『segakiyui短編集』

segakiyui

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SSS66『冒険への入り口』

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 甘えてるってママに言われたけど、僕はこの家が好きさ。安心して暮らせる家。ステンドグラスの窓があって、いろんな世界の風が吹き込んでくる。
 なのに最近、何だか落ち着かなくて。
 冒険に出たい。新しい世界を見てみたい。けれど、怖い、ここから出るのは。
 ジオじいさんに話すと、じいさんはにこにこ笑った。
「では、わしと冒険に出かけよう」
「家から出たくはないんだ。でも、ママは、そんな臆病な冒険家なんていないって」
「では、わしが家ごと運んでやろう」
「……ねえ、それって甘えてるってことでしょう?」
 ジオじいさんは目を細めた。
「役割が違うだけのことさ。わしは冒険に出るのが好きだ。何が起こっても、どんなことになっても楽しめる。だが、冒険は冒険家だけが作ってるんじゃない。冒険をするもの、冒険を遮るもの。冒険を見るもの、聞くもの、話すもの。そして、冒険に出かけさせるものもいる。マフィーは、どの役割をするのかな。考えつくまで、冒険の入り口を、ゆっくり回っていてあげよう」
 ジオじいさんは、僕の家に大きなピンクの羽根を取り付けた。じいさんがいつも使っている紫の自転車を繋いで、ゆっくり走り出す。山の斜面をするする滑って、海へ突き出した岬の端で、ふわりと浮いた。家は、ジオじいさんの自転車に引かれて見る見る高く舞い上がった。
 風の向きが変わった。
 僕は思いついて、小さな旗を作り、屋根の裏部屋の天辺から立っている棒に付けた。昔、風見鶏が付いていた場所だ。
 ママが外を見て、「あら、まあ」と言った。
 ジオじいさんは満足そうにペダルを漕いで、とても大きな円を描くように進み始めた。

                   終わり
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