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3 原因
しおりを挟む領主の話はこうだ。
数年前、まず、大きな地震があった。その地震により、大地は怒り、炎が流れた場所もあるらしい。しかし、その異変は数日で収まり、さらに数日すると風が吹き始めたのだと言う。はじめは涼しくて喜んだが、病人が出始め、気がついたら、国中で病が蔓延していたのだと言う。
「国中、ですか?」
「国中、です。この状態に気付き、中央に支援の要請をしました。そうしたら、各地で、そして既に王都でも病に倒れるものが増えていて、手が回らないとのことでした。」
「仕方がないので、倉庫の備蓄を放出して、町へはできる限りの支援をしましたが、とうとう我々もこうなってしまって。再び中央に要請を出しましたが、返事がきません。業を煮やした隣の領主が直接の出向いたらしいのですが、王都には近づくほど、惨状はひどくなり、行くことはできなかったようです。」
「なる、ほど?」
確かに、中央に向けて風は吹いているようだ。中央に行くほど淀みが大きいのかもしれない。
「ここは、土地が悪い。空気の吹き溜まりとなっていて、悪いものが溜まるのです。地震の後で風が吹き始めたと言いましたね。地震で地形が変わってしまったのでしょう。風の誘導ができれば良いのですが、どちらにしろすぐには無理でしょう。できるだけ早く移住を考えた方が良いと思います。ここへくる前に町長とも話をしたのですが、移住を訴えたらしいですね?」
領主は頷いてから、それを認めた。
「はい。そのような陳情はありました。だがしかし……。私達はここから離れる事はできません。」
「何ですって?」
「ここは、国から賜った大切な土地です。領主の私が動くわけにはいきませんし、それに、中央からの返事に、国中がおかしいとありました。移住先などあるのでしょうか。」
「確かにそうですね……。」
国中がおかしいという言葉を信じるならば、移住先などないだろう。国ごと移動するのは不可能だ。仮にできたとしても、土地の所有権がない場所などない。他の国が受け入れてくれるとは思えなかった。
「薬師様は今、土地が悪いと仰いましたね。しかし、昔はこうではなかった。風が悪いと言うことなら、風除けを建てれば自体は収束するでしょうか?」
「一時的に多少は良くなるでしょうが、結局は風除けの外側に良くないものが溜まるでしょう。そこら一帯を立ち入り禁止にしたところで、その範囲は年々広がるだけかと思います。」
「そうですか……。」
病が少し良くなったことと、原因にあたりがついたことで、領主は対策を考え始めたようだ。良いことだ。動かないなら対策を考えるしかない。
「ともかく、私はこれで宿に戻ります。この薬草をあるだけ置いていきますから、毎日煎じて飲んでください。いくらか楽に過ごせるはずです。」
宿に戻ると、町長が待っていた。
セインは領主一家も病に倒れていたことを話し、そして領主も対策を考えていたことを伝えた。
部屋に戻り、セインは考える。
「さて、どうするかな。」
セインは旅人である。この土地に留まる理由はない。むしろ関わらずに通りすぎるべきだと頭ではわかっていたが、大勢の病に苦しむ人を見てしまっては、見捨てることを心が拒む。とはいえ、簡単に自分の力を見せることはできない。
原因がおそらく風であることは伝えたし、明日にでも旅立つのが吉だろう。と、ぼんやり考えて、その日を終えることにした。
あくる日はできる限りの薬を作ってから、奥さんに礼を言って精算をしてから旅立った。
元より行き先など、何処でも良い旅だ。なんとはなしに、もう一度、領主の屋敷へ行ってみようと思った。
領主夫妻の顔色は昨日よりずいぶん良くなっている。薬が効いたようだ。
昨日話したセインの見立てや、対策などを検討して、中央に働きかけることにしたようだ。それなりに人にできることを進めているようなので、安心して旅立てると思った。
「今日、お嬢様はどうされたのです?」
姿の見えないラナお嬢様のことを尋ねると、町の診療所で看護の手助けをしているはずだと言う。
セインは心の中で舌打ちして、
(お嬢さんひとりにできることなど、たかがしれているだろうに。)
と思った。
「少し気になるので様子を見に行かせてもらいます。それから旅立つことにしましょう。」
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