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『へそまんじゅう』
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がらっ。
ガラガラガラ、ガッシャーン。
「うひゃあっ」
あじさいの葉の上にいたあおがえるは、あわてて首をすくめました。
さっきまでほのぼのと明るかった空が見る見るかき曇ったかと思ったとたん、天地を裂くような音とともに光りました。
気の荒いことで評判の、西の空のかみなりさまがやってきたのです。
この辺りに住むイノシシも鹿も、体の大きな熊でさえ、かみなりさまにはかないません。嫌だと言うまもなく、おへそを取られて食べられてしまうのです。
あおがえるにはおへそはないけど、それならそれで何をされるかわかりません。
「くわばらくわばら」
あおがえるが温かい地面の方に降りて行こうとした矢先、ずしいん、と大きな音が響きました。
割れんばかりの声が、
「待て、あおがえる」
「はい、なんでしょう」
あおがえるは震えながら、空から降りてきたかみなりさまを見上げました。
真っ赤な肌にぎらぎら光る金色の目。ぐるぐると渦巻きもつれた髪の毛が、肩に広がっています。ぐいっと引き締まった口があおがえるに、にいっと笑いかけました。
「お前のへそが食いたい。出せ」
「えっ」
あおがえるは困りました。
「どうした、出せ、出せ」
「あのう、そのう」
「どうした、出せ」
「ええと、あの、おへそは置いてきてしまいました」
「何、へそを置いてきた」
かみなりさまはぐるりと目を剥きました。
「はい、近くの、親切な、おばあさんが預かってくれているのです」
「なるほど」
かみなりさまは、また、にいっと笑いました。
「それほど大事にしているへそなら、さぞかし美味いことだろう。すぐに取って来い」
「は、はい、ただいま」
青蛙はぴょんと葉から飛び降りました。
「困ったなあ。おへそを預けているなんて、ばかなことを言ってしまった」
あおがえるは一所懸命跳ねながら、呟きました。
「どうしたらいいんだろう。なかったと言えば、かみなりさまはこの辺りを焼いてしまうかもしれない。預けていなかったと言えば、どうして嘘をついたと言われる。ああ、困った」
あおがえるは、跳ねに跳ねて、ようやくおばあさんの家にたどり着きました。
あおがえるが、ずっと小さな、おたまじゃくしだった頃、このおばあさんの家の庭の池で暮らしていたのです。尻尾が短くなって、それと一緒に跳ね回ることに夢中になったあおがえるが、ぴょいと縁側に飛び込んだのを、優しく池に戻してくれたおばあさん。
「おばあさん、おばあさん」
「あれまあ、どうしたの。ずいぶんと慌てているねえ」
おばあさんは、あおがえるの声に、にこにこ笑って出てきてくれました。
「困ったことになりました」
「ふんふん、なあに」
あおがえるの話を頷いて聞いていたおばあさんは、少しお待ち、と奥に入っていきました。
やがて、小さな丸いお団子を持って出てきたおばあさんは、あおがえるの背中にお団子をのせ、柔らかい紐で縛り付けました。
そして、
「さ、これをかみなりさまにお上げなさい。これはね、あなたのおへそなの……そうね、甘くておいしい、へそまんじゅう」
「へそまんじゅう? でも、かみなりさまが嘘だと言ったらどうしましょう」
「その時はね」
おばあさんはくすくす笑いながら、あおがえるにそっと囁きました。
「遅い、遅い」
西の空のかみなりさまが苛々しているところへ、あおがえるは戻ってきました。
「へそはあったのか」
「はい、ありました。これです。どうぞ、召し上がって下さい」
「うむ、そうか」
かみなりさまは、そろそろと紐を解き、あおがえるの背中から、へそまんじゅうを取りました。
「なんじゃ、ふわふわと柔らかいな」
「はい、わたしのお腹は柔らかですから」
あおがえるは答えました。
「何やら、いい匂いがするぞ」
「あじさいの花の上で暮らしていたものですから」
「よし、では、食ってやろう」
かみなりさまは、口の中へ、へそまんじゅうを放り込みました。
「うむうむ、甘くて美味しいのう。だが、これはどこかで食ったことがある。まんじゅうの味に似ているぞ」
かみなりさまは、ぎろりとあおがえるを睨みました。
「こら、かえる。嘘をついているのではなかろうな」
あおがえるはここぞとばかりに立ち上がり、真っ白なすべすべしたお腹をこすって見せて、かみなりさまに言いました。
「嘘なものですか。その証拠に、わたしのお腹にはもうおへそはないでしょう?」
「ふうむ、そうだな」
かみなりさまは頷きました。
「しかし、旨かった。よし、また、他のあおがえるを探しに行こう」
そうして、すいっと身軽に、西の空へ帰って行ってしまいました。
終わり
ガラガラガラ、ガッシャーン。
「うひゃあっ」
あじさいの葉の上にいたあおがえるは、あわてて首をすくめました。
さっきまでほのぼのと明るかった空が見る見るかき曇ったかと思ったとたん、天地を裂くような音とともに光りました。
気の荒いことで評判の、西の空のかみなりさまがやってきたのです。
この辺りに住むイノシシも鹿も、体の大きな熊でさえ、かみなりさまにはかないません。嫌だと言うまもなく、おへそを取られて食べられてしまうのです。
あおがえるにはおへそはないけど、それならそれで何をされるかわかりません。
「くわばらくわばら」
あおがえるが温かい地面の方に降りて行こうとした矢先、ずしいん、と大きな音が響きました。
割れんばかりの声が、
「待て、あおがえる」
「はい、なんでしょう」
あおがえるは震えながら、空から降りてきたかみなりさまを見上げました。
真っ赤な肌にぎらぎら光る金色の目。ぐるぐると渦巻きもつれた髪の毛が、肩に広がっています。ぐいっと引き締まった口があおがえるに、にいっと笑いかけました。
「お前のへそが食いたい。出せ」
「えっ」
あおがえるは困りました。
「どうした、出せ、出せ」
「あのう、そのう」
「どうした、出せ」
「ええと、あの、おへそは置いてきてしまいました」
「何、へそを置いてきた」
かみなりさまはぐるりと目を剥きました。
「はい、近くの、親切な、おばあさんが預かってくれているのです」
「なるほど」
かみなりさまは、また、にいっと笑いました。
「それほど大事にしているへそなら、さぞかし美味いことだろう。すぐに取って来い」
「は、はい、ただいま」
青蛙はぴょんと葉から飛び降りました。
「困ったなあ。おへそを預けているなんて、ばかなことを言ってしまった」
あおがえるは一所懸命跳ねながら、呟きました。
「どうしたらいいんだろう。なかったと言えば、かみなりさまはこの辺りを焼いてしまうかもしれない。預けていなかったと言えば、どうして嘘をついたと言われる。ああ、困った」
あおがえるは、跳ねに跳ねて、ようやくおばあさんの家にたどり着きました。
あおがえるが、ずっと小さな、おたまじゃくしだった頃、このおばあさんの家の庭の池で暮らしていたのです。尻尾が短くなって、それと一緒に跳ね回ることに夢中になったあおがえるが、ぴょいと縁側に飛び込んだのを、優しく池に戻してくれたおばあさん。
「おばあさん、おばあさん」
「あれまあ、どうしたの。ずいぶんと慌てているねえ」
おばあさんは、あおがえるの声に、にこにこ笑って出てきてくれました。
「困ったことになりました」
「ふんふん、なあに」
あおがえるの話を頷いて聞いていたおばあさんは、少しお待ち、と奥に入っていきました。
やがて、小さな丸いお団子を持って出てきたおばあさんは、あおがえるの背中にお団子をのせ、柔らかい紐で縛り付けました。
そして、
「さ、これをかみなりさまにお上げなさい。これはね、あなたのおへそなの……そうね、甘くておいしい、へそまんじゅう」
「へそまんじゅう? でも、かみなりさまが嘘だと言ったらどうしましょう」
「その時はね」
おばあさんはくすくす笑いながら、あおがえるにそっと囁きました。
「遅い、遅い」
西の空のかみなりさまが苛々しているところへ、あおがえるは戻ってきました。
「へそはあったのか」
「はい、ありました。これです。どうぞ、召し上がって下さい」
「うむ、そうか」
かみなりさまは、そろそろと紐を解き、あおがえるの背中から、へそまんじゅうを取りました。
「なんじゃ、ふわふわと柔らかいな」
「はい、わたしのお腹は柔らかですから」
あおがえるは答えました。
「何やら、いい匂いがするぞ」
「あじさいの花の上で暮らしていたものですから」
「よし、では、食ってやろう」
かみなりさまは、口の中へ、へそまんじゅうを放り込みました。
「うむうむ、甘くて美味しいのう。だが、これはどこかで食ったことがある。まんじゅうの味に似ているぞ」
かみなりさまは、ぎろりとあおがえるを睨みました。
「こら、かえる。嘘をついているのではなかろうな」
あおがえるはここぞとばかりに立ち上がり、真っ白なすべすべしたお腹をこすって見せて、かみなりさまに言いました。
「嘘なものですか。その証拠に、わたしのお腹にはもうおへそはないでしょう?」
「ふうむ、そうだな」
かみなりさまは頷きました。
「しかし、旨かった。よし、また、他のあおがえるを探しに行こう」
そうして、すいっと身軽に、西の空へ帰って行ってしまいました。
終わり
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