婚約解消の理由はあなた

彩柚月

文字の大きさ
上 下
16 / 18

16 死の意味

しおりを挟む

 ある日、裏口に、封筒が刺さっていた。
心が跳ねた。急いで開けると、いつかのペンダントがポロっと落ちた。

 「生きていた?生きている?」

 思わず、裏口から外に出て小走りで小道を進みながら周りを見渡す。以前、そうであったように、そこに、彼が居た。

 「レイル?」
 
 レイルは確か、反乱軍でそこそこのポジションに居ると、かつてウィリアムがこの場所で言っていた。であれば、今頃政変に伴う業務で忙しいはず。こんな所に居るはずがなかった。

 「元気そうで良かったよ。」
 「どうしてここに?」

 「形見を、届けに。」

 ペンダントの意味を知って、それを手の中で握りしめながら泣いた。何が悲しいのかわからない。

 「最期の言葉を届けに。」
 
 レイルは再び口を開いてそう言った。

 「聞かせて。」
 
 「直接謝りに行けなくてごめん。と。」

 彼がそうなることは知っていた。でも、もしかしたらと希望を持っていたのか。溢れる涙は、せめて、私だけはあなたの死を望んでいなかったと、叫びの代わりに流れるように止まらなかった。

 レイルはオリヴィアを抱きしめて
 「今回のことで領地を賜った。そこに、王女と殿下の菩提を作ってある。……秘密裏に御体を運んだんだ。」

 
 数日後、オリヴィアはレイルの領地だというその土地に赴いていた。小さなお堂に2本の墓石が立っているだけの、質素なものだったが、十分に手入れは行き届いており、彼等は満足しているだろうと、そう思える。
 
 「彼等の最期は、レイルが立ち合ったの?」
 「王女は間に合わなかった。見つけた時には自分で自分の首に短刀を突き刺した格好で倒れていたよ。」

 「殿下は……しぶとくてね。なかなか見つからなくて。見つけたと思っても逃げられて。やっと姿を捉えても、ものすごく抵抗したらしくてね。牢に入れて繋いでからも、手足を引き千切る勢いで暴れるものだから、どうしたものかと報告がきて会いに行ったんだ。そうしたら、私を見て、ペンダントと言葉をオリヴィアに伝えてくれと。そのあとは大人しく処刑されたよ。最期の瞬間も、穏やかな顔をしていた。」


「自害、処刑、どちらも、どれほど、怖かったでしょうね。」

 本当に、彼らは死ななければならなかったのか。何の理由があって死んだのか。王家に生まれただけで、その責任を背負う意味があるのか。考えてもどうしようもない憤りに涙が溢れるのは仕方のないことだろう。

 時と場所が違えば、違う身分で出会っていれば、もしかしたら、オリヴィアと彼の未来もあったかもしれない。

 世の中の流れの、転換期の生贄のようだ、と思った。

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

第三王子の夫は浮気をしています

杉本凪咲
恋愛
最近、夫の帰りが遅い。 結婚して二年が経つが、ろくに話さなくなってしまった。 私を心配した侍女は冗談半分に言う。 「もしかして浮気ですかね?」 これが全ての始まりだった。

夫への愛は儚く消える

杉本凪咲
恋愛
久しぶりに訪ねてきた幼馴染は、私に愛の告白をした。 私はそれを受け入れ、彼の妻となることを決意する。 しかし半年後、彼への愛は儚く消えた。

結婚六年目、愛されていません

杉本凪咲
恋愛
結婚して六年。 夢に見た幸せな暮らしはそこにはなかった。 夫は私を愛さないと宣言して、別の女性に想いがあることを告げた。

結婚三年、私たちは既に離婚していますよ?

杉本凪咲
恋愛
離婚しろとパーティー会場で叫ぶ彼。 しかし私は、既に離婚をしていると言葉を返して……

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

処理中です...