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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王
19.ハイオルトの夢(3)
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『愛するシャルン・ハイオルト・スティシニア』
手紙はそう呼びかけている。
シャルンは血の気が引くのを感じた。
訳の分からぬものが胸元にせり上がって来る。
だがレダンは驚いた様子もなく、静かに文面を読み続けた。
『この手紙が既に3通目であることを伝えるのは辛いことだ。
しかし、そなたの夫が誠実であれば、既に先の2通を読んでいることであろう。』
ルッカがぎゅっと拳を握るのが見えた。
『その上で、この3通目をそなたに向けて送る。
先に知らせた通り、ハイオルトはいつもの冬を迎え、厳しい生活を続けている。
ミディルン鉱石はもう底を突くと知らせを受けた。
国民は飢えに耐えている。
恥を忍んで願う。
どうか、カースウェル王にハイオルトへの援助を願って欲しい。
せめてこの冬を越えるだけの糧食を与えて欲しいと願ってはくれまいか。
同じ内容を繰り返し伝えても、そなたからは何の便りもない。
心優しいそなたのこと、ハイオルトのことを忘れたとは思わぬが、初めての夫と過ごす日々の甘さに心奪われているだけだと信じている。
悲しいかな、諸国へ遊興の旅を続けているとの噂もある。』
「姫様…っ」
堪えかねたようなルッカの声に、溜まっていた涙がついに零れ落ちた。
レダンが軽く体を震わせて手紙から顔をあげた気配がある。
「…続きを?」
「どうぞ、お読み頂けますか…」
掠れた声でシャルンは願い、俯いたまま、目を固く閉じる。
『国を案じる日々は苦しい。
最近では起き上がれぬ時もあり、食欲も落ちている。
気力がなくなると、そなたの幼い時の頃を思い出して慰めとしている。
母親亡き後、十分なことができていたとは思わぬが、そなたの幸福をいつも祈ってきた。
せめて、そなたが幸せであるかどうか、それだけでも確かめたい。
ハイオルトへ戻ってきてはくれまいか、シャルン。
この国の未来と、そなたの幸福を、今一度話し合う時ではないかと思っている。』
レダンの声は淡々としていた。穏やかで静かで、まるで何度も読んだ文章を読み上げるように滑らかな口調だ。
だが、その声が突然止まった。
「……陛下…?」
「…この先はあなたが読むべきでは」
声が尋ねるのに首を振る。
「いえ、陛下に全て知っておいて頂きとうございます」
少しの沈黙の後、より静かな声が読み続ける。
『そなたに戻る気持ちがあるのなら、ハイオルトはいつでもそなたを受け入れる用意がある。
そなたの故郷はハイオルト、それは天地が裂けても変わらぬ事実だ。
カースウェル王は立派な方だ。
そなたがおらずとも、国を守り育て、素晴らしき姫君を迎えられよう。
そなたを真に必要とするのは、我がハイオルト以外にはないことを、繰り返し話し合ったはずではないか。
シャルン、幻の夢から覚め、そなたにふさわしい道を選び直す時が来たのだと気づいて欲しい。
そうして、ハイオルトをこの厳しい苦しみから救って欲しい。
ハイオルト13世、ダッカス・ハイオルト・ゲドラス』
「お父様…」
シャルンは顔を覆った。
手紙はそう呼びかけている。
シャルンは血の気が引くのを感じた。
訳の分からぬものが胸元にせり上がって来る。
だがレダンは驚いた様子もなく、静かに文面を読み続けた。
『この手紙が既に3通目であることを伝えるのは辛いことだ。
しかし、そなたの夫が誠実であれば、既に先の2通を読んでいることであろう。』
ルッカがぎゅっと拳を握るのが見えた。
『その上で、この3通目をそなたに向けて送る。
先に知らせた通り、ハイオルトはいつもの冬を迎え、厳しい生活を続けている。
ミディルン鉱石はもう底を突くと知らせを受けた。
国民は飢えに耐えている。
恥を忍んで願う。
どうか、カースウェル王にハイオルトへの援助を願って欲しい。
せめてこの冬を越えるだけの糧食を与えて欲しいと願ってはくれまいか。
同じ内容を繰り返し伝えても、そなたからは何の便りもない。
心優しいそなたのこと、ハイオルトのことを忘れたとは思わぬが、初めての夫と過ごす日々の甘さに心奪われているだけだと信じている。
悲しいかな、諸国へ遊興の旅を続けているとの噂もある。』
「姫様…っ」
堪えかねたようなルッカの声に、溜まっていた涙がついに零れ落ちた。
レダンが軽く体を震わせて手紙から顔をあげた気配がある。
「…続きを?」
「どうぞ、お読み頂けますか…」
掠れた声でシャルンは願い、俯いたまま、目を固く閉じる。
『国を案じる日々は苦しい。
最近では起き上がれぬ時もあり、食欲も落ちている。
気力がなくなると、そなたの幼い時の頃を思い出して慰めとしている。
母親亡き後、十分なことができていたとは思わぬが、そなたの幸福をいつも祈ってきた。
せめて、そなたが幸せであるかどうか、それだけでも確かめたい。
ハイオルトへ戻ってきてはくれまいか、シャルン。
この国の未来と、そなたの幸福を、今一度話し合う時ではないかと思っている。』
レダンの声は淡々としていた。穏やかで静かで、まるで何度も読んだ文章を読み上げるように滑らかな口調だ。
だが、その声が突然止まった。
「……陛下…?」
「…この先はあなたが読むべきでは」
声が尋ねるのに首を振る。
「いえ、陛下に全て知っておいて頂きとうございます」
少しの沈黙の後、より静かな声が読み続ける。
『そなたに戻る気持ちがあるのなら、ハイオルトはいつでもそなたを受け入れる用意がある。
そなたの故郷はハイオルト、それは天地が裂けても変わらぬ事実だ。
カースウェル王は立派な方だ。
そなたがおらずとも、国を守り育て、素晴らしき姫君を迎えられよう。
そなたを真に必要とするのは、我がハイオルト以外にはないことを、繰り返し話し合ったはずではないか。
シャルン、幻の夢から覚め、そなたにふさわしい道を選び直す時が来たのだと気づいて欲しい。
そうして、ハイオルトをこの厳しい苦しみから救って欲しい。
ハイオルト13世、ダッカス・ハイオルト・ゲドラス』
「お父様…」
シャルンは顔を覆った。
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