『DRAGON NET』

segakiyui

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101.『炎熱に侵されるなかれ』(2)

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 清めの湯。
 ひたひたと湯船にあふれる清冽な光に、オウライカはゆっくりと全身を沈める。
 左半身がざわめいている。早く来いと呼びかけている。
「急くな」
 命じながらも意識がするりと紅の光に飲み込まれそうになる。
 とろりと広がる甘い血潮が内側から波立ち誘う。
 右半身だけで動くのもかなり難しい。中心がじわじわと踏み越えられて行く。
 立ち上がり、湯船から出るとフランシカが控えていた。白装束に額に白い布を巻き、胸元に小刀を呑んだ姿で一礼する。
「お支度を」
「頼む」
 仁王立ちになったまま体を拭かれて、同じような白装束を着せられる。微かな音を響かせて、光沢のある帯を巻かれ、腰で強く結ばれた。
「フランシカ」
「はい」
「ミコトを頼む」
「心得ております」
 静かな声が背後からトラスフィと同じ覚悟を響かせた。
「万が一には必ず『斎京』にお引き留めします」
「レシンはもう同じものを見てしまっている。引き摺り込む可能性が高い」
「はい」
「後追いしかねない予兆があった。実現させるわけにはいかない」
「オウライカ様亡き後、『斎京』が崩壊すればお約束は果たせませんが」
「うまくいけば『斎京』は残るはずだ。次の贄を迎えてくれ」
「かしこまりました」
 一瞬震えた声がきりりと鋭い音を立てた後、
「それでもご帰還をお待ちいたします」
 立ち竦む気配を背中で突き放して、人一人いなくなった奥間に進む。
 中央に敷きのべられた布団にはカザルが寝かされていた。同じように拭き清められた裸身は健やかな輝きを放っているが、内側に命の気配はなく『紋章』もまた感じ取れない。
「…カザル」
 微笑んで側に腰を下ろした。
「ずいぶん遠くまで来てしまったな」
 『塔京』の下街で出会った時は、こんなところまで世界の構築に関わり縁が繋がるとは思っていなかった。カークが放った毛色の変わった刺客、ただそういう存在だったのに。
「いつの間にか、こんなにお前を失うのが怖いと感じるようになっている」
 そっと手を伸ばして触れると、ひんやりとした髪の毛となお強張った冷たい頬に触れた。
 身を乗り出して両手で包み、静かに口づける。
 唇もまた固く動かなかった。
 それを呼び戻す熱は、今のオウライカにも残っていない。
「カザル。助けてくれ」
 額を合わせて話しかける。
「これから内側に潜るが、私だけでは熱に呑まれて姿を失う」
 すでに左手が自由にならなくなり、勝手にカザルの首を撫でさすり滑り降り、鎖骨を辿り胸へと這い下りている。反応もなく愛撫に応えもしない体でもお構いなしだ。獲物の内側に牙をたて、血肉を啜れる場所を探してのたうちながら臍へ、続いて力なく縮こまり冷えた半身へ絡みついていく。
 その腕に引き摺り下ろされまいと右手を布団に着けば、左の視界に喘ぎながらもがく体が蘇った。
 左手が眼帯を引き毟る。見開いたはずの目には布団のカザルが映らない。
『あ、は、ぅう』
 引き上げられた片脚、慌てて股間を覆った両手の隙間をねじ込むように、ごろりとした棒が押し当てられて割り裂いて行く。
『ひぃい、い、い、い』
 掠れた悲鳴が上がるのを左耳は快く聞いた。まだ先端しか埋められないのにびくびくと震えた身体が、逃れようと腰を引く。すがりつくように両手が握りしめたのは痛みに萎れかけた一物で、弱々しく体を起こしたのをいいことに、なお深部を抉っていく。
『うぐぅああああ』
 訴えられたのは激痛だ。容赦なく埋め込まれる肉に鮮血が散る。熱の液体で滑りが良くなった。一気に突き込んでたどり着いた先、命の消滅を感じたのか痙攣が始まり、全身に及んでいく。
『うわ、ああ、ああ、ああ』
 意味をなさない声が響き渡った。
「く…っ」
 オウライカは必死に左目を閉じる。
 頭の中で上がり続ける苦痛の呻き声を聞きながら、乱れた呼吸を整える。
 カザルの中心を握りしめた左手が震えている。干からびて固まったようなそれに張り付いた指先を剥がせないまま、同じく熱どころか冷汗を滴らせてカザルの上で喘いでいる自分に引き戻される感覚に抵抗する。
『無駄なことだ』
 左半身の奥から声が響く。
『どんな愛撫も届かない。この体には、もう何も存在しない』
 なぜなら喰ってやったからだ。
 再び左目の奥で深紅の口が開いた。
『あぉ…あっあああ』
 巨大な顎門にカザルが咥え込まれている。無数の牙が身体に刺さり、その牙の間からヌメヌメとした灰色の舌が体の隅々を舐めまわしている。敏感な二つの粒が二つに割れた舌でそれぞれ弄ばれている。奥深くに覗く濡れ光った先端も根元を違う舌でしゃぶりつかれながらしごかれ、だらだらと溢れた光を零している。押し上げられたような腰には両足の間を割って、ギラギラぬめるどす黒い舌が出入りし、深く犯されるたびに吠えるような悲鳴がカザルの口を突く。
『はぁっ、おあっ、おうっ、うぁっ』
 快楽とはほど遠い世界、ぐしゃぐしゃになったカザルの顔は呆然としていて、自分がどのような有様なのか、これからどうなるのかさえ、もう何も考えられないようだ。
『さあ、喰え』
 声が響いた。
 いつの間にか、そのカザルの前にそそり立つものを押し付けながらオウライカがいる。
『さあ、口を開け』
『あおっ、おっ、おぅっ』
 押し込まれるから開いた口から声が出る。ただそういう器械になってしまったカザルが、喚きながらのろのろと目を上げた。顔が引きつり震えだす、まだ恐怖が残っていたのかと気づいたように。
 違う。
『そんなもので入るものか』
『おあ、あっ、あっ、あっ』
 必死に口を開いていく。見えないものが押し込まれていく。
『あごっ、が、ごっ、ごっごぶっ』
 やめろ。
 呻いたのは体に走った快感のためだ。
 埋まっていく、温かな肉とのたうち痙攣する襞の中に奥深く。
 カザルの股間が次々と薄赤く染まった液体を吹き出す。ぼんやりとした瞳が焦点をなくして、煙っていく。血に染まった体が終末を感じて跳ね始める。
『喰らえ、その快楽を』
 声は誇らしく命じる。
『自らの命を磨り潰していく感覚を』
 くっ。
 オウライカはカザルの髪を掴む。血濡れてべったりした頭を引き寄せ、顎に手を回す。ざうざうと奔流となって荒れ狂う血がなおも集められて膨れ上がり、カザルが息を詰まらせた瞬間、力の限りカザルの頭を叩き込む。
 ぐちっ。
『ぎゃああああああああ』
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