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9 覗き見
しおりを挟む「そこの男、何をしている。」
魔術師は、私の時と同じ言葉を、男にかけた。
珠を通して男の顔をよく見るが、首を傾げる。
こんなにシワシワだったかしら。
こんなに髪は白かったかしら。
こんなに疲れた感じだったかしら。
こんなにしわがれた声だったかしら。
記憶の中を探っても、こんな男は覚えがない。
魔術師は人違い、しているのではないかしら。
魔術師と男が話している。
「生まれた村へ帰りたいのです。」
「何故、帰る。」
「出稼ぎのつもりで村を出ました。気づけば30年。今になって、あのとき置いて来た女房が気になります。」
「女房はお前のことなど忘れている。」
「それならそれで、幸せになっているのを確認したい。」
「確認してどうする。」
「ただ、会いたいのです。」
「女房は会いたくないと思うだろう。」
「それでも会いたいのです。」
「忘れて街へ帰れ。」
「いいえ。愛する女房に会うまでは帰りません。」
「その女房を置いて、新しい妻子と暮らしていたのだろう。」
「子は亡くなりました。生まれても生まれても亡くなります。今の妻を見るたびに、愛しているのは村の女房だと知るのです。」
「女房も、姿形は変わっている。」
「何としても帰ると約束しました。女房はきっと待っています。」
「…」
魔術師は住居に帰って来た。
「取り引きの、貰うものを決めて良い。」
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