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 「疲れたでしょ。お茶を飲んだら着替えてもう休むと良いよ。」
 「ほとんど寝てたような気もするし、疲れるようなことはしていないのに疲れてるわ。不思議ね。」
 
 「慣れない空間に居たってだけで疲れるんだよ。」
 「そうなのね。じゃあそうするわ。」



 部屋にひとり取り残されたメラニアは、ベルと話したことを思い返した。

 周りが見えなくなって薙ぎ倒しながら進んでしまう。セオドアとリリィが恋していたのだとしたら、私は薙ぎ倒されたってことなのしら。周りが傷つくことに気付けずに、自分達の気持ちだけを優先してしまう。それが恋なら、なんて恐ろしいものなのだろう。

 恋愛小説で読んだ恋はもっと切なくて楽しくて美しいものとして描かれていた。それは本人達から見た世界であって、周りの人にとっては迷惑でしかないのかしら。

 「わからないわ。恋をするってどんな感じなのかしら。」

 ベルは否定的だったけれど、やっぱり恋してみたい。と思う。

 

 次の日、メラニアはおじいちゃんに、そのことを話てみた。あっさりと返事がくる。

 「恋は1人ではできないから、出会いを求めて旅に出るしかないの。そして色んな場所で色んな人と話して触れ合って、住みたい場所があればそこに住めば良いし、疲れたり、もう見たいものは全て見たと満足したら、神聖国へ帰ってこれば良い。私とメラニアは大樹の元でいつでも会えることだし、気軽に行きなさい。」

 あ、本当だ。いつでも、何処にいても、この大樹の元へは来れる。世界を恐れる必要はなかった。私は今まで何を恐れて引きこもっていたのかしら。

 「苗木も育ったしね。旅立つ準備をするわ。」
 そう言うと、おじいちゃんは目を細めて、
 「良いことだの。最初に行く場所はよく考えて行きなさい。」
 
 「え、なぜ?」
 「そりゃあ、適当に歩いては何処にも辿り着けないからの。知らずに国と国の間を通り過ぎたらどうするのじゃ?」
 
 「……なるほど。地図をよく見なくちゃ迷っちゃうわね。」
 
 フォフォと、笑って、
 「荷物はここへ置いておけば良いのだから、何処へでも軽装で行けるのは我々の特権じゃの。」

 なるほど。
 ここは世界を繋ぐ空間。
 わかってたつもりでわかっていなかった。何処へでも行けるって、精神的なことかと思っていた。本当に物理的に何処へでも行ける。

 改めて、自分の血の貴重さに気づいたメラニアは、今までの時間を無駄に過ごしていた気がして、
 「もっと早く逃げてこれば良かったわ。」
 と呟いた。

 「それも巡り合わせのひとつじゃの。心が今だと言ったから、このタイミングだったのじゃ。今でなければ会えなかった人も居ろうの。」

 なんだかやる気に満ちている。未来は楽しいことが沢山ある気がする。苗木を持ち出して、神官に渡すと、うやうやしくお辞儀をして受け取ってから持っていってしまった。

 「何処へ持っていくの?」
 「あれは、基本、1番外のトネリコの森に植えるのじゃ。そうすれば、円環の森が内側の神聖国の清浄を守り、外側に向けては神聖国から漏れる浄化の力が恩恵を与える。だから、この国は丸いのじゃ。」

 なるほど。国の形も色々考えて作ってあるんだ。シルフィはどうだったかしら。他の国も意図があって街並みができているのかしら。

 知りたい。これもに入るかしら。

 「十分な動機じゃよ。」
 おじいちゃんは快く賛成してくれた。
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