18 / 26
裏工作
しおりを挟む「話がある。」
些か顔色のすぐれないディックに声をかけらたオリヴァーは面倒な予感を覚えながら、この生真面目で優しい幼馴染に顔を向けた。
「どうした?」
「リズに泣かれた。」
ディックはリズが想像以上に疲れているらしいこと。告白まがいのことを言われたことわぽつぽつと話した。
「…そうか。妹が迷惑をかけた。」
妹の恋情は知っていたけれど、なんとか上手く折り合いをつけているのだと思い込んでいたオリヴァーも、チクリと罪悪感を覚えた。
「大丈夫だ。だが、リズを助けてやりたい。だから…バカに盛ろうと思う。」
「は?!何?!」
「要は期限までにできなきゃ良いんだからな。」
「いや、ちょっと待て」
「いや。待たない。元々その可能性も考えていただろう。その準備を使うだけだ。勝手に使うわけにはいかないから報告しているだけで許可は求めていない。」
「いやいや。許可は求めろよ。
あのなぁ…一応この件は、私に采配の権限があるんだぞ?お前が勝手に判断して良いことではないはずなんだが。」
「だから報告をしている。こうなった以上、貴方も共犯だ。」
「おーい落ち着け。理性の世界へ帰ってこい。」
ディックの視線はまっすぐにオリヴァーを射抜いている。迷いはないようだ。この幼馴染は昔からこうだ。普段は虫も殺せないような優しげな態度であるのに、時々大胆な行動をする。
「はぁ…」
「お前…よく考えたのか?妹のように可愛がっている子への同情や哀れみなんかではないのか?」
言われて少し考えるディックに不安しかない。この男は、柔和で落ち着いて見えるが、内面は感情的で苛烈なのだ。やると言ったらやるだろうが、子供の悪戯ではないのだ。可愛いだの可哀想だの、そんな感情的なことで行動をおこすわけにはいかない。確認作業は必要だ。
「どうなんだ?可愛い妹分が泣いていたからいじめっ子に仕返してやるような短絡的な感情で動いているなら、許可はできない。なにせ、こちらとしてはどちらに転んでも構わないのだから。古塔の最上階の姫になってしまうリズは今よりももっと孤独になってしまうのだからな。リズだって、そうなるくらいなら一時的に心が傷もうと、戻って穏やかに癒される方が長い目で見れば幸せだろう。」
「事を起こしてしまったら、その後、リズの身柄はお前に託される。成り行きでそうなるならともかく、意図的に、お前の意思で、リズの確実な未来の平穏を摘み取るその状況を作るのなら、私は、父上も弟達もだ。お前に誠意を求めるぞ?」
もう一度聞く。
「リズを女性として愛していけるのか?」
今更ながら、よく考えているようだ。視線を斜めに固定しながら暫くの沈黙した後、
「…わからない。」
と呟いた。
「なら無理だ。薬は使わせない。」
「言われる事はもっともだ。リズを今までそんな風に見たことがなかった。昨夜も泣きじゃくる彼女を見て…そうだな。可哀想。助けてやりたい守ってやりたいと思ったんだ。」
「それは庇護欲だろう?リズは確かにお前に恋慕しているようだが、周りはあえてそれに気付かない扱いをしてきた。あれでも皇国の作り上げた皇女という名の作品だからな。古塔の姫になる覚悟は叩き込まれている。」
「作品だなんて、そんな言い方「だが事実だ」…っ」
「それが、上に立つ者の郷というものだ。感情に触れればもっと悲しむことになる。妹も十分わかっているから、忘れてくれと言ったのだろう?」
黙り込むディックを見て、またしても罪悪感が湧いてくる。酷いことを言っている自覚があるからだ。こいつはバカじゃない。一時の感情に身を任せて動けないことはわかっているはず。だからこの役を飄々と受け入れたのだろうし、妹にも何の明言もしていないのだ。…と信じたい。
まさか、何となく、ペットを可愛がるように上から目線で拾い上げてやりたいから何も言わなかったわけではない…はず。
41
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる