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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王
17.悩ましい温泉(1)
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「寒くはないか、シャルン」
「はい、陛下」
「もう少し暖かな掛物を用意したほうがよかったのではないか」
「十分です、陛下」
馬車の中、心配そうに繰り返し尋ねるレダンに微笑む。
「長旅だからな」
「ずっとご一緒できて嬉しゅうございます」
膝を包む掛物を自ら整えてくれる優しい指先にシャルンは笑みを深める。
「そうか」
ほ、と小さく息を吐いたレダンは、もう少し大きな馬車なら、あなたの隣に座れたのに、と子どもじみたふてくされた声で呟いたから、なお笑ってしまった。
「何だ?」
「…お怒りになります」
「怒らないぞ、何を考えた?」
「…陛下がお可愛らしくて」
「…」
一瞬固まったレダンが、一転目を細めて誘った。
「そんなことを言うなら、この膝の上に来るか?」
「陛下」
思わず居住まいを正した。
「お話ししなくてはならないことが」
「…まだだろう」
「え?」
「まだ、それほど重ねていないぞ?」
「何のことでしょう?」
「赤子ではないのか?」
「…違います」
顔が熱くなったのは、シャルンをいとしんでくれるのを思い出したせいで。
「でも」
「でも?」
「似ているかもしれません」
「?」
「私……目方が増えました」
「うん、それが?」
気づいているぞと言いたげな顔にシャルンはなお顔が熱くなった。
「陛下のお膝にご負担が」
「…っくふっ」
レダンが妙な声を上げて俯いた。
「陛下?」
「…っっ」
「あの、陛下…」
「っはっははっ!」
不安になって覗き込むシャルンにレダンは大笑いする。
「俺の膝が心配か、シャルン!」
「だって…」
シャルンはむくれる。
「いつもいつもお膝に抱いて下さってますから、お辛くなるのではと!」
色々心配してようやく打ち明けたのに、と口を尖らせると、あっさり唇を盗まれた。
「なあシャルン」
ちゅ、と聞えよがしの音を立てて離しながら、レダンは熱っぽい目で覗き込む。
「そんなことを聞くとな、男はこの中で抱いてもいいのかと考える」
「え…ええっ」
体を引いたシャルンをレダンはするりと膝の上に抱き寄せ、抱き込んだ。
「危なっかしいものだ、我が妃は」
「も、申し訳ございません、でも、あの」
静かに回された手が柔らかく包み込むのに、シャルンは慌てた。
「決してそのようなつもりでは」
「ふうん?」
俺は全然足りないと罵られているのかと思ったぞ?
レダンはくすくす笑いながら、シャルンの首筋にキスを落とす。
「もっと苛めてくれないから太ってしまいました、と」
「違います、全然違います、陛下!」
十分です、十分すぎて溢れております、胸一杯に満たされて。
「どの辺りが? ここか?」
「あ」
首のリボンを軽く解かれて、見えた素肌に吸い付かれる。
「それともここかな」
「へ、いか」
舐められてもう少し下へ唇をずらされる。
「陛下、あの、もう、お許し下さい!」
シャルンは懇願した。必死に腕を突っ張ろうが意味がなく、易々と腕を背後にまとめられ抱き込まれる。ここが馬車の中で、周囲が真昼で、カースウェルを離れ、ハイオルトの外側を通り抜けていく行程の二日目、もうすぐダスカスも見えて来ようと言う状況さえ、レダンは忘れてしまっているように見える。仰け反って体を反らしながら訴える。
「ダメ、です…っ」
「っ」
ふいにびくりとレダンは動きを止めた。そのまま迷うようにじっとしていたが、やがて、吐息の後、ちゅうう、と強く吸い付いてから顔を上げ、一緒にシャルンを抱き起してくれた。
「はい、陛下」
「もう少し暖かな掛物を用意したほうがよかったのではないか」
「十分です、陛下」
馬車の中、心配そうに繰り返し尋ねるレダンに微笑む。
「長旅だからな」
「ずっとご一緒できて嬉しゅうございます」
膝を包む掛物を自ら整えてくれる優しい指先にシャルンは笑みを深める。
「そうか」
ほ、と小さく息を吐いたレダンは、もう少し大きな馬車なら、あなたの隣に座れたのに、と子どもじみたふてくされた声で呟いたから、なお笑ってしまった。
「何だ?」
「…お怒りになります」
「怒らないぞ、何を考えた?」
「…陛下がお可愛らしくて」
「…」
一瞬固まったレダンが、一転目を細めて誘った。
「そんなことを言うなら、この膝の上に来るか?」
「陛下」
思わず居住まいを正した。
「お話ししなくてはならないことが」
「…まだだろう」
「え?」
「まだ、それほど重ねていないぞ?」
「何のことでしょう?」
「赤子ではないのか?」
「…違います」
顔が熱くなったのは、シャルンをいとしんでくれるのを思い出したせいで。
「でも」
「でも?」
「似ているかもしれません」
「?」
「私……目方が増えました」
「うん、それが?」
気づいているぞと言いたげな顔にシャルンはなお顔が熱くなった。
「陛下のお膝にご負担が」
「…っくふっ」
レダンが妙な声を上げて俯いた。
「陛下?」
「…っっ」
「あの、陛下…」
「っはっははっ!」
不安になって覗き込むシャルンにレダンは大笑いする。
「俺の膝が心配か、シャルン!」
「だって…」
シャルンはむくれる。
「いつもいつもお膝に抱いて下さってますから、お辛くなるのではと!」
色々心配してようやく打ち明けたのに、と口を尖らせると、あっさり唇を盗まれた。
「なあシャルン」
ちゅ、と聞えよがしの音を立てて離しながら、レダンは熱っぽい目で覗き込む。
「そんなことを聞くとな、男はこの中で抱いてもいいのかと考える」
「え…ええっ」
体を引いたシャルンをレダンはするりと膝の上に抱き寄せ、抱き込んだ。
「危なっかしいものだ、我が妃は」
「も、申し訳ございません、でも、あの」
静かに回された手が柔らかく包み込むのに、シャルンは慌てた。
「決してそのようなつもりでは」
「ふうん?」
俺は全然足りないと罵られているのかと思ったぞ?
レダンはくすくす笑いながら、シャルンの首筋にキスを落とす。
「もっと苛めてくれないから太ってしまいました、と」
「違います、全然違います、陛下!」
十分です、十分すぎて溢れております、胸一杯に満たされて。
「どの辺りが? ここか?」
「あ」
首のリボンを軽く解かれて、見えた素肌に吸い付かれる。
「それともここかな」
「へ、いか」
舐められてもう少し下へ唇をずらされる。
「陛下、あの、もう、お許し下さい!」
シャルンは懇願した。必死に腕を突っ張ろうが意味がなく、易々と腕を背後にまとめられ抱き込まれる。ここが馬車の中で、周囲が真昼で、カースウェルを離れ、ハイオルトの外側を通り抜けていく行程の二日目、もうすぐダスカスも見えて来ようと言う状況さえ、レダンは忘れてしまっているように見える。仰け反って体を反らしながら訴える。
「ダメ、です…っ」
「っ」
ふいにびくりとレダンは動きを止めた。そのまま迷うようにじっとしていたが、やがて、吐息の後、ちゅうう、と強く吸い付いてから顔を上げ、一緒にシャルンを抱き起してくれた。
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