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13 蓮の気持ち

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 ひとしきり泣いたあと、気持ちが落ち着いてきた私は、やっと、抱きしめてくれている蓮に気付いた。

 「ごめん。服グシャグシャにしちゃった。」
 「ああ、良いよ別に。落ち着いた?」
 「うん。」
 「じゃあ、今日はもう寝ちゃいなよ。疲れてると良い考えも浮かばないからさ。それで、その、」
 「うん?」
 「悪いんだけど、今日はここに泊めてくれるかな?」
 「え!?」
 「いや、だって、親には帰らないって言っちゃってるし、今夜行くとこなくて。」
 照れたように頭を触る蓮が何だかおかしくて、2人で笑い合ってしまった。

 布団はちょうど2組あるので、少し離して敷いて横になった。隣にいるのが男の子ということに緊張しているのか、この状況に困惑している心がそうさせるのか、それたも今日は昼寝をし過ぎたからか、寝付けなかった。何度もゴロゴロと寝返りをうつも、音がうるさくて蓮の邪魔になるかな?と思ってからは、身じろぎするのも怖くなってジッとしていた。

 「もう寝た?」
 ふいに蓮が声をかけてきた。
 「ううん。眠れなくて。」
 「まあ、そうだよな。こんな事態、怖すぎるもんな。」
 「うん。怖い。」
 「僕も怖い」
 「その割には冷静に見えるよ?」
 「パニクって一周まわってるんだよ。」
 「それもそっか。」

 「聞いて良いかな?」
 「うん。」
 「夕方にさ、陽葵と話したんだけど。同じ会話だったのかな?」
 「さあ、答え合わせする?」
 「うん。僕、陽葵に告白したんだ。」
 「え!?」
 ストレートに言われて、びっくりしてしまう。
 「あ、やっぱり、そっちの僕との話は違う話だった?」
 「え、あ、ううん。気になってるって言われた。」
 「うん。そう言った。じゃあ、そっちの僕とここにいる僕は同じ気持ちなのかな。」
 「それは私に聞かれても……」
 「そりゃそうだ。」
 「パンツ事件ってわかる?」
 「はぅぅうう——言わないでぇ。恥ずかしすぎる。」
 「ははっ!そっちでもあったことなんだね。」
 「笑い事じゃないわよ。女の子のパンツが丸見えになったのよ。」
 「うん。ごめん。そうなんだよね。でも、僕は、そのことがあんまりわかってなかったんだ。」
 「どういうこと?」
 「あれはさ、僕としては、本当に、助けたつもりだったんだ。あのまま落ちたら、大怪我したかもしれないだろ。なのに、陽葵は僕から距離を取るようになった。」
 「あ……そっか。ごめん。」
 「違うんだ。いや、違わないけど、女の子が恥ずかしい思いをするってことが、どういうことかわかってなかった。離れていく陽葵が腹立たしくてさ。僕も意地になって話さなくなったんだ。」
 「うん。」

 「冗談ぽくでも、話せば良かった。助けてやったんだから礼くらい言えよって。そうしたら、恥ずかしくて仕方がなかったって陽葵は教えてくれたはずで、こんなに長く話さなくなるなんてことにはならなかったかもしれない。」
 
 そうかもしれない、と私も思った。恥ずかしかったんだから!って怒れば良かったのかな。

 「私も、自分のことばっかり考えてたってことだね。」
 「子供だったからで、笑い飛ばせる関係に戻れたら良いなって思ってたけど、タイミングがなくて。そこに綱で大怪我事件。」
 「こっちでも私は怪我をしたんだね。」
 「うん。血だらけだった。でも、保健室に行く時、陽葵は笑ってたんだ。大丈夫大丈夫って。」
 「うん。あの時はあんまり痛くなかったんだよね。」
 「そうかもしれないけど、退院して戻ってきた時も、やっぱり笑ってた。」
 「戻れて嬉しかったし。」
 「何にしても大丈夫なわけないんだよね。怪我の原因になった僕のことを責めても良いのに。」
 「ああ、蓮が引っ張ったんだっけ?責めるも何も、その時は知らなかったし、わざとじゃないし。」

「そうかもしれないけど、礼も言わないって怒ってた自分とは器が違うなって。誰のことも責めずに陽葵は笑うんだ。それに気付いたらもう、なんか、目が離せなくなって。」
 「んん?」

 「陽葵は、大変な時でも大丈夫って、笑うんだ。だんだん無理して笑ってる時の見分けがつくようになった。」

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