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2 森に踏み込む。

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魔物に食べられても構わない。
夫の亡骸が見つかった後なら。

魔術師に殺されても構わない。
夫が死んだとわかったなら。

夫の骸を見つけたら、
私も共に骸となる。

森は暗い。
森はジメジメしている。
森には道がない。

草を踏み分け街の方向へ歩く。

魔物が私を見ている。
遠巻きに見ている。

もう少しだけ。
あの人に会えたら、亡骸でも良いから、一目見られたら、そしたら私を食べてちょうだい。

前にも魔物が現れた。
グルッと囲まれた。

「旦那様、会いたかった。見つけられなくてごめんなさい。」

目を瞑って最期を待った。






しばらくしても何も起こらない。
目を開けたそこには、黒い男が立っている。

「女、何をしている。」

「夫を探しに旅に出ました。今まさに夫に会えないまま、食べられてしまうところだったのです。」

「魔物は引かせた。早々に帰れ。」
「いいえ。夫を見つけるまでは。」
「既に獣の餌となっておる。」
「ならば、その骸の隣で私もむくろとなりましょう。」

男は少し考えてから私の額に印をつけた。

「これで魔物はお前を襲わない。好きに骸を探せ。」

男は消えた。


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