125 / 216
第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王
31.王の器(4)
しおりを挟む
「戴冠式は行わなかったんだって?」
「国民と共に国を立て直すのが先決です」
「それじゃあ、誰もあなたを王だとは認めていないんじゃないの?」
「私は捨て石でいい」
シャルンはお茶のお代わりを注ぎ足すルッカに微笑む。
「いずれ、より相応しい王を選んでくれるようにとマイン伯に頼んでいます」
「…欲がないことだ」
「私は」
シャルンはカップを止めた。
映る懐かしい顔1つ1つを思い出す。
「一度この国を捨てました」
「…」
サリストアが促すように目をあげる。
「いえ、一度ならず、何度も」
カップのお茶を静かに飲み干す。
「輿入れをするたびに、何かをした気になっていたけれど、その実、自国の実情さえ自分で確かめることなく、他国へ逃げたのです」
短く切った髪の毛はリボンとピンで纏め、小花を散らせて飾り付けている。ドレスは豪華ではないが、華やかな薄紅のものだ。城下へ見回りに出る時、また民が何事かを訴えに来た時、必ずそれらの装いが国民の働きによるものであり、身に着けるもの全てに感謝していると伝える。必要ならばいつでも脱ぎ捨て、洗い晒しの一枚で働くつもりなので知らせて欲しいと願う。
それは王として相応しい振る舞いではないのかもしれない。
けれど国民は喜んでくれる、私達の働きがあなたを幸せにしているのですねと。
あなたは私達の苦しみをすぐに背負うと走り寄って来てくれるのですねと。
『大丈夫です姫様、俺ら、まだまだ頑張れますって』
あなたがそこに居るのなら。
「私は王の器ではありません。私にとって王にふさわしい方は陛下お一人です」
シャルンはサリストアを見つめた。
「かつておっしゃったでしょう? 隣国に何をしでかすのかわからない最終兵器みたいなものが居るより、せっせと国を安定させてくれる王が居る方が安心だから、と」
私はハイオルトを落ち着かせる捨て石となります。
「シャルン…」
「そうすれば、カースウェル王もご安心されるでしょう……ダフラムの動きがある時、ハイオルトは陛下の背中をお守りする唯一の盾となるのです」
「……あのさ」
気づいてないのかもしれないけどさ。
「?」
「その言い方って実は…」
サリストアが何事か言いかけた矢先、激しい物音が響き渡った。
「なんだ?」
「サリストア様、姫様をお願いいたします!」
言い捨てたルッカがすぐに飛び出していく。
サリストアがうっそりと面倒くさそうに立ち上がるが、既にその手に外していた剣を掴んでいる。
「サリストア様…」
「心配しなくていいよ、シャルン。あなたを傷つけさせたら、私があいつに首を奪られるからね」
何を思い出したのか、くすりと楽しげに笑った。
「そうだよな、こんな落ち着き払った世界じゃ、アルシアが楽しめることなんて、あなたの盾になって諸王とやり合うぐらいだよね」
「え?」
驚いてサリストアを見るシャルンの耳に、慌ただしく駆け寄ってくる音がした。
サリストアが身構え、シャルンは邪魔にならないように背後に立つ。
「国民と共に国を立て直すのが先決です」
「それじゃあ、誰もあなたを王だとは認めていないんじゃないの?」
「私は捨て石でいい」
シャルンはお茶のお代わりを注ぎ足すルッカに微笑む。
「いずれ、より相応しい王を選んでくれるようにとマイン伯に頼んでいます」
「…欲がないことだ」
「私は」
シャルンはカップを止めた。
映る懐かしい顔1つ1つを思い出す。
「一度この国を捨てました」
「…」
サリストアが促すように目をあげる。
「いえ、一度ならず、何度も」
カップのお茶を静かに飲み干す。
「輿入れをするたびに、何かをした気になっていたけれど、その実、自国の実情さえ自分で確かめることなく、他国へ逃げたのです」
短く切った髪の毛はリボンとピンで纏め、小花を散らせて飾り付けている。ドレスは豪華ではないが、華やかな薄紅のものだ。城下へ見回りに出る時、また民が何事かを訴えに来た時、必ずそれらの装いが国民の働きによるものであり、身に着けるもの全てに感謝していると伝える。必要ならばいつでも脱ぎ捨て、洗い晒しの一枚で働くつもりなので知らせて欲しいと願う。
それは王として相応しい振る舞いではないのかもしれない。
けれど国民は喜んでくれる、私達の働きがあなたを幸せにしているのですねと。
あなたは私達の苦しみをすぐに背負うと走り寄って来てくれるのですねと。
『大丈夫です姫様、俺ら、まだまだ頑張れますって』
あなたがそこに居るのなら。
「私は王の器ではありません。私にとって王にふさわしい方は陛下お一人です」
シャルンはサリストアを見つめた。
「かつておっしゃったでしょう? 隣国に何をしでかすのかわからない最終兵器みたいなものが居るより、せっせと国を安定させてくれる王が居る方が安心だから、と」
私はハイオルトを落ち着かせる捨て石となります。
「シャルン…」
「そうすれば、カースウェル王もご安心されるでしょう……ダフラムの動きがある時、ハイオルトは陛下の背中をお守りする唯一の盾となるのです」
「……あのさ」
気づいてないのかもしれないけどさ。
「?」
「その言い方って実は…」
サリストアが何事か言いかけた矢先、激しい物音が響き渡った。
「なんだ?」
「サリストア様、姫様をお願いいたします!」
言い捨てたルッカがすぐに飛び出していく。
サリストアがうっそりと面倒くさそうに立ち上がるが、既にその手に外していた剣を掴んでいる。
「サリストア様…」
「心配しなくていいよ、シャルン。あなたを傷つけさせたら、私があいつに首を奪られるからね」
何を思い出したのか、くすりと楽しげに笑った。
「そうだよな、こんな落ち着き払った世界じゃ、アルシアが楽しめることなんて、あなたの盾になって諸王とやり合うぐらいだよね」
「え?」
驚いてサリストアを見るシャルンの耳に、慌ただしく駆け寄ってくる音がした。
サリストアが身構え、シャルンは邪魔にならないように背後に立つ。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる