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その日
しおりを挟む滞りなく、継承式は行われた。
恭しく現王に冠をいただいて、ディックは王太子となった。私は隣に立ち、王太子の婚約者となった。
王子は陛下の指示でこっそり式を見せられていたらしい。夢から醒めて欲しいと願ったのかしら。
現実を目の当たりにして暴れたので、王族を監禁しておく部屋に閉じ込めておいた。どうやら、同情する余地が十分にあるようなので、事情を鑑みて、断罪はしないことになった。
準備が整ったら国内の、比較的おだやかな地域に輸送されて、しばらくの軟禁される。適当期間を大人しく過ごせることができたなら、多少の制限はつくものの、自由と共に名誉王族として最低限の生活を保障する。
是非、色んな意味で立ち直ってくれたら良いと思う。
マリアさんは、どうやらロザリア様の回し者だったらしい。怖いなここの公爵令嬢。
お兄さまは早々にクレイドに帰った。ロザリア様を連れて行きたがっていたが、まだまだ手伝って欲しいので、ロザリア様に拝み倒して、私達の婚姻まで残っていただけることになった。
ロザリア様には時間を使わせて悪い事をしたかなと、思わないでもないけれど、本人も諸々を見届けたいと言ってくれたので、有り難く甘えておく。
ディックと私は、毎日忙しくてあまり会えないけれど、会えた時は今まで通り、優しいお兄さん風に接してくる。
乙女心は、もう少し恋人らしいことを望んで叫んでいるけれど、立場的に難しいので、理性で捻じ伏せる。
何より、私達は、多分、そういう恋人にはなれないまま、愛すべき家族、になって行くんだと思うと、時々、ほんのちょっとだけ切ない。
でもこれで良いんだ。
私は愛されているもの。
私だけを女性として愛してくれるって言ったもの。私も彼だけを男性として愛していく。
あの日、ただ好きですって言われるよりも、もっとすごい告白を聞いた気がした。
時折、切なくなる時は、この日のことを思い出して、自分のスイッチをいれる。
恋愛感情はフワフワしてて不安定だけど、それよりも、もっと深いところで愛しているって、そう言われたの。
婚姻式まで、あと少し。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
「王太子妃様。王太子様からお手紙が届いております。」
ーー休みを合わせて、デートをしませんか?
—終わり—
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