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4.2人の軍師(15)
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(同じなんだ……同じことばかり…繰り返してる)
また、少しは、期待してしまった。
ジノが随分頑張ってくれたから。
綺麗だと言ってもらえなくてもいい、アシャが何か、ユーノを見て少しはマシとか似合うとかか、そう言うことを言ってくれるかと思ってしまった。なのに現実はこうだ。いつもこうだ。一所懸命装わせてくれたジノに無駄なことをさせた自分が情けなくて申し訳ない。
(ごめんね、ジノ。やっぱり土台がまず過ぎるんだ)
「ユーノ?」
「ごめん…」
止まらぬユーノのくすくす笑いに、訝しげに声をかけたアシャを見上げる。視界が曇りそうなのを瞬きして払った。
「ちょっと思い出してた、凄く馬鹿馬鹿しい夜会があったこと」
「……お前は踊らないのか?」
少しためらったアシャが問う。
「誰と? 踊るために来たんじゃないよ」
(そうだ、バカな期待をするんじゃない)
言い捨てて、ユーノは気持ちを切り替える。
「聞きたいことがあるんだ」
「何だ?」
「シャイラが戦死、したそうだね」
胸の奥に針が突き立つような思いを堪える。
「…ああ」
アシャが真顔になった。
「代わりにあなたが出る、と聞いた」
「そうだ」
あっさり頷かれて口走る。
「私が行くよ」
「え?」
「私が、東へ行く」
きょとんとするアシャが、ユーノのことなどこれっぽっちも考えていなかったと知らせるようで、胸が痛んだ。
「『銀羽根』が出てるんなら、よくわかった手合いだし、それに、あなた以外じゃ私が一番東を知っている」
せめてそれぐらいは役に立ちたい。なのに、
「駄目だ」
にべも無い返答にかっとした。
「どうして!」
「お前は西から帰ったばかりだ。体調もまだ戻ってないだろう?」
「でも!」
役立たずだ、そう告げられた気がする。
「あなたが行くよりはましだよ! あなたがいなきゃ、どうするのさ?」
アシャを迎えたラズーンの熱狂、あれほどの信頼と期待を背負った男、セレドの未来とレアナの幸福を約束する剣士、それを勝ち目の少ない戦に投入することなど愚の骨頂だ。
「それに…」
言いたくない、けれど言うしかない、事実は事実だ。
一瞬唇を噛み締め、それでも深い紫の瞳の断罪には耐えられず、目を伏せた。
「…シャイラが死んだの……私のせいだろ?」
「ユーノ?」
「ミダス公に聞いた……シャイラは私の囮に反対していて……それで東で暴走したって……ムキになって………できるだけ早く東を片付けて……私を助けてくれようとして……」
視界が揺れた。
一人で死ぬのなら怖くない、いつだってそんなことは覚悟している。西の戦いで多くの兵の命を左右する命令も、いずれ自分の命で贖うと思えば思い切れた。けれど、シャイラは違う、無謀な作戦、それを選ぶしかない厳しい戦況、それでも最善を尽くしてユーノを思ってくれた。その想いにユーノは応え切れたのか?
「…ごめん、ね……アシャ…」
声が掠れる。
「何がだ?」
アシャの声が冷えている。
「……もう少し……敵を引きつけておけば…よかったね…私……もう少し…」
体が震える。あの長丈草(ディグリス)の原、一人立ち竦んでいた夜が蘇る。
一番聞きたくないことばを、一番聞きたくない相手から聞かされるのかも知れない。
「私……生きて帰っちゃ……まずかった……?」
また、少しは、期待してしまった。
ジノが随分頑張ってくれたから。
綺麗だと言ってもらえなくてもいい、アシャが何か、ユーノを見て少しはマシとか似合うとかか、そう言うことを言ってくれるかと思ってしまった。なのに現実はこうだ。いつもこうだ。一所懸命装わせてくれたジノに無駄なことをさせた自分が情けなくて申し訳ない。
(ごめんね、ジノ。やっぱり土台がまず過ぎるんだ)
「ユーノ?」
「ごめん…」
止まらぬユーノのくすくす笑いに、訝しげに声をかけたアシャを見上げる。視界が曇りそうなのを瞬きして払った。
「ちょっと思い出してた、凄く馬鹿馬鹿しい夜会があったこと」
「……お前は踊らないのか?」
少しためらったアシャが問う。
「誰と? 踊るために来たんじゃないよ」
(そうだ、バカな期待をするんじゃない)
言い捨てて、ユーノは気持ちを切り替える。
「聞きたいことがあるんだ」
「何だ?」
「シャイラが戦死、したそうだね」
胸の奥に針が突き立つような思いを堪える。
「…ああ」
アシャが真顔になった。
「代わりにあなたが出る、と聞いた」
「そうだ」
あっさり頷かれて口走る。
「私が行くよ」
「え?」
「私が、東へ行く」
きょとんとするアシャが、ユーノのことなどこれっぽっちも考えていなかったと知らせるようで、胸が痛んだ。
「『銀羽根』が出てるんなら、よくわかった手合いだし、それに、あなた以外じゃ私が一番東を知っている」
せめてそれぐらいは役に立ちたい。なのに、
「駄目だ」
にべも無い返答にかっとした。
「どうして!」
「お前は西から帰ったばかりだ。体調もまだ戻ってないだろう?」
「でも!」
役立たずだ、そう告げられた気がする。
「あなたが行くよりはましだよ! あなたがいなきゃ、どうするのさ?」
アシャを迎えたラズーンの熱狂、あれほどの信頼と期待を背負った男、セレドの未来とレアナの幸福を約束する剣士、それを勝ち目の少ない戦に投入することなど愚の骨頂だ。
「それに…」
言いたくない、けれど言うしかない、事実は事実だ。
一瞬唇を噛み締め、それでも深い紫の瞳の断罪には耐えられず、目を伏せた。
「…シャイラが死んだの……私のせいだろ?」
「ユーノ?」
「ミダス公に聞いた……シャイラは私の囮に反対していて……それで東で暴走したって……ムキになって………できるだけ早く東を片付けて……私を助けてくれようとして……」
視界が揺れた。
一人で死ぬのなら怖くない、いつだってそんなことは覚悟している。西の戦いで多くの兵の命を左右する命令も、いずれ自分の命で贖うと思えば思い切れた。けれど、シャイラは違う、無謀な作戦、それを選ぶしかない厳しい戦況、それでも最善を尽くしてユーノを思ってくれた。その想いにユーノは応え切れたのか?
「…ごめん、ね……アシャ…」
声が掠れる。
「何がだ?」
アシャの声が冷えている。
「……もう少し……敵を引きつけておけば…よかったね…私……もう少し…」
体が震える。あの長丈草(ディグリス)の原、一人立ち竦んでいた夜が蘇る。
一番聞きたくないことばを、一番聞きたくない相手から聞かされるのかも知れない。
「私……生きて帰っちゃ……まずかった……?」
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