183 / 213
100.『銀冠を約束するなかれ』(2)
しおりを挟む
「っっ!」
「おい、レシン!」
激しく揺さぶられ、荒く喘ぎながらレシンは瞬きした。
全身ぐっしょりと汗に濡れ、息も絶え絶えにオウライカに抱えられているのに眉を寄せる。
「…大丈夫か?」
覗き込んだオウライカがうろたえた様子で左目の眼帯をつけながら、側のミコトに何事か言いつけ、ミコトが急いで部屋を出て行く。
「俺ぁ…どうしたんだ…?」
「『紋章』を見てもらっていた、だが…」
何かに引き摺り込まれたようだ。
オウライカは白い顔で険しく吐き捨てた。
「竜、か…」
「おそらく」
「レシンさん、はい、お白湯」
「…すまねえ…」
ぶるぶる震える体を何とか支えながら、レシンは受け取った白湯を飲み干した。
「みっともねえことに、なっちまったな」
「いや……あれは」
オウライカが考え込んだ途端、ざわざわと急に慌ただしい物音が響いた。
「…誰か来たのか?」
「…ライカ!」
「あれは…」
ひび割れ掠れてはいるけれど、十分に猛々しい怒鳴り声にオウライカは眉を上げた。
「トラスフィ?」
「おい、オウライカ、あんた!」
誰何もなく襖が引き開けられ、飛び込んで来た泥塗れの男が大声をあげる。
「おい、無事じゃねえか!」
「……ご挨拶ね、トラスフィ」
「あ、あ、いや、そうじゃねえ、そうじゃねえって!」
じろりと見遣ったミコトが懐からなにか抜き放とうとするのに、トラスフィは慌てて両手を降った。
「あんたが『夢喰い』にやられたって聞いたから、カザル引きずり出して必死に帰って来たんだってよ!」
「『夢喰い』? いや、どっちかというと俺が」
「カザルを引きずり出した? どっかに埋まってたの、あの馬鹿」
「ちょっと待ってくれ」
一斉に交錯した会話に、オウライカは顔を引きつらせて制止した。
「どういうことだ? 何が起こった? カザルがどうしたって?」
聞くまでもなく、レシンと重なるように見た『紋章』が、ただならぬ事態を知らせていたが、それでもなお、現実の声を聞きたかった。
「あ、ああ、その、すまん」
トラスフィが顔を青ざめさせる。
「その、話せば長くなる、けど、そうもしてられねえ」
続いたことばは、オウライカの体を凍らせた。
「カザルが、どうも、あっち、に持ってかれたらしい」
「おい、レシン!」
激しく揺さぶられ、荒く喘ぎながらレシンは瞬きした。
全身ぐっしょりと汗に濡れ、息も絶え絶えにオウライカに抱えられているのに眉を寄せる。
「…大丈夫か?」
覗き込んだオウライカがうろたえた様子で左目の眼帯をつけながら、側のミコトに何事か言いつけ、ミコトが急いで部屋を出て行く。
「俺ぁ…どうしたんだ…?」
「『紋章』を見てもらっていた、だが…」
何かに引き摺り込まれたようだ。
オウライカは白い顔で険しく吐き捨てた。
「竜、か…」
「おそらく」
「レシンさん、はい、お白湯」
「…すまねえ…」
ぶるぶる震える体を何とか支えながら、レシンは受け取った白湯を飲み干した。
「みっともねえことに、なっちまったな」
「いや……あれは」
オウライカが考え込んだ途端、ざわざわと急に慌ただしい物音が響いた。
「…誰か来たのか?」
「…ライカ!」
「あれは…」
ひび割れ掠れてはいるけれど、十分に猛々しい怒鳴り声にオウライカは眉を上げた。
「トラスフィ?」
「おい、オウライカ、あんた!」
誰何もなく襖が引き開けられ、飛び込んで来た泥塗れの男が大声をあげる。
「おい、無事じゃねえか!」
「……ご挨拶ね、トラスフィ」
「あ、あ、いや、そうじゃねえ、そうじゃねえって!」
じろりと見遣ったミコトが懐からなにか抜き放とうとするのに、トラスフィは慌てて両手を降った。
「あんたが『夢喰い』にやられたって聞いたから、カザル引きずり出して必死に帰って来たんだってよ!」
「『夢喰い』? いや、どっちかというと俺が」
「カザルを引きずり出した? どっかに埋まってたの、あの馬鹿」
「ちょっと待ってくれ」
一斉に交錯した会話に、オウライカは顔を引きつらせて制止した。
「どういうことだ? 何が起こった? カザルがどうしたって?」
聞くまでもなく、レシンと重なるように見た『紋章』が、ただならぬ事態を知らせていたが、それでもなお、現実の声を聞きたかった。
「あ、ああ、その、すまん」
トラスフィが顔を青ざめさせる。
「その、話せば長くなる、けど、そうもしてられねえ」
続いたことばは、オウライカの体を凍らせた。
「カザルが、どうも、あっち、に持ってかれたらしい」
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる