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 「パラレル?並行世界ってやつ?」
 「そう。それがパラレルワールド。起こりうるすべての結果が実際に世界として存在してるって考え方で、無限に世界が存在してるんだ。“パラレル・シフト”とは少しの選択の違いによって生まれたその並行世界パラレルワールドへ、意識のみ移動させることを言うんだ。」

 「難しい。」
 「つまり、体は移動せずに、意識だけがあちこちの世界の自分の間で移動する。」
 「私、体ごと来てるけど。」
 「うん。それはよくわからないんだけど、体が死んだから、ついてきちゃったんじゃないかな。」
 「とにかく、ここは、私の生きてた世界とは別世界ってことね。」
 「うん。多分そう言うことだと思う。ここの世界と陽葵ちゃんの世界は似てるけど少しずつ違う。この世界では陽葵が死んで、そっちの世界では僕が死んでるんだ。」
 「それで、私がここに迷い込んだと。」
 「そういうこと。」
 「どうしよう……。あっけらかんと話してるけど、これって、すごく大変なことだよね。帰らなきゃ。」
 「帰り方は探すとして、とりあえず当面の宿をどうするかだよね。」
 「ネカフェとか?」
 「身分証が要るよね。オープンテラスならお金さえ払えば居させてくれる所もあるけど、中学生がずっと居たら通報されちゃうよ。」
 「え、どうしよう。やっぱり家に、」
 「ダメだって。」
 「どうして?」
 「どうするかを決めてないからだよ。こっちの陽葵のお父さんとお母さんは、今すっごい悲しんでるんだ。そこへ君が出てったらどうなると思う?喜ぶかもしれないけど、困惑もすると思う。君はどうしたいの?」
 「どうしたいって?」
 「帰るのか、ここに残るのか。だよ。」

 ガンっと頭を殴られた気がした。
 帰る?残る?どういうこと?いや、わかってる。わかってるけど、わかってなかった。帰るっていうのは、この世界の家じゃない。本来、私が居るべき世界の家のことで、こっちの家じゃない。

 「お父さんとお母さんは、私のお父さんとお母さんじゃない?」
 「うん。残酷なことを言うようだけどさ。こっちのお父さんもお母さんも、もちろん瑠奏も俺も、君の知ってる人とは別人だよ。」

 「そっか……。」
 怖い、と思った。私はこの世界で独りぼっちなんだ。涙が溢れてくる。怖くてたまらない。

 「どうしよう、私、どうしたら良いかな。何処へ行ったら良いのかな。」

 考えるのが嫌で、泣くしかできない。私は自分のこともどうすることもできない子供だ。

 ふいに、蓮が側に来た気配がした。
 そっと抱きしめてくれる。
 「大丈夫。どうあっても、僕が助けるから。」
 
 蓮が頼もしい。この世界で私を知っているのは蓮だけ。その事実が、なんとも頼りなく、かつ、心強かった。

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