皇女は隣国へ出張中

彩柚月

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裏工作

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「話がある。」

些か顔色のすぐれないディックに声をかけらたオリヴァーは面倒な予感を覚えながら、この生真面目で優しい幼馴染に顔を向けた。

「どうした?」

「リズに泣かれた。」

ディックはリズが想像以上に疲れているらしいこと。告白まがいのことを言われたことわぽつぽつと話した。

「…そうか。妹が迷惑をかけた。」

妹の恋情は知っていたけれど、なんとか上手く折り合いをつけているのだと思い込んでいたオリヴァーも、チクリと罪悪感を覚えた。


「大丈夫だ。だが、リズを助けてやりたい。だから…バカリチャードに盛ろうと思う。」


「は?!何?!」


「要は期限までにできなきゃ良いんだからな。」


「いや、ちょっと待て」


「いや。待たない。元々その可能性も考えていただろう。その準備を使うだけだ。勝手に使うわけにはいかないから報告しているだけで許可は求めていない。」


「いやいや。許可は求めろよ。
あのなぁ…一応この件は、私に采配の権限があるんだぞ?お前が勝手に判断して良いことではないはずなんだが。」


「だから報告をしている。こうなった以上、貴方も共犯だ。」


「おーい落ち着け。理性の世界へ帰ってこい。」

ディックの視線はまっすぐにオリヴァーを射抜いている。迷いはないようだ。この幼馴染は昔からこうだ。普段は虫も殺せないような優しげな態度であるのに、時々大胆な行動をする。

「はぁ…」
「お前…よく考えたのか?妹のように可愛がっている子への同情や哀れみなんかではないのか?」


言われて少し考えるディックに不安しかない。この男は、柔和で落ち着いて見えるが、内面は感情的で苛烈なのだ。やると言ったらやるだろうが、子供の悪戯ではないのだ。可愛いだの可哀想だの、そんな感情的なことで行動をおこすわけにはいかない。確認作業は必要だ。


「どうなんだ?可愛い妹分が泣いていたからいじめっ子に仕返してやるような短絡的な感情で動いているなら、許可はできない。なにせ、こちらとしてはどちらに転んでも構わないのだから。古塔の最上階の姫になってしまうリズは今よりももっと孤独になってしまうのだからな。リズだって、そうなるくらいなら一時的に心が傷もうと、戻って穏やかに癒される方が長い目で見れば幸せだろう。」

「事を起こしてしまったら、その後、リズの身柄はお前に託される。成り行きでそうなるならともかく、意図的に、お前の意思で、リズの確実な未来の平穏を摘み取るその状況を作るのなら、私は、父上も弟達もだ。お前に誠意を求めるぞ?」

もう一度聞く。

「リズを女性として愛していけるのか?」

今更ながら、よく考えているようだ。視線を斜めに固定しながら暫くの沈黙した後、

「…わからない。」

と呟いた。

「なら無理だ。薬は使わせない。」


「言われる事はもっともだ。リズを今までそんな風に見たことがなかった。昨夜も泣きじゃくる彼女を見て…そうだな。可哀想。助けてやりたい守ってやりたいと思ったんだ。」


「それは庇護欲だろう?リズは確かにお前に恋慕しているようだが、周りはあえてそれに気付かない扱いをしてきた。あれでも皇国の作り上げた皇女という名の作品だからな。古塔の姫になる覚悟は叩き込まれている。」


「作品だなんて、そんな言い方「だが事実だ」…っ」


「それが、上に立つ者の郷というものだ。感情に触れればもっと悲しむことになる。妹も十分わかっているから、忘れてくれと言ったのだろう?」

黙り込むディックを見て、またしても罪悪感が湧いてくる。酷いことを言っている自覚があるからだ。こいつはバカじゃない。一時の感情に身を任せて動けないことはわかっているはず。だからこの役を飄々と受け入れたのだろうし、妹にも何の明言もしていないのだ。…と信じたい。

まさか、何となく、ペットを可愛がるように上から目線で拾い上げてやりたいから何も言わなかったわけではない…はず。

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