。けれど、聞かされたそれは、あちらこちらで奇妙にそっくりな出来事が散りばめられていた。
実はエバンスは今それを探っている。
トラスフィの協力を得て、『竜』とは何なのか、『都市』とはどういう関係なのか、『記憶』の中の破壊と再生が、この世界にどう関わっているのか、それを解き明かそうとしている。
「もう少ししたら車椅子で動けるようになるし、そうすれば街へも出られる」
ぱたりとパソコンを閉じて、トラスフィに笑いかける。
「一体何が起こったのか、それを知りたいんです」
ああ、それに。
「『斎京』特有の『紋章』ですか、あれも興味深い。土地によるのか血筋によるのか、研究の余地がありそうです」
『塔京』から入ってきたのなら、『塔京』ものだから持てる視点で、『斎京』を分析して見たい。
「それでまさか戦争仕掛けようってんじゃねえだろうな」
「いえ」
エバンスは考え続けていたことを初めてトラスフィに打ち明ける。
「…『獄京』と『伽京』に出かけて見たい」
「ほう?」
「ひょっとしたらこの世界の底には」
意外そうなトラスフィに続ける。
「何か大きな仕組みが埋もれているのかもしれない」
それが『都市』を見れば見えてくるのかもしれない。
「…じゃあ、俺達と来るか」
「…え?」
「『紅蓮』も面子が減ったから、新規隊員を集めてんだ」
今日はその勧誘だ。
言い放たれてエバンスは戸惑う。
「でも、まだ車椅子に乗れるぐらいで…どこまで動けるようになるかわからないんですよ?」
「もう『塔京』との戦争もねえ。『紅蓮』は用済みだ。けどな」
この星はまだまだ広いぜ?
「知らねえ場所に行って見たいだろ?」
なら、俺達と来るのがうってつけだ。
「松葉杖、つけるようになったら考えてくれ」
笑って立ち上がるトラスフィをエバンスは振り仰ぐ。ためらう間もなく頷いた。
「はい是非!」
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