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考えることが増えました

第112話 大切な②

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「……」

私はエリオット様の寝るベッドの横の椅子に腰掛ける。

そして、問診票を書くために、横のテーブルにある用紙とペンを手に取る。

本来は診察前に書くものだが、緊急事態だったため先に診察をしてもらったのだ。最悪退院までに書けばいいとのことだった。

「えっと……」

ガタガタガタ…

「……!」

ここで、1つ問題が生じる。

手が急に震えだし、とても問診票を書ける状態ではなくなってしまったのだ。

恐らく、今になって緊張の糸が解けたのだろう。むしろ、今まで冷静でいられた自分が不思議なくらいだ。

私は今問診票を書くのを諦め、用紙とペンをテーブルの上に戻す。

しかし、なんであんなものが……

あの針は、検査前なので推測ではあるが、刺した対象に強力な呪いをかける呪法具だ。

通常そんなおぞましいものが人の体に刺さっていれば気づきそうなものだ。しかしこの呪法具は見た目が透明で見えづらいのに加え、呪法具自身の存在を人に認識されづらくする呪いがかかっていたため、呪法具への知識が無かったり、呪法具の存在を疑っていなかったりすると、見つけられない可能性は充分にある。そして、呪法具であることを確認するには、私が使ったような呪力を見ることが出来る眼鏡をかけるか、才能のある者が何年もかけて習得できる呪力視で確認する他にない。

実際、今までの不審死の例では、患者が"ハチに刺されたらしい"と申告してきたため、治癒士も呪法具の可能性は考えなかったと思われる。また、すぐに治癒魔法で表面の傷口を塞いでしまったため、針が発見できなかったのだろう。

さらに、今回摘出した針は一部が溶けかかっていた。恐らく呪いをかけ終わると溶けて消え、証拠が残らないようになっているのだろう。だから遺体を調査しても何も見つからなかった。

私も事前に不審死の概要を聞いていたから対応出来たが、そうでなければ見つけられなかったかもしれない。

…あと少しで、エリオット様が命を落とすところだった。

倒れたのがあの場所でなければ、私が気がつくこともなかったし、応急処置用の道具も無かったし、治癒魔法が使える人物が近くをたまたま歩いていたりしなかっただろう。

今回は、その点では非常に幸運だったと言える。でも、エリオット様は第七騎士団の副騎士団長だ。このような危険がいつ来てもおかしくは無い。

エリオット様と出会ってから、いつの間にか彼のいる生活が当たり前になっていた。

でも、物事に絶対や永遠はない。エリオット様だって、いつか消えてしまう日が来るかもしれない。

それは当然防げるものなら全力で防ぐ。ただ、それでもだめなこともある。

だから、まずは今を大切にしたい。それが私の答えだ。
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