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顔なんて覚えてない
しおりを挟む「なぜ却下した!」
大きな音を立てて執務室の扉を開けて入って来た無礼な男はいきなり怒鳴った。
メイドはオロオロしている。侍女に目線を送ると目線が返ってきた。どうやらこの無礼な男はリチャード殿下のようだ。こんなお顔だったかしら。忙しいのに。
思わず口から出た言葉は
「礼儀という言葉をご存知ありませんか?」
しまった。と思いつつも、出てしまったものは仕方がない。
「なんだと?」
「いいえ。何でもありません。何の御用ですか?」
聞こえてなかったようなので、何事もなく澄まして先を促す。メイドにお茶は出さなくて良いと手振りで伝える。
「ドレスと宝飾品を買うと申請しただろう!なぜ却下した!」
もはや隠すことなく溜息を吐きながら
「ええ。出されていましたね。しかしそれが必要な理由の記載がありませんでしたので却下しました。何か問題が?」
「あるに決まっているだろう!すぐに許可を押せ!」
「理由が書いてないとお伝えしたはずですが。」
「マリアが欲しいと言った!それで十分だ!だいたい、何故私の金が私の自由にならないのだ!私は王太子だ!」
「そうですね。王太子です。あなたの予算は既に使い切ってしまっているでしょう。これ以上を捻出するには相応の理由が必要です。それにお金がないから私がここに居るのでしょう?そうでなければこの席に座っているのはこの国の公女だったはずなのでは?」
この男は何故自分の立場がわかっていないのだろう。あくまでも暫定王太子なのに。
「ともかく。どちらにしろ私達が使っているお金は税金です。自由に使うのが無理なことは王族なのですからわかっているでしょう?必要のないものを買うお金はありません。」
「金がないからお前が来たのではなかったのか?今自分でそう言っただろう!」
「その通りですが。」
「なら金を出せ!」
はぁ?この男は何を言っているのかわからない。
お小遣いを使い切っておいて足りないからもっと出せとは、そこら辺のお子様達よりも頭が悪いのではないかしら。
だいたいもってこの人は、自分の立場をわかっていないのかしら。
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