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意識の擦り合わせ(2)
しおりを挟む一年前まで。君が私を、特別な意味で慕ってくれていることは知っていたんだよ。でも、私は、知っていても放置していたんだ。ものすごく失礼なことだとはわかっていたけれど、私は恋がわからない。君を妹のように思っていたから、対象外だとしていたことは否定しない。そして何より君は王女様だから。知らないことにしていた方が、お互い平和に過ごせると思っていたんだ。
今回の話、アクエストに渡ることを要請された時、ああそうか。としか思わなくて。それが私に与えられた仕事なら、やるだけだと。ほんの少し、リズ達と会えなくなることが寂しくなるな、としか思わなかった。
でも、約一年。会えなかっただろう。いつもチョロチョロと周りをうろついていた君が居ないことが、その時間が、思いの他、寂しかったんだ。辛かったと言っても良いくらいだ。
「チョロチョロですか!?」
そこなの?ふふ
それで、一年ぶりに会った君は、女性になっていた。綺麗になったとか、そういうことではなくて。いや、もちろん綺麗になったよ。見違えるほど大人になった。
見た目の容姿のことではないんだ。妹みたいに思っていたはずのリズが初めて女性に見えた。
どう言えば良いのかな。
都合の良い言い方かもしれないけれど、離れていたからこそ、リズが女性なんだということに気づけたんだ。
そして同時に、一年前まで感じていた、気安さというか懐かしさというか。もう家族のように受け入れていたリズがそこに居ることに安堵したんだ。
公爵令嬢とリズ。どちらかと婚姻する。これは理解していたし、納得もしていた。いつもと同じように、それが道なら受け入れるだけだと。それなのに。
先日、私を好きだと言ってくれただろう?あの夜は、本当に、リズに会えたら良いなと思って、この辺りまで来ていたんだ。
あの時から、私の中で、君と婚姻する以外の可能性に対して拒否感が芽生えた。
公爵令嬢が嫌なわけじゃない。それでも彼女との未来が決まったなら、私はそれを受け入れて、彼女を大切にするつもりだったし、その自信もある。
でも、もしも、リズとの未来を選択することができるのなら、烏滸がましいことだけれど、私に選ぶ方法があるのなら、リズを選びたいと思ったんだよ。
それで、例の人に、薬を使おうとした。
「薬…ですか?」
そう。できなくするやつ。
「あ…」
元々、その作戦もあると、準備はしてあったんだ。ただ、薬を使うにはオリヴァーの許可が要る。だから頼んだ。
そうしたらね。既に薬は盛られていたんだよ。
「え?」
最初から、この挿げ替えの計画の段階から、私とリズのことは決まっていたんだ。
「それは…私も今日、ロザリア様に聞きました…」
そうか。それなら話は早い。
はっきり言って、当事者の私達に内緒にして事を進めるなんて、あの2人には怒りが湧くよ。
だけど、もしも、最初からわかっていたら、私は未だ、妹と一緒に暮らす、くらいの気持ちのままだったかもしれないとも思う。気付かせてくれたのだと思って、少しは感謝しようかな。
オリヴァーにも言われてね。恋ではないだろう、家族愛や庇護欲ではないのかと。流石お兄さんと言ったところかな。あれでもリズのことを心配しているようだよ。
「それで…どうなのですか?」
うん。正直に言うよ。わからない。
「うっ…」
ごめん。リズには嘘をついてはいけないと思うんだ。だから、泣かせて悪いんだけど、でも、最後まで聞いて欲しい。
まだ、オリヴァーとの話の続きがあってね。私の両親は仲が良いんだ。恋愛感情は、いずれ昇華して家族愛になると、うちの両親は言っている。
それなら、私はもう、リズを家族として見ることができているんじゃないかと思うんだ。それにリズが女性に見える。私は、リズを抱ける。
「…そんなことっ!」
うん。恥ずかしいことを言ってごめん。でも大事なことだよね。リズと男女になれるかどうかは。なれる。私は君に欲情する。
「……っ」
そして、縁があってここにいる。
これは運命と言えると思う。
君が良いんだ。どうせなら、仕方なく結ぶ縁だからと受け入れるのではなく、縁があって良かったことを喜んで、リズと結ばれたい。
恋なのと問われたら、やっぱりわからないんだ。でも、愛している。そして、君をいつも一番に想っていく自信もある。
君が良いんだ。リズ。
ちゃんと、女性として愛している。
女性として愛するのは、死ぬまで君だけだと誓うよ。
これじゃあ、君の気持ちに応えたことにならないかな?
「じゅうぶん、です…っ!」
ボロボロ涙を流す私を、ギュウッと抱きしめてくれた。
「リズ、愛してる。」
「私も、あいしてますっ!うぇーん」
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